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松田華音 ピアノリサイタル金沢公演
2017年11月11日(土)15:00〜 北國新聞赤羽ホール |
チャイコフスキー(リスト編)/歌劇「エフゲニー・オネーギン」〜ポロネーズ
プロコフィエフ/「ロメオとジュリエット」から10の小品, op.75
ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」
(アンコール)ムソルグスキー/古典様式による間奏曲
(アンコール)パッヘルベル(藤満健編曲)/カノン
●演奏
松田華音(ピアノ)
北國新聞赤羽ホールで,松田華音さんのピアノリサイタルが行われたので聞いてきました。松田さんは6才の時にロシアに渡ってピアノの勉強をし,現在,モスクワ音楽院に在籍されている方です。学生とはいえ,すでにCDアルバムを2枚発売し(しかもドイツ・グラモフォンから),テレビ等にもよく出演されています。注目の若手ピアノ奏者と言えます。
その松田さんによるオール・ロシア・プログラムということで,これまでロシアで研鑽を積んできた成果をしっかりと聞かせてくれるような素晴らしいリサイタルとなりました。
プログラムは,松田さんの最新のCDと同じ内容で,前半がチャイコフスキーとプロコフィエフの編曲もの。後半がムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」でした。
https://www.japanarts.co.jp/news/news.php?id=2671
松田さんはまだ若い方で,名前の雰囲気どおり,華やかで可憐な雰囲気があったのですが,ステージ上での視線には強さがありました。演奏にも,しっかりと曲の本質を射貫くような強さと説得力がありました。硬質で引き締まった低音,切れ味の良い打鍵,きらめくような高音...どの曲についても,大変バランスの良い,完成度の高い演奏を聞かせてくれました。
特に良いと思ったのは音です。例えばプロコフィエフの曲については,打楽器的で冷たい感じが漂っており,それが魅力でもあるのですが,松田さんの音については,硬質感一辺倒ではない,ふくよかさのようなものや奥行きを感じました。
今回は,きらめくようなキレの良さをもった,チャイコフスキー作曲,リスト編曲によるのポロネーズの後,10曲ぐらいなる組曲が前半と後半に演奏されるという独特のプログラムでしたが,松田さんの演奏からは,曲想の多彩な描き分けと同時に一本筋の通った統一感を感じました。散漫な感じは無く,前半後半ともに,ロシアの大曲を聞いたという充実感が広がりました。
プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」では,次の10曲が演奏されました。
- フォーク・ダンス
- 情景
- メヌエット
- 少女ジュリエット
- 仮面
- モンタギュー家とキャピレット家
- 僧ローレンス
- マーキュシオ
- 百合の花を手にした娘たちの踊り
- 別れの前のロメオとジュリエット
CM等でも使われたことのある「モンタギュー家とキャピレット家」では,ふやけることの堂々とした低音と中間部でのひんやりとした肌触りの対比が印象的でした。「少女ジュリエット」や「マーキュシオ」といった曲では,軽快なスピード感が素晴らしく,松田さんの実年齢にぴったりの若々しい気分が伝わってきました。
その他の曲についても,明快なタッチで生き生きとした打楽器的な迫力を聞かせる曲,怪しい奥深さを持った曲,叙情性を感じさせる曲...など多彩な気分を感じさせてくれました。特に最後に演奏された「別れの前のロメオとジュリエット」での平和への祈りを感じさせる静けさが印象的でした。ファンタジーの世界へと広がって行くようなスケールの大きさも感じさせてくれるような演奏でした。
後半に演奏された「展覧会の絵」では,若々しく明快に始まったプロムナードの後,思う存分,かつ丁寧に各曲を弾き切っており,すがすがしさを感じさせてくれました。
「小人」での強靭なタッチによる雄弁さ,「古い城」でのタッチの美しさ,「テュイルリーの庭」での軽妙さ。そして,「ビドロ」では,強靭さと美しさが共存した堂々たる音楽を聞かせてくれました。音楽に迷いがなく,隅々まで磨かれた演奏だったと思います。一方,「卵の殻をつけたひなどりのバレエ」では,非常に軽やかな弱音で演奏されていました。中間部でのインスピレーションに溢れた自在さも素晴らしいと思いました。その後の曲でも,荒っぽくならない強音,繊細な高音...と安定感のある細部まで磨かれた音楽が続きました。
「バーバ・ヤーガ」では,挑むようなテンポ感が素晴らしく,聴いていて気持ち良さを感じました。そして,最後の「キエフの大門」では,ストレートに音楽が盛り上がって行きました。途中出てくるロシア風のメロディにも味わい深さがありました。最後の方については,もう少しテンポが速い方が今の華音さんには合っているかなとも思いましたが,全曲を通じて,曲の勢いとすみずみまで磨かれた精緻さとが両立した素晴らしい演奏だったと思います。
アンコールは2曲演奏されました。まず,ムソルグスキーの「古典様式による間奏曲」というマイナーだけれども非常に「聞かせる曲」が演奏されました。シリアスで重い雰囲気の前半と軽妙さのある後半の対比がとても面白い曲でした。
次にパッヘルベルのカノン(藤満健編曲版)が演奏されました。しっかりと華が開いていくような,華麗な「華音」となっていました。こういう名刺代わりになるような曲を持っているのは良いですね。
今回,お客さんの数があまり多くなかったのが少々意外で,残念でしたが,これからどんどん活躍の場を広げていくことを期待したいと思います。リサイタルに加え,特にロシアものの室内楽公演が金沢で行われることに期待したいと思います。
PS. 今回,印刷されたプログラムとしては,演奏曲目がワープロで打たれた「紙」が1枚入っていただけでした。立派過ぎるものは不要ですが,松田さんのスター性溢れる雰囲気からすると,かなり淋しい感じがしました。
(2017/11/18)
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北國新聞社前に出ていたデジタルサイネージ

開演前はものすごい雨でした。

これから赤羽ホールに登場するピアニストのチラシです。
終演後,サイン会に参加

松田さんのデビューアルバムです。筆跡が大変美しいサインでした。ちょっとヴァイオリニストの諏訪内晶子さんと似た雰囲気のあると思いました。
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