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田島睦子ピアノリサイタル
2018年3月2日(金)19:00〜 金沢市アートホール

グルダ/アリア
シューマン(リスト編曲)/献呈
シューマン(リスト編曲)/春の夜
ブラームス/主題と変奏, op.18b
リスト/パガニーニによる大練習曲第6番「主題と変奏」
アムラン/パガニーニのテーマによる変奏曲
シューマン/幻想曲ハ長調, op.17
(アンコール)ヴァーノン・デューク(編曲者不明)/4月のパリ

●演奏
田島睦子(ピアノ)



Review by 管理人hs  

金曜日の夜,金沢市アートホールで田島睦子さんのピアノリサイタルを聞いてきました。田島さんは,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)との共演,楽都音楽祭での活躍をはじめとして,金沢市を中心に活発に活動をされています。リサイタルも定期的に行うなど,田島さんを暖かく見守る固定ファンも多いのではないかと思います。私もその一人です。毎回,その気持ちの良い弾きっぷりに惚れて(?)います。

今回の田島さんのリサイタルでまず良かったのが選曲です。「クララ・シューマンに寄せられた名曲たち」と題して,シューマン,リスト,ブラームスの曲を中心に演奏されました。今回は,それらに加えて,フリードリヒ・グルダやマルク・アンドレ・アムランといった現代のピアニスト兼作曲家の曲が加えられていました。田島さんのリサイタルでは,特定の時代やジャンルに偏ることなく,常に面白くて,新しいレパートリーに取り組んでいる点が素晴らしいと思います。

そして,今回のプログラムの場合,全ての曲の間につながりが感じられました。「ウィーンの音楽」としてグルダの「アリア」が美しく演奏された後,「ゴージャスな無言歌」といった感じで,シューマンの歌曲をリストが編曲した2曲が演奏されました。クララへの思いがこもったブラームスの「主題と変奏」に続き,リストの「パガニーニ大変奏曲」第6番。この曲は,パガニーニのカプリースに基づく変奏曲です。そして,アムランの作品は,同じパガニーニの主題による変奏曲。リストの曲に輪を掛けて難易度が高まったような作品でした。そして後半にシューマンの幻想曲が演奏されました。

田島さんは,これらの作品を平然と,そしてのびのびと,難易度の高い作品を聞かせてくれました。

最初に演奏されたグルダの作品は,どういう経緯で作られた曲なのか分からなかったのですが,どこかデリケートで内向的な感じが魅力的でした。こういう曲を最初に持ってくるあたり,とてもセンスが良いなぁと思いました。

続いて,シューマンの歌曲をリストが編曲した作品が2曲演奏されました。無言歌風に始まった後,だんだんとゴージャスに盛り上がっていくあたりが,リストらしいところです。田島さんの演奏は,大変よくこなれており,きらびやかな音楽を気負いなくのびのびと伝えてくれました。

それにしても「献呈」という作品は,近年,よく演奏されます。反田恭平さんもよく演奏しているし,松田華音さんやOEKの定期公演に客演したこともある北村朋幹さんのCDにも収録されています。この「ブーム」は日本だけの現象なのか気になるところです。

ブラームスの「主題と変奏」は,有名な弦楽六重奏曲第1番の第3楽章のピアノ版です。ピアノで聞くと,変奏が進むごとに,ブラームスならではの「重苦しい愛情」がのしかかってくるように感じられます。田島さんの演奏は,激しさはあるけれども,深刻になりすぎない演奏で,大変聞きやすい演奏になっていたと思いました。

前半の最後は,リストとアムランによる「パガニーニ変奏曲」が連続して演奏されました。この演奏は圧巻でした。

リストの曲は,ブラームスの曲とのコントラストが明確に付けられていました。田島さんのキリッとした明快なタッチが大変鮮やかでした。おなじみのテーマ(パガニーニの金沢カプリース第24番のテーマ)をベースに,勢いよく次々と変奏されていきました。

続くアムランの曲は,リストの曲をさらに強烈に変奏したような趣きがありました。不協和音が出てきたり,ベートーヴェンの曲がパロディのように出てきたり,さらにはジャズのような雰囲気になったり,どんどんインスピレーションが広がり,エネルギーが拡散していくような面白さがありました。最後は思い切りダイナミックに締めてくれました。

それにしても田島さんのレパートリーは広いですね。何でも弾けるオールマイティなピアニストだと思います。前半最後の2曲では,硬質のタッチで,スカッとした体育会系の気持ち良い演奏をのびのびと聞かせてくれました。

後半は,シューマンの幻想曲op.17が,ドンと1曲,演奏されました。この日のプログラムは,ピアノ・ソナタが1曲も入っていなかったのですが,この曲は実質,3楽章からなるソナタということで,今回のプログラムの核となっていました。私自身,実演で一度聞いてみたかった作品で,今回のいちばんの目当てでした。

田島さんは,シューマンのクララへの思いのこもった名品を,ここでものびのびと屈託なく,立派に聞かせてくれました。幻想曲というタイトルからすると,第1楽章などはもっと屈折したムードがあると良いかなと思いましたが,その分,凜とした若々しさを感じました。

爽快に鳴らした行進曲風の第2楽章の後,静かに幸福感が流れるような第3楽章が演奏されました。プログラムには「星の冠」というタイトルが第3楽章に書かれていましたが,その言葉のイメージにぴったりでした。幻想味と歌に溢れたロマンの世界に柔らかく静かに入っていくような素晴らしい音楽でした。

前半と後半の最後の方では,田島さんのトークが入りましたが,それを暖かく見守る(?)のも恒例です。最後,アンコールで「4月のパリ」(シャンソンをピアノ独奏に編曲したもの)がリラックスした雰囲気で演奏されて,お開きとなりました。

田島さんは今年の楽都音楽祭では,モーツァルトのピアノ協奏曲第24番をモーツァルテウム管弦楽団と共演します。その期待を高めてくれるようなリサイタルでした。

(2018/03/08)




公演のチラシ。今回の田島さんのドレスも,この写真の雰囲気どおり,大変ファッショナブルでした。