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オーケストラ・アンサンブル金沢第399回定期公演フィルハーモニーシリーズ
2018年2月24日(土)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) アリアーガ/交響曲ニ長調
2) モーツァルト/フルートと管弦楽のためのアンダンテ ハ長調,K.315(285c)
3) 尾高尚忠/フルート協奏曲,op.30a
4) (アンコール)イアン・クラーク/ザ・グレイト・トレイン・レース
5) シューベルト/交響曲第6番ハ長調,D.589
6) (アンコール)シューベルト/劇音楽「ロザムンデ」間奏曲第3番

●演奏
マティアス・バーメルト指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:水谷晃)*1-3,5-6
ジャスミン・チェイ(フルート)*2-3



Review by 管理人hs  

2月後半のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)定期公演フィルハーモニー・シリーズには,当初,OEK初登場となる,ヘスス・ロペス=コボスさんが登場予定でしたが,健康上の理由でキャンセルとなり,マティアス・バーメルトさんが登場しました。ロペス=コボスさんの演奏が聞けなかったのはとても残念だったのですが,バーメルトさん指揮による,この日の公演の方も,期待を上回る大変充実した内容でした。

プログラムには変更はありませんでした。アリアーガ,モーツァルト,尾高尚忠,シューベルトの曲ということで,夭逝の(若くして亡くなった)作曲家特集でした。このプログラムがまず魅力的で,古典的な明快さと同時に,どこか哀愁やドラマを感じさせる曲が並んでいました。

特に演奏会の最初と最後に演奏された,アリアーガとシューベルトの交響曲の聞き応えがりました。バーメルトさんは,OEKから,大変バランスの良い充実したサウンドを引き出していました。バーメルトさんは,派手な演出は加えない,職人的な雰囲気のある指揮者ですが,その音楽には,一本筋の通ったような力強さと味わい深さがあり,安心して音楽を楽しむことができました。室内オーケストラ的な精度の高さに加え,色々な要素を多彩に聞かせる幅広さとスケールの大きさを感じました。一言で言うと「巨匠」的な演奏だったと思いました。

最初に演奏されたアリアーガの交響曲を実演で聞くのは初めてでしたが,「スペインのモーツアルト」というニックネームに相応しい,大変魅力的な作品でした。低弦がしっかりと効いた,落ち着きと品位のある序奏部に続き,「疾走する哀しみ」といった「カッコイイ」雰囲気のある主部になります。切迫感は十分に感じられるけれども,バーメルトさんの指揮はしっかり抑制が効いており,曲自体の美しさをしっかりと伝えてくれるようでした。第2楽章の濃厚過ぎない,落ち着きのある響きからっは古典的な気分が伝わって来ました。

第3楽章は速目のキビキビとしたテンポで始まった後,トリオでは松木さんのフルートがソリスティックに活躍していました。弦五部による室内楽的な響きは,別世界にワープしたような浮遊感がありました。第4楽章は,第1楽章に対応するように,再度,切迫した感じになります。ここでも,バーメルトさんの作る音楽には余裕があり,ほのかな哀しみを秘めたメロディの魅力を伝えてくれました。曲の最後は,ほのかな光明を感じさせつつ,がっちりとした感じで締めてくれました。

アリアーガの交響曲は,このように大変魅力的な作品でした。是非,OEKのレパートリーに加えてもらい,CD録音なども期待したいところです。

この日のもう一つの聞き物は,ジャスミン・チェイさんのフルートでした。ジャスミンさんは,6年前にOEKのフルート奏者として,しばらく客演していたことがあります。その時から韓国のポップスターを思わせる華やかな雰囲気が印象的でした。その実力も素晴らしく,モーツァルトのアンダンテでは,曲想に相応しい,マイルドさとクリアさが共存したような素晴らしい音を聞かせてくれました。比較的速めのテンポの演奏でしたが,十分な伸びやかさがありました。全体的には,平穏な雰囲気でしたが,その中に,さりげなく小さなドラマが潜んでいるのが魅力的でした。

続いて尾高尚忠のフルート協奏曲が演奏されました。実演で聞くのは初めてでしたが,非常に魅力的な作品でした。イベールのフルート協奏曲あたりと組み合わせても違和感がないような,洗練された雰囲気と第2楽章でのエキゾティックな雰囲気とをバランス良く楽しむことができました。

ジャスミンさんの演奏には,曲の冒頭から才気煥発!といった生きの良さと自在な流動間がありました。新鮮な風がステージ上から吹き込んでくるようでした。この曲の編成にはハープも加わっており,フルートと一体となって,心地よい雰囲気を盛り上げていました。
第2楽章は,上述のとおり,リムスキー=コルサコフの「シェヘラザード」を思わせるような,エキゾティックで妖艶な雰囲気がありました。ジャスミンさんの演奏には,少しハスキーな声質を持った女性演歌歌手のような雰囲気があり,たっぷりと聞かせてくれました。弦楽器のコルレーニョ風の音も面白い効果を出していました。

第3楽章は再度急速な楽章となり,最後は1楽章のメロディが再現します。この部分での,華麗に舞い上がるようんな鮮やかさが見事でした。

演奏後,鳴り止まない拍手に応え,ジャスミンさんのソロで,アンコールで演奏されました。この独奏曲が驚くべき演奏でした。フルート一本で列車が走っている様子を描写したような現代的な曲だったのですが,特殊奏法満載の凄まじい曲でした。音色自体多彩だったのですが,1本のフルートから2つの音が同時に出ているように聞こえたり,声が混じったり,叫び声が混じったり...ジャスミンさん以外演奏できるのだろうか?と思わせるほどでした。この曲を,楽々と楽しげに演奏。まさにフルート界のスターといった感じの魅せて,聞かせる演奏を楽しませてくれました。

最後に演奏されたシューベルトの交響曲第6番は,ハイドン,ベートーヴェン,ロッシーニを併せたような雰囲気の中に,シューベルトならではの瑞々しい歌を持ったような作品でした。そこに,ベテラン指揮者のバーメルトさんらしい貫禄も加わり,堂々とした聞き応えを感じさせてくれました。素晴らしい演奏だったと思います。

第2楽章には,慈愛に満ちたような素朴な暖かみがありました。第3楽章はベートーヴェンへのオマージュのようなスケルツォです。中間部での余裕を感じさせるような堂々たる音楽には,大家の芸といった趣きがありました。

第4楽章は,優しい表情を持った余裕のある音楽の運び方が見事でした。同じ音形の繰り返しが多いあたり,同じハ長調の「ザ・グレイト」に通じる気分もあると思いました。コーダでは,滋味深さや優しさがありました。全曲を通じて,じっくりと作り上げた,しっかりとした音楽となっており,最後の曲に相応しい聞き応えがありました。

アンコールでは,おなじみの「ロザムンデ」間奏曲第3番が演奏されました。大げさなことをしなくても,自然な息づかいの中から誠実な美しさが伝わってくるような演奏でした。

というようなわけで,プログラミング,オーケストラの演奏,独奏者のパフォーマンス...すべての点で大満足の演奏会でした。何よりも,代役での出演にも関わらず,大変魅力的なプログラムを変更することなく,しっかりと楽しませてくれたバーメルトさんに感謝したいと思います。

(2018/03/01)












公演の立看。ヘスス・ロペス=コボスさんのままだったので,次のような通知も出ていました。



終演後,バーメルトさんとチェイさんのサイン会が行われました。


バーメルトさんから頂いたのは,会場で購入したミヒャエル・ハイドンの交響曲集。


チェイさんのCDは,モーツァルトのフルート四重曲集。こちらは持参したCDです。