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クリスマス・メサイア公演
2017年12月10日(日) 15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ジュリア―ノ神父/眠れ,み子よ
2) ジュリア―ノ神父/アヴェ・マリア
3) 長山善洋(新井鴎子作詞)/おくりもの
4) ヘンデル オラトリオ「メサイア」(抜粋 10-11,18-19,20-25,27-28,31-38,41-43,46,52曲は省略)
5) きよしこの夜
6) 讃美歌

●演奏
ダグラス・ボストック指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)*4-5,朝倉あづさ(ソプラノ*4-5),池田香織(メゾ・ソプラノ*4-5),鈴木准(テノール*4-5),久保和範(バリトン*4-5)
合唱:北陸聖歌合唱団(指揮:犀川裕紀)*4-6
児童合唱:OEKエンジェル・コーラス(指揮:仲谷響子,オルガン:清水史津)*1-3,5



Review by 管理人hs  

12月恒例の北陸聖歌合唱団とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)によるクリスマス・メサイア公演を聞いてきました。今年は抜粋による演奏で,指揮者は,英国出身のダグラス・ボストックさんでした。OEK指揮をされるのは,数年前の定期公演以来のことだと思います。「メサイア」の歌詞は英語ですが,考えてみるとこの年末メサイア公演に英国出身の指揮者が登場するのは,初めてのことかもしれません。

そのせいもあるのか,今年の「メサイア」は,非常にスタンダードで紳士な雰囲気があるなと思いました。我が家にある「メサイア」のCDは,トレヴァー・ピノック指揮イングリッシュ・コンサートの録音で,いつの間にかこれが私にとってのデフォルトになってしまっているのですが,その気分に近いと感じました。

第1曲の序曲から,歪みの少ない,イメージどおりメサイアを聴いたなぁという実感が残るような演奏でした。全曲を通して,すっきりとシャキッとした折り目正しさを感じました。

独唱者の皆さんは,毎年素晴らしいメンバーが揃っているのですが,今年も声の饗宴のような素晴らしさでした。テノールの鈴木准さんの若々しく,清々しい声,バリトンの久保和範さんの威厳と慈愛に溢れた声。池田香織さんの余裕のある深く輝かしい声。そして,金沢の「メサイア」には無くてはならない朝倉あづささんの可憐な声。プログラムによると,今年が26回目のメサイア公演ということで,まさにエバーグリーンの声だと思います。というわけで,今回のソリストの声についても,私にとっての「デフォルト」という感じでした。

今回,ボストックさんは,ソリストの入る曲の時は指揮棒なし,合唱曲の時は指揮棒ありで指揮されていました。この方針は非常に明確でした。その音楽も大変明快でした。北陸聖歌合唱団の皆さんをしっかりコントロールしつつ,いつもにも増してまとまりのよい歌を聞かせてくれたと思います。英国というと合理的と連想してしまうのですが,音楽全体に,健全な合理性のようなものが感じられ,聞いていて,「メサイア」という曲がベースとして持っている,希望や安らぎに向けてのベクトルがしっかりと最短距離で伝わってきました。

「クリマス・メサイア」公演ということで,イエスの誕生を描いた,第1部は,例年通りほとんどの曲が演奏されていました。毎年のようにこの公演を聞いているせいか,第9曲「O thou that tellst good things to Zion」(メゾソプラノと合唱)の中に出てくる「ザイオン(シオンを英語の発音)」という音を聞くと,いよいよ「クリスマスだなー」と感じます。澄んだ響きと軽快さが喜びにつながるような,大変心地よく響く演奏でした。第12曲「For unto us a Child is born」(合唱)もクリスマス気分になる曲です。とても軽快に喜びの気分が出ていました。

第1部の後半はソプラノの出番が続きます。上述のとおり,今年も朝倉さんの清潔感のある声でしっかりとクリスマス気分が彩られました。第17曲「Glory to God in the hight」も必ず歌われる曲です。ここ数年,パイプオルガンのステージで演奏するケースが多かったのですが,今回は通常の「1階席」でオーケストラの一員として演奏していました。オーケストラとしっかり溶け合いつつ,音全体として壮麗さを増しているようで,ここでも奇をてらわないスタンダードな気分を伝えていました。

ここで休憩が入り,後半は第2部と第3部のハイライトが演奏されました。

今回は,第2部の大半の曲はカットされていました。特にいちばん演奏時間が長いアリアである第23曲のメゾ・ソプラノのアリアがないと,「受難の気分」が薄まるかなと思いましたが,この辺はある程度仕方がないかもしれませんね。

第2部では第40曲のバリトンのアリアが特に印象的でした。快適なテンポに乗って,久保さんの余裕のある声がホール中に染みわたっていました。毎年そうだったのかもしれませんが,独唱曲の時は弦楽器の編成は小さめで演奏しており(後方の奏者は演奏していませんでした),ここでも合唱曲との区別がしっかり付けられていると思いました。

そして,第2部最後の「ハレルヤ・コーラス」になります。毎年,色々な表現を楽しめますが,今年は普通のテンポでストレートに終盤に向けて盛り上がって行く,率直な表現で,大げさなテンポの変化はなく,ストレートに「主をほめたたえる」気分が伝わってきました。

第3部の最初の第45曲のソプラノのアリアも好きな曲です。安らぎの気分に加え,この先に続く希望の気分が広がって行くような歌でした。第48曲「The Trumpet shall sound」では,毎年,藤井さんがトランペットを担当することが多いのですが,いつもにも増してバリトンの声とトランペットの音とが溶け合って,輝かしさとマイルドさ同居したような音楽を聞かせてくれました。

第49曲と50曲のメゾ・ソプラノのアリアとテノールとの二重唱については,ハイライトで取り上げられることは比較的珍しい曲かもしれません。どこか品格の高さのが伝わってくるような歌でした。

最後の「アーメン・コーラス」でも,うるさく盛り上がるのではなく,常に品格の高さを感じさせるような落ち着きを感じました。合唱団の声も明快で力強く,最後の曲に相応しいまとまりの良さを感じました。中盤のフーガになる部分は,速目のテンポですっきりしていたのですが,最後の部分ではテンポをぐっと落とし,壮麗に盛り上げてくれました。

OEKによる「メサイア」公演も20回近くになっているはずですが,今回の公演は,「大人のメサイア」という感じで,公演自体の成熟を感させてくれました。

「メサイア」のハイライト公演の時に,いつも登場しているOEKエンジェルコーラスの合唱では,これまでは榊原栄さん編曲によるおなじみのクリスマス・ソングメドレーというのが定番で,個人的には大変好きなアレンジだったのですが,今年は,オルガンの伴奏による宗教的な気分のある合唱曲が3曲歌われました。日本の曲が1曲含まれていましたが,全く違和感はなく,今回の「大人のメサイア」の気分にぴったりの,スッと歌詞が伝わってくるような良い歌声だったと思いました。

「メサイア」の後は,この公演の恒例である「きよしこの夜」が歌われました。OEKエンジェルコーラスのメンバーが1階席通路の登場し,会場全体が清々しい気分に包まれました。

というようなわけで,今回の「大人のメサイア」を聞いて,是非,一度,ボストックさん指揮による全曲を聞いてみたいと思いました。期待をしています。

PS. 毎回開演前,音楽堂の職員が客席で演奏中の鑑賞マナーについての注意を生声で行っているのですが,この日はこの説明中「聞こえません」という声がお客さんから飛び出しました。こういうリアクションは初めてでした。「それではもう一度」と丁寧に説明されていました。鑑賞マナーの注意については,よく聞こえるように館内放送で流したとしても,聞き流されることが多いので,ある意味,こちらの思惑(?)どおりの効果があったのではないかと思いました。

(2017/12/17)






公演の立看板


公演の案内


音楽堂玄関の中のクリスマス飾り


公演前の春日朋子さんによるオルガン演奏も恒例です。


ホテル日航金沢入口のツリー


こちらもホテル日航金沢。ロビーです。