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音楽堂室内楽シリーズ:OEKチェンバー・コレクションU
2017年11月21日(火) 19:00〜石川県立音楽堂交流ホール

1) ヒンデミット/5つの管楽器のための小室内音楽, op.24-2
2) トゥイレ/六重奏曲変ロ長調, op.6
3) ニールセン/木管五重奏曲, op.43
4) プーランク/六重奏曲, FP 100
5) (アンコール)ラヴェル/クープランの墓〜リゴードンの一部

●演奏
松木さや(フルート),加納律子(オーボエ),遠藤文江(クラリネット),柳浦慎史(ファゴット),金星眞(ホルン),鶴見彩(ピアノ*2,4,5)



Review by 管理人hs  

音楽堂室内楽シリーズ:OEKチェンバー・コレクションUが石川県立音楽堂交流ホールで行われたので聞いてきました。今年度のこのシリーズでは,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の各パートをしっかり活用した「やや大きめの室内楽曲」が取り上げられることが多いようです。今回は,木管五重奏曲と木管五重奏+ピアノの曲ばかりが並んだ,充実のプログラムでした。

今回登場したメンバーは上記のとおりですが,プログラムに書かれたプロフィールを読みながら「東京芸大の出身者が6人中5人だなぁ」と変なところに注目してしまいました。

この日は,上の階(コンサートホール)では,神尾真由子さん,平野加奈さんとロシアの交響楽団がチャイコフスキーの協奏曲を共演する演奏会が行われていましたので,そちらに敢えて行かなかったお客さんばかりということになります(私の場合,経済的な理由もありますが)。今回のメンバーとプログラムの「豪華さ」を理解するお客さんばかりということで,とても暖かな雰囲気があったと感じました。

木管五重奏は,弦楽器を中心とした室内楽曲に比べるとあまり親しまれていないと思いますが,今回のプログラムを聞いて,その多彩さをしっかり感じることができました。司会のファゴット奏者の柳浦さんが「プログラムのメインになるような曲を4つ並べた。演奏する方も聞く方も大変です」と語ったとおり,充実感のあるプログラムでした。

今回演奏された4曲のうち,トゥイレとプーランクには,ピアノが入りました。そして,4曲の中では,いちばん知られていない作曲家,トゥイレの曲がいちばん聞きやすく,オーソドックスなまとまりのある曲だったと思いました。この曲を聞くのは2回目ですが,ブラームスの曲を思わせるようなシンフォニックな気分がありました。4楽章構成で全体で30分ほどかかりましたが,爽やかな空気に満たされたような気持ち良さがあり,全く退屈することなく楽しむことができました。

第1楽章の冒頭をはじめ,ホルンがしっかりと活躍するのは,R.シュトラウス的な感じもありました。柳浦さんのトークによると,シュトラウスの友人だったとのことですが,この時代の曲には,結構,木管アンサンブルの名曲が多いですね。ピアノが全体をしっかり支える上で,ハモったり,ユニゾンになったり,メロディを受け渡したり,こういうパーツがしっかり組み合わさっているのが,良いなぁと思いました。

第2楽章のじっくりと聞かせる「歌」の世界。第3楽章もまたオーボエを中心に哀愁を持った魅力的なメロディ。華やかなおしゃべりのような気分になったり,色々な魅力が詰まっていました。

第4楽章は,タンギングずっと続くタランテラのような感じの楽章で,生き生き,キラキラとした音楽が続きました。演奏終了後は,演奏者と一緒になった「お疲れ様,にっこり」という気分を味わうことができました。交流ホールの場合,ステージが非常に近いのでそういう感じになりますね。

ほとんど知られていない大曲でしたが,この分野では,屈指の名曲ではないかと思いました。

最初に演奏された,ヒンデミットの作品は,タイトルどおり,もう少し小さく凝縮されたような雰囲気の音楽でした。一つのモチーフが何回も繰り返されて,がっちりと積み重ねられていく感じが,ヒンデミットらしいなと思いました。第2曲では,フルートの松木さんがピッコロに持ち替えて演奏していました。しっかり音が溶け合っているのが良いなぁと思いました。

じっくりと濃密な音楽が続き,次第に「ボレロ」のような感じになってくる第3曲,いらつくようなフレーズが続く第4曲の後,広がりと推進力をもった第5曲で華麗に締められました。

ニールセンの曲については,柳浦さんは,「ニールセンは,晩年はやや精神を病んでいた」と言われていたとおり,曲の中にもそのことが反映されていた気がしました。のどかな気分で始まったかと思ったら急に激しく叫ぶような感じになるなど,少々捉えどころのない作品でした。ただし,個人的に妙に引かれる作品でした。

第2楽章は普通のメヌエットだったのですが,「どこか変?」という感じでした。最終楽章は,前奏的な部分の後,変奏になりました。この前奏の部分は,非常に混沌とした感じでしたが,各楽器の迫力たっぷりの音を楽しむことができました。確かオーボエの加納さんはイングリッシュホルンに持ち替えて演奏していたと思います。

変奏の部分も,かなり感情の変化の起伏が大きいものでした。主題は,讃美歌を思わせるような清らかな感じでしたが,その後,次々と不思議な変奏が出てきました。この何か出てくるか分からないような雰囲気に現代性を感じました。そして最後は,主題が再現する感じで,明るく終了。

最後に演奏されたプーランクの六重奏曲は,今回のプログラムの中でいちばん有名な曲で,私自身,唯一CDを持っている曲です。冒頭から,生き生きした音の動きと,ちょっと野性味を持った迫力と,甘く夢見るような雰囲気とが交錯し,プーランクの作品の中でも特に素晴らしい作品だと思いました。

生演奏で聞くと,特にその音の動きの面白さが生々しく伝わってきます。キラキラするようなフルート,オーボエ,クラリネットの高音も印象的でしたが,低音からグッと盛り上がってくるようなホルンやファゴットの音も良いなと思いました。第1楽章の最後の方,一瞬終わったように見せかけて,その後も音楽が続くあたりのウィットもプーランクらしいと思いました。

第2楽章には,幸福感が溢れ,第3楽章はちょっと「ケークウォーク」を思わせるような生き生きとしたおどけた感じが印象的です。どこか「象のババール」を思わせる夢見るような感じもあったり,色々な音が飛び交っていました。

曲の最後の部分は,テンポをぐっと落とし,余韻をたっぷりと楽しむ雰囲気になりました。もしかしたら,演奏する方にとっても非常に大変だった今回のプログラムの余韻を皆さんしっかりと噛みしめていたのかもしれませんね。みなさま,お疲れ様でした。

アンコールでは,ラヴェルの「クープランの墓」の終曲の一部がキリッと演奏されました。木管五重奏の世界はまだまだレパートリーがありそうなので,是非続編に期待したいと思います。とりあず,「クープランの墓」の全曲に期待したいと思います(今回のは編曲版でしょうか?)。

今回の編成と同じ室内楽グループでは,世界的には「レ・ヴァン・フランセ(フランスの風)」が有名ですが,この際,今回のチームにも何かグループ名を付けて活動して欲しいなと思いました。「金沢の空(Le ciel de Kanazawa)」とかどうでしょうか。

(2017/11/26)



公演のポスター。この日は交流ホールのサイドから入る形になっていました。


久しぶりに客席の方が階段状になっていました。階段の方で見ようと思ったのですが,やはり腰が疲れそうなので,前の方に座席で聞きました。


終演後,ホテル日航金沢方面へ。季節ごとのフラワーアレンジメントも切り替わっていました。