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PFU創立30周年記念クリスマス・チャリティコンサート
2017年12月9日(土) 15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) モーツァルト/歌劇「劇場支配人」序曲, K. 486
2) ハイドン/チェロ協奏曲第1番ハ長調 Hob. VIIb-1
3) チャイコフスキー/組曲第4番ト長調,op.61「モーツァルティアーナ」
4) チャイコフスキー/ロココ風の主題による変奏曲, op.33
5) チャイコフスキー/6つの小品, op.19〜第4曲「夜想曲」
6) サン=サーンス/組曲「動物の謝肉祭」〜「白鳥」(弦楽合奏とハープ伴奏用に編曲されたもの)

●演奏
広上淳一指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング),ミッシャ・マイスキー(チェロ*2,4-6)



Review by 管理人hs  

毎年12月恒例のPFU主催のクリスマス・チャリティコンサートは,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の設立当初からずーっと毎年のように開催されている伝統ある演奏会です。今年はPFU創立30周年のアニバーサリー・いやーということで,スペシャル版となり,世界でもっとも有名なチェリストの一人,ミッシャ・マイスキーと広上淳一指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が共演しました。定期公演では実現していない,夢の共演が実現しました。

#ただし,調べてみると,数年前のシュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭ではマイスキーさんとOEKは共演しています。潮博恵さんのブログに次のような記事がありました。
http://blog.ushiog.com/index.php?QBlog-20130809-1

前半後半とも,マイスキーさんの独奏が入る曲が最後に演奏されていたので,「マイスキーさんが主役」という内容の演奏会でしたが,曲の雰囲気に統一感があったので,とてもまとまりの良い構成になっていました。特に,マイスキーさんのニュアンス豊かで情熱を秘めた音をしっかり味わうことができました。

私自身,マイスキーさんの演奏を生で聴くのは,今回が3回目だったのですが,過去2回については,結構後ろの座席で聞いたせいか,実はあまり印象が残っていません。今回もそれほど聞きやすい席ではなかったのですが(今回,座席は自分では選ぶことができず,少々苦手な(斜めになって聞くのが苦手なのです)バルコニー席でした),音の方はよく聞こえました。改めて,素晴らしいチェリストだと思いました。

前半のハイドンのチェロ協奏曲第1番は,「地味にすごい曲」です。第1楽章は,屈託なく始まるのですが,さりげなく技巧的で,特に第3楽章は,超絶技巧的な感じになります。

第1楽章は,のどかで朗らかな気分で開始した後(背中から見ていただけですが,広上さんの表情が思い浮かぶようでした),透明で瑞々しい弦楽器の音が続きました。マイスキーさんのチェロの音には輝きがあり,特にぐっと音を弱くして意味深さを感じさせてくれるのが印象的でした。あらゆる部分で陰影を感じさせてくれるような演奏でした。高音部はちょっと音程が甘い感じもしましたが,ひっそりと囁くような艶っぽさがあり,聞かせるなぁと思いました。

第2楽章ではしっかりとした歌を聞かせてくれました。OEKの演奏と一体となった,呼吸が深く,息長く続くチェロの歌を堪能できました。切なさと端正さが同居しているのがとても良いと思いました。

第3楽章は,あまり間をおかず始まりました。挑みかかるような速いテンポで,広上さん指揮OEKと一体になって,野性味のある演奏を聞かせてくれました。交響曲でもそうですが,ハイドンの急速な楽章については,野性的があると気分が盛り上がります。この楽章では,マイスキーさん自身,「指揮をしたそう」な動作を見せていましたが,OEKと一緒になって盛り上がっている感じが伝わってきました。

部分的にはちょっと粗いかなと感じさせる部分もありましたが,どの楽章についても,表現意欲とニュアンスの多彩さ,そして歌に溢れた演奏を聞かせてくれました。

後半の最後に演奏された,チャイコフスキーの「ロココ変奏曲」の方は,さらにこなれた「十八番」といった演奏でした。広上/OEKによる,センシティブで憧れに満ちた序奏がまず印象的でした。意外に速いテンポで,「これから何がどんな物語が始まるのだろう?」と思わせるような,流動的な雰囲気がありました。

その後,マイスキーさんの独奏で,くっきりと確信に満ちた主題が始まりました。その後,さり気なく深い表情を持った変奏が続きました。この曲でも弱音でじっくりと演奏される変奏での意味深さが素晴らしいと思いました。バレエ音楽の一場面を観ているような,陶酔感が会場いっぱいに広がりました。テノールによる,オペラのアリアそのままのような輝きとドラマを感じさせる変奏があったり,深さとシリアスさを持ったモノローグがあったり...20分程度の時間の中に様々な音のドラマが詰め込まれていました。

木管楽器が活躍するのはいかにもチャイコフスキー的で,センチメンタルな気分で,マイスキーさんと絡む部分も聞きものでした。

急速なテンポで演奏された,最後の変奏は,さすがに演奏するのは大変そうでしたが,最後の最後の部分では,少しテンポを落として,歌舞伎の名優が見得を切って,決め台詞を言うような語り口の上手さを堪能できました。気迫のエンディングでした。

マイスキーさんの髪の毛のボリュームは相変わらずでしたが,色の方はすっかり真っ白になっていました。ただし,前半は白のドレスシャツ,後半は鮮やかな青のドレスシャツと,ファッショナブルな雰囲気があるのもこれまでどおりで,スター奏者の格好良さを感じました。演奏の方も,気力に満ちており,さらに円熟味を増しているなと感じました。こういうマイスキーさんとOEKの共演を聞くことができ,とても良かったと思いました。

その他のOEK単独で演奏された曲も楽しめました。

最初に演奏されたモーツァルトの「劇場支配人」序曲は,現在の「題名のない音楽会」で,テーマ曲として使っている曲ですね。意外に実演では聞く機会のない曲です。広上さんのテンポ設定は,大変どっしりとしたもので,大船にのった気分で,「ゴージャスに開幕」といった気分を伝えてくれました。

広上さんは,小柄な方なのですが,その分,指揮の動作がとても大きく,手を大きく広げたり,伸ばしたりする動作を観ると,ちょっと体操をしているようにも見えます。これは悪い意味ではなく,見ているだけで躍動感が伝わってくる,とても分かりやすい指揮だと思います。来年の春の「楽都音楽祭」でも,この指揮を見られるのが大変楽しみです。

後半最初に演奏された,チャイコフスキーの「モーツァルティアーナ」は,チャイコフスキーがモーツァルトの曲をオーケストラ用に編曲した組曲です。最初の3曲が短く,4曲目だけが10分以上かかる変奏曲という,少々変わった構成の曲です。「ロココ変奏曲」の方も,古典志向の曲でしたので,取り合わせはとても良いと思いました。

とても聞きやすい曲でしたが,オーケストレーションすることによって,言葉は少々悪いですが,「のんべんだらり」とした緩い雰囲気になっていると思いました。特に最後の変奏曲がそういう感じでした。しかし,そこがまた良いところで,木管楽器を中心とした各楽器の語らいを楽しむことができました。

最初の3曲では,微笑みと大らかさと平和な気分が溢れていました。第3曲は有名な「アヴェ・ヴェルム・コルプス」の編曲版です。オリジナルの合唱版だと「天上からの声」といった神聖さがありますが,チャイコフスキー版だともっと親しみやすい気分が増します。ティンパニも最後の方に入っていたので,シベリウスの「アンダンテ・フェスティーヴォ」などに通じるような壮大さもあるなと思いました。

最後の変奏では,鼻歌的な雰囲気のあるテーマに続き(ロココ変奏曲のテーマも鼻歌的ですね),色々な楽器がソリスティックに活躍するような変奏が続きます。途中,何気なく打楽器の渡邉さんを見ていたのですが,シンバルを使い分けていたり,グロッケンの音が効果的に入っていたり,さすがチャイコフスキーという「隠し味」が楽しめる曲でした。が

最後の変奏では,コンサートミストレスのアビゲイル・ヤングさんによるかなり長大な独奏が入りました。これも聞きごたえがありました。そして,曲が終わる直前に「ちょっと待ったー」という感じで入る,クラリネットの遠藤さんによる,鮮やかなソロも見事でした。広上さんは,指揮をしながら「声」というか「息の音」を出していたのですが,最後の部分では,大きく息を吸っているのが分かりました。その呼吸どおり,堂々たるスケール感のある雰囲気で締めてくれました。

アンコール曲は,マイスキーさんとオーケストラの共演で2曲演奏されました。1曲目は,チャイコフスキーのノクターンでした。マイスキーさんがオルフェウス室内管弦楽団と共演したこの曲のCDを持っているのですが,「ロココ変奏曲」の後のアンコールにはぴったりの曲です。ストレートにマイスキーさんのチェロの音の美しさとセンチメンタルな歌の味わいに浸ることのできる演奏でした。

2曲目は,サン=サーンスの「白鳥」が演奏されました。弦楽合奏とハープ伴奏版で演奏されるのは珍しいことですが,息の長い歌に酔わせてくれました。弦楽合奏+ハープということで...何かの曲に似ているな,と考えながら聞いていたのですが,「マーラーの「アダージェット」」だと思いました。弦楽器の透明感のある響きが水面のように感じられ,マイスキーさんはその上を泳ぐ白鳥。ハープはさざ波や波紋でしょうか。いつも以上に浮遊感のある演奏だなぁと思いました。

以上のとおり,マイスキーさんの魅力だけではなく,OEKらしさも感じられる曲が並んでいました。マイスキーさんについては,大編成のオーケストラと共演するよりは,小編成での演奏の方が個性を強く味わうことのできるアーティストではないかと思いました。というわけで,機会があれば是非,OEKとの定期公演での再共演や音楽堂での室内楽公演を期待したいと思います。

(2017/12/17)















公演の立看板


公演の案内

音楽堂の中のクリスマス飾りです。







チラシとプログラム・リーフレット


女子バレーボールのPFUブルーキャッツのチラシも入っていました。

音楽堂周辺もクリスマス気分


JR金沢駅


百番街のRINTO