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金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第78回定期演奏会
2017年12月28日(木)18:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ドヴォルザーク/序曲「オセロ」op.93
2) リスト/交響詩「レ・プレリュード」S.97
3) シベリウス/交響曲第1番ホ短調,op.39
4) (アンコール)シベリウス/アンダンテ・フェティーヴォ

●演奏
永峰大輔*1-3;正村啓二郎*4指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団



Review by 管理人hs  


12月28日といえば,仕事納め人の多い日ですが,私の「2017年の演奏会納め」は,石川県立音楽堂で行われた,金沢大学フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会でした。指揮者は永峰大輔さんで,ドヴォルザークの序曲「オセロ」,リストの交響詩「レ・プレリュード」,そして,後半にシベリウスの交響曲第1番が演奏されました。「レ・プレリュード」はとても有名な作品ですが,どの曲も実演で演奏される機会が比較的少ない作品です。比較的地味なプログラムかなと思ったのですが,大変聞き応えのある演奏会になりました。

最初に演奏されたドヴォルザークの「オセロ」は,今回初めて聞く曲でしたが,ロマンティックな気分,嫉妬を思わせるミステリアスな雰囲気など,ニュアンスの変化に富んだ音楽を楽しむことができました。序奏部から,くっきりとしっかりとした音で始まり,全曲を通じて,根底に心地よい気分が流れていました。終結部はドヴォルザークの他の曲にも出てくるような感じで颯爽と締められました。

「レ・プレリュード」では,冒頭,意味深な低音から始まった後,パーカッションが活躍する終結部に向けて,率直に盛り上がっていくのが爽快でした。途中,ホルンや木管楽器などがソリスティックに活躍し,景色が変わっていくように曲想が変化するのも良いですね。終結部は,やや響きが散漫な気はしましたが,音楽全体に推進力があり,若々しさを感じました。

この日の指揮者の永峰大輔さんは,ステージの袖から登場する際,半分駆け足のような感じで勢いよく登場されていましたが,その音楽にもそういう感じがあると思いました。

後半に演奏されたシベリウスの交響曲第1番は,特に素晴らしい演奏だったと思います。第2番に比べると演奏する機会の少なく,私自身,実演で聞いた記憶が残っていない作品なのですが(確か,同じ金大フィルの演奏会で聞いたことがあるのですが)...今回,特に終楽章を聞いて,「これは青春の音楽だなぁ」と素直に感動してしまいました。

永峰さんの指揮は,ここでも大変明快で,金大フィルから思い切りの良い響きを引き出していました。全曲を通じて,特にヴァイオリンをはじめとした弦楽器が美しく,随所で痛切な美しさを感じました。

それでいて熱くならないのがシベリウスの音楽です。冒頭のクラリネットの独奏から,ひんやりとした感触のある,ミステリアスな世界が広がりました。その後に続く,第2ヴァイオリンのトレモロも鮮烈でした。「これがシベリウスだ!」という感じで痺れました。ティンパニの強打も印象的でした。見るからに気合いの入った演奏で,「こんな激しい音楽だったんだ」とストレートに聞き手の心に音が飛び込んでくるようでした。金管楽器の音もしっかりと響き,音楽のスケール感がアップしていました。

第2楽章は,第1楽章と対照的に,やさしく柔らかな響きが印象的でした。途中に出てくる木管楽器の機敏で冴えた音の動きや楽章最後の静かに空気に溶け込んでいくような終わり方も印象的でした,

第3楽章は,CDなどで聞いていると野性的印象があったのですが,今回の演奏はとてもテンポが速く,野暮ったくならない軽快さを感じました。音が飛び交う面白さも実演ならではです。ハープの鮮やかな響きも印象的でした。

ちなみにこの日の楽器編成ですが,3曲ともにハープが入っていました。これは意外に珍しいことだと思います。

そして,第4楽章が特に感動的でした。まず,楽章の最初の弦楽器の音にチャイコフスキーの「悲愴」交響曲を思わせるような心に迫る美しさがありました。プログラムの解説に「この演奏会で3年生メンバーは最後。色々な思いがこもっている」といったことが書かれていたのですが,まさにその通りの音楽でした。

音楽自体はスムーズでじっくりと太い線が感じられる強さがあったのですが,その中に様々な情感が含まれていました。コーダの部分では,複雑な思いと感動がこみ上げてくるようなエンディングだったと思います。プログラムの解説では,「ロウソクの火をふっと消すようなピツィカートで終わる」と書かれていましたが,まさにその通りの感じのはかなさと切なさを感じました。

シベリウスのこの曲については,これまであまり聞いてこなかったのですが,それぞれの楽章ごとに違った世界が広がるのがとても面白いと思いました。そして,若い奏者にぴったりの音楽だと思いました。

最後にアンコールとして,同じシベリウス作曲の「アンダンテ・フェスティーヴォ」が演奏されました。驚いたことに,この曲については,学生指揮者の正村さんが指揮をしました。これまで,金大フィルの定期演奏会を何回も聞いてきましたが,学生指揮者が登場するのは初めてのことかもしれません。

正村さんの指揮については,半年前のサマーコンサートでチャイコフスキーの交響曲第5番の演奏を聞いて,「すごい」と思ったことを思い出しますが,永峰さんもその熱い指揮に魅せられたのかもしれませんね。凜とした力強さのある演奏を聞きながら,改めて,学生オーケストラは良いなぁと思いました。

というようなわけで,大変気持ちよく「1年納めの演奏会」を楽しむことができました。

(2018/01/06)



公演の立看板


公演の案内。この日は,金沢大学関係で独占されていました。