OEKfan > 演奏会レビュー
オーケストラ・アンサンブル金沢第397回定期公演フィルハーモニーシリーズ
2018年1月6日(土) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ウェーバー/歌劇「オベロン」序曲
2) メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲ホ短調,op.64
3) シュトラウス.J.II/喜歌劇「こうもり」序曲
4) エドゥアルト・シュトラウス/ポルカ「テープは切られた」, op.45
5) ヨーゼフ・シュトラウス/ポルカ「鍛冶屋」,op.269
6) シュトラウス.J.II/トリッチ・トラッチ・ポルカ, op.214
7) エドゥアルト・シュトラウス,ヨーゼフ・シュトラウス,シュトラウス.J.II/射撃のカドリーユ
8) シュトラウス.J.II/ウィーン気質, op.354
9) シュトラウス.J.II/ロシアの行進曲風幻想曲, op.353
10) シュトラウス.J.II/美しく青きドナウ, op.314
11)(アンコール)シュトラウス.J.I/ラデツキー行進曲

●演奏
オーケストラ・アンサンブル金沢(リーダー:フォルクハルト・シュトイデ)
フォルクハルト・シュトイデ(ヴァイオリン*2)



Review by 管理人hs  

私にとっての,2018年最初の演奏会,「演奏会初め」は,ウィーン・フィルのコンサートマスター,フォルクハルト・シュトイデさんの弾き振りによるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演でした。プログラムは,前半がウェーバーの「オベロン」序曲とメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲(シュトイデさんがソロ),後半がシュトラウス・ファミリーの音楽でした。

OEKのニューイヤーコンサートについては,10年ぐらい前までは,マイケル・ダウスさんの弾き振りによるシュトラウス・ファミリーのワルツやポルカが定番だったのですが,その後は,声楽を交えたプログラム,古楽を交えたプログラムなど「ウィーン風」にこだわることなく,色々なタイプのコンサートが行われてきました。

今回のニューイヤーコンサートは,1月1日にウィーンでリッカルド・ムーティの指揮の下,ニューイヤーコンサートを行ってきたばかりのシュトイデさんをリーダー&ソリストに迎えての楽しい演奏会となりました。

今年のウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートの放送(不思議なめぐりあわせですが,この演奏会と同じ時間帯にNHKで再放送をしていました)を観て,「1月6日に金沢に来るシュトイデさんが映っている!」と嬉しく思った方も多かったと思います。シュトイデさん自身,実はドイツのライプツィヒ生まれの方ですが,この日の演奏を聞いて,まさに元旦に取れたての産地直送の「ウィーンの空気」を運んでくれたように感じました。選曲の方も,定番曲と珍しい曲とがバランス良く混ぜられており,本物のニューイヤーコンサートを彷彿とさせてくれました。それにしても新年早々,シュトイデさんもハードスケジュールでしたね。

最初に演奏された,ウェーバーの「オベロン」序曲は,OEKが演奏するのは初めてかもしれません。個人的には魅力的なメロディが次々湧いて出てくる感じが大好きな曲です。新年最初にこの曲を聞けて,まず良い気分になりました。シュトイデさんは,通常のコンサートマスターの席に座り,リードする動作も必要最小限でしたが,そういったところに職人的な雰囲気を感じました。甘くトロンとした感じの序奏とキビキビと妖精が動き回るような主部とのコントラストが鮮やか,かつ自然で,この曲の魅力をストレートに味わうことができました。

メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲の方は,昨年は,神尾真由子さんと原田幸一郎さん指揮OEKの演奏で聞きましたが,その演奏とは対照的な気分のある演奏でした。まず,ステージ中央にビシッと立つシュトイデさんの姿が凜々しかったですね。音楽の方もグイグイと攻めるようなテンポで始まりました。シュトイデさんのヴァイオリンについては,音には甘い香りが漂っているけれども,表現としては,率直で引き締まっており,さすがウィーン・フィルのコンサートマスターというバランスの良さがあると感じました。

最初の部分は,オーケストラとのテンポ感が少し合わない感じもしましたが(ややシュトイデさんが走り気味?),段々とソロとオーケストラとが一体となって音楽が流れて行きました。じっくりとテンポを落とした第2主題の静謐な雰囲気もとても良いと思いました。カデンツァ風の部分も集中力たっぷりの音楽を聞かせてくれました。

耽美的になりすぎない第2楽章では,曲の持つ,素朴で親しみやすい味が伝わってきました。さらには,オーケストラと一体になった意味深さが感じられました。楽章最後の名残惜しさも絶品でした。その後,第3楽章に移る前にしっかり間を取っていたのも印象的でした。

第3楽章も,自由自在に羽ばたくというよりは,OEKと一体となって音楽を楽しむような,室内楽的な気分がありました。ソリスティックな華やかさよりは,指揮者無しのアンサンブルのスリリングさ(?)であるとか,楽しさを感じさせてくれるような演奏だったと思います。

さて後半です。

まず演奏された「こうもり」序曲を聞いて,「正しい「こうもり」だ!」と思いました。この曲については,実演でもCDでも何度も聞いてきた曲ですが,テンポ感や間の取り方など,すべての点で,「これが正解!」と思わせるフィット感がありました。安易に「本場の演奏」と言いたくはないのですが,シュトイデさんは,ウィーンで「こうもり」を毎年のように演奏しているはずなので,今回,そのエッセンスがしっかりとOEKに伝えられたのではないかと思いました。

その後も楽しい演奏の連続でした。

特にエドゥアルト・シュトラウスの「テープは切られた」は,リアルに鉄道を描写しており気に入りました。テューバを初めとした低音部のリズム,リアルに列車の気分を感じさせた小太鼓の快適な響きなど,いくつかある「鉄道もの」ポルカの中でも絶品の一つだと思いました。

「鍛冶屋のポルカ」では,「鍛冶屋担当」のグンナー・フラスさんのパフォーマンスが最高でした。そこまではティンパニ担当だったのですが,上着を脱いで,鍛冶屋をイメージするエプロンを付けて,ステージ中央に登場。ソリスト気分満々でシュトイデさんやヤングさんと握手。さらには何とチューニングも開始。オーボエのAの音を受けて,金床をカーンと叩く,というパフォーマンス(個人的には,これがいちばん受けました)。

その後も持参したバッグ(「鍛冶屋さんセット一式」という感じでした)の中から,飲み物を取り出したり,新聞を取り出したり...周到に準備された,楽しいパフォーマンスに拍手大喝采でした。そして,何よりも金床のカーンと冴えた音。この音自体素晴らしいと思いました。

「トリッチ・トラッチ・ポルカ」は,快適なテンポで爽快に演奏されました。この曲については,途中に入る「間」で何が入るのか?にいつも注目しているのですが(大太鼓がドンと入ることが多いですね),この日は何も入っていませんでした。恐らく,これが正しいのだと思います。

続く「射撃のカドリーユ」は,エドゥアルト・シュトラウス,ヨーゼフ・シュトラウス,ヨハン・シュトラウス2世の合作という,すごい曲です。ただし,いくつかのパートに分かれてる曲だったので,合作といよりは,分担してつないだ可能性もありますね。優雅なギャロップのような感じで始まった後,踊りのステップが次々と変わっていくような楽しさがありました。

「ウィーン気質」も,じっくり,慌てず,滑らかな「正しいワルツ」という感じでした。最初の方に弦楽器のトップメンバーたちによるアンサンブルが入りましたが,この部分から「しあわせ感」たっぷりでした。この曲辺りでは,ヨハン・シュトラウス自身のような感じで,リーダー・ヴァイオリンが立って演奏するのかなと思ったのですが,最後までシュトイデさんは座ったまま演奏されていました。シュトイデさんは,演奏後にお辞儀をする時も,常にOEKメンバーと一緒に頭を下げようとしていました。このオーケストラの一員に徹している姿が良いなぁと思いました。

「ロシアの行進曲風幻想曲」は,演奏されるのが珍しい曲です。エキゾティックな気分があり,「もしもチャイコフスキーがニューイヤー・コンサート用に作曲したら...」という雰囲気のある作品でした。

最後は定番中の定番の「美しく青きドナウ」で締められました。序奏の弦楽器の弱音トレモロの音の後にホルンの音が聞こえてきただけで,「ドナウ!」というワクワクした気分になります。そして主部がゆったり始まると...ウィーン国立歌劇場のバレエが見えてくるような気分になります。「こうもり」同様,「正しいドナウ」という演奏でした。

美しいメロディがワルツのリズムに乗って,次々と湧き出てくるのですが,まず,じっくりと始まった後,次第に優雅に流れ出す感じが繰り返され,心地よい揺らぎと安心感,そして時折,飛翔する感じ,がありました。コーダについては,マイケル・ダウスさんの時には,短くカットした版をよく使っていましたが,今回はおなじみの「立派なコーダ」を演奏していました。ただし,大げさになり過ぎず,キリッと締められていました。この部分では,カンタさんのチェロ,松木さんのフルートなど,ソリスティックな音がふっと浮き上がって聞こえてくるのも良いですね。

アンコールはもちろん,聴衆が手拍子で参加するラデツキー行進曲した。井上道義さん指揮のニューイヤーコンサートの時は,あえてこの曲を外しているようなところがありましたので,考えてみると「参加」するのは,久しぶりかもしれません。テンポは,(私の感覚では)今年のムーティ指揮ウィーン・フィルと同じくらいだと思いました。和気あいあいと楽しむのに最適のテンポでした。

というようなわけで,今年のニューイヤーコンサートでは,産地直送のウィーン風ニューイヤーを楽しむことができました。OEKは,富山県射水市,東京,大阪でも同様のコンサートを行いましたがが,こちらの方の指揮&ピアノはシュテファン・ヴラダーさんでした。恐らく,シュトイデさんの演奏とは一味違った演奏だったと思います。金沢で楽しんだ後,もう一度楽しみたいぐらいでした。

毎年,OEKのニューイヤーコンサートには,何ともいえない華やいだ気分がありますが,今年もまた,良いスタートを切ることができました。

PS.今年も恒例の「たろう」さん提供の「どら焼き」のサービスがありました。

終演後,OEKメンバーが「どら焼き」を配っていました。
 

帰宅後,家族と分け合って食べてみました。今年はピーナッツ味。とても良い食感と風味でした。
 



毎年,ニューイヤーコンサートのプログラムに書かれているこの「詩」も良いですね。。


(2018/01/06)








公演の立看板。今回は門松付きで撮影


ちなみにもう一つはこんな感じ


ニューイヤー恒例のサイン入り立看。鼓門のデザイン入り。


プレコンサートも大盛況


ステージ上には(よく見えませんが)花が並んでいました。


テレビ収録も行っていました。

シュトイデさんのサイン会もありました。


2/26のミンコフスキさんの登場するコンサートのチラシにも「芸術監督就任決定!」の文字が追加されていました。


エッシェンバッハさんが指揮するコンサートのポスターも登場してしいました。


交流ホールでは,楽都音楽祭のピアノオーディションも行っていました。