OEKfan > 演奏会レビュー
音楽文化国際交流2017,音文協年末公演第55回記念「荘厳ミサ」
2017年12月23日(土・祝) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ヴェルディ/歌劇「ナブッコ」〜行け,我が想いよ金色の翼に乗って
2) モーツァルト/アヴェ・ヴェルム・コルプス, K.618
3) ベートーヴェン/荘厳ミサ曲ニ長調, op.123

●演奏
ジョヴァンニ・チェルニッキアーロ*1-2;田尻真高*3指揮石川フィルハーモニー交響楽団
石川公美(ソプラノ*3),フランチェスカ・ロマーナ・イオリオ(メゾ・ソプラノ*3),倉石真(テノール*3),清水宏樹(バス*3) 
合唱:石川県合唱協会合唱団,ジュゼッペ・ヴェルディ合唱団,アルケ合唱団



Review by 管理人hs  

年末恒例の石川県音楽文化協会主催の「荘厳ミサ」の公演を石川県立音楽堂で聴いてきました。合唱は石川県合唱協会合唱団,オーケストラは石川フィルハーモニー交響楽団。指揮は,田尻真高さんでした。今年は,音楽文化国際交流2017ということで,イタリアのジュゼッペ・ヴェルディ合唱団とアルケ合唱団のメンバーも参加していました。

年末に第9を演奏する団体は,日本中にありますが,毎年,ベートーヴェンの荘厳ミサ曲(ミサ・ソレムニス)を毎年演奏しているアマチュア合唱団は多くないと思います。1970年から毎年演奏しているということですので,そろそろ50周年に近づいています。

しかもここ数年は,オーケストラの方も地元のアマチュアオーケストラの石川フィルが演奏しており,ソリスト以外は,全部地元音楽家によるという形がすっかり定着しています。昨年,久しぶりにこの公演を聴いたのですが,伝統の重み,アマチュアならではの熱さに加え,演奏自体の水準が高く,「年末の締めに必須」と思い,今年も聞きに行くことにしました。

今年の公演で注目していたのは,若手指揮者の田尻真高さん指揮でした。そして,その期待通りの,引き締まった演奏を聴かせてくれました。昨年までの山口泰志さんの指揮も素晴らしかったのですが,伝統のエネルギーを若さが引っ張るような見事な演奏を聞かせてくれました。

まず,第1曲「キリエ」の冒頭から,合唱,オーケストラともに音のバランスがとても良く,音全体がぐっと引き締まった,密度の高さが感じられました。音全体にも落ち着きがあり,ほの暗い雰囲気が宗教音楽にふさわしいと感じました。キリエは3部構成になるのが普通ですが,中間部では気分の変化がくっきりと付けられており,音楽全体に推進力が感じられました。

ソリストは,昨年と全員同じでした。この部分に限らないのですが,ソプラノの石川公美さんの輝きのある声,テノールの倉石真さんの柔らかな声を中心に,派手になり過ぎることなく,じっくりと感動を伝えてくれるような歌を聴かせてくれました。メゾ・ソプラノのイオリオさんの声は,独特のヴィブラートが少し気になったのですが,段々と耳になじんで来ました。

第2曲「グローリア」の最初の音での,バシッと揃って,パンと飛び出してくる感じも鮮やかでした。合唱団の声も10歳ぐらい(?)若返って聞こえました。後半のフーガの部分では,合唱とオーケストラが一体となった生き生きとした軽快さと推進力のある充実感が素晴らしいと思いました。この部分では,パイプオルガンがしっかりと低音を支えており(おなじみ黒瀬恵さんがオルガンでした),音楽堂ならではの響きに浸ることができました。

第3曲「クレド」でも,信仰の堅さを示すような熱気を感じました。クレドの途中のイエスの生涯が語られる部分(山口泰志さんが執筆のプログラムの解説を読んでなるほどと思いました)での,4人のソリストを中心とした雄弁さも印象的でした。途中,合唱団が無伴奏で出てくる部分の緊迫感も印象的でした。

第4曲のサンクトスから第5曲のアニュス・デイに掛けては,通常の宗教音楽から一歩踏み出した,コンサートホールで聴くのにふさわしい音楽になります。サンクトゥスでは,ソリストたちによる心地よく暖かな音楽が続いた後に出てくる,ヴァイオリン・ソロが見事でした。この部分では,コンサート・ミストレスの方が立ち上がり,繊細で心に染みる歌を聴かせてくれました。ソリストたちとの絡み合いは,天上の音楽といった感じでした。

第5曲のアニュス・デイは,平和への祈りの音楽になります。最初の部分に出てくるバスの清水宏樹さんによるしみじみとした「ミゼレーレ」の声に続き,平和への祈りの音楽が続きます。この部分の音楽では純粋な祈りと同時に,ラッパや太鼓による「不穏な音」が聞こえてきて,フランス革命などが起こった後の作曲当時のヨーロッパの空気のようなものが感じられました。その点がベートーヴェンらしいなぁといつも思います。最後の方では,「Pacem(平和)」という言葉が繰り返し出てきます。この繰り返しも印象的です。しっかりと感動と余韻を残して全曲が締められました。

現実に目を向けると,相変わらず紛争が絶えない世界です。世界だけではなく,もっと身近なレベルでも異文化間での紛争は絶えません。そういう時代だからこそ,ベートーヴェンの音楽の持つ,理想主義的な強さが必要な気がします。

今回は,荘厳ミサ曲に先だって,ジョヴァンニ・チェルニッキアーロさんの指揮で,ヴェルディの歌劇「ナブッコ」の中の「行け,我が想いよ金色の翼に乗って」とモーツァルトのアヴェ・ヴェルム・コルプスも演奏されました。両曲ともやや重い感じに聞こえましたが,ゆったりとした大らかさと祈りの気分は,後半のミサに通じると思いました。

今回の公演でも,全曲を通じて,平和への祈りが真摯に伝わって来ました。特にミサ曲では,若い指揮者が,年季の入ったメンバーをしっかりと引っ張る感じがとても頼もしいと思いました。

(2017/12/29)















公演の立看板


公演のポスター




音楽堂玄関の中のクリスマス飾りは...小さくなっていました。