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第14回石川県学生オーケストラ&オーケストラ・アンサンブル金沢合同公演:カレッジ・コンサート
2018年3月4日(日)14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ボロディン/歌劇「イーゴリ公」〜ダッタン人の踊り
2) プロコフィエフ/古典交響曲ニ長調, op.25
3) ドヴォルザーク/交響曲第8番ト長調, op.88

●演奏
田中祐子指揮石川県学生オーケストラ*1,3;オーケストラ・アンサンブル金沢
オーケストラ・アンサンブル金沢合唱団*1



Review by 管理人hs  

非常に春らしい好天になった日曜日の午後,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と石川県内の大学オーケストラのメンバーとが公演する「カレッジ・コンサート」を石川県立音楽堂で聞いてきました。このコンサートも14回目となります。今回の指揮者は,4月からOEKの指揮者(「指揮者」という肩書きです)に就任する田中祐子さんでした。

田中さんは,過去何回かOEKを指揮されていますが,私にとっては田中さんの指揮に接するのは今回が初めてでした。そのお披露目を兼ねたような公演だったかもしれません。

今回のプログラムは,前半の合同演奏がボロディンの「ダッタン人の踊り」,後半の合同演奏がドヴォルザークの交響曲第8番。その間にOEK単独でプロコフィエフの古典交響曲が演奏される,スラヴ系の曲を集めたものでした。

ボロディンの方は,OEKメンバー側が首席ということで,随所に出てくる木管楽器の音をはじめ,色彩的で躍動感のある演奏を聞かせてくれました。この曲については,管弦楽版で演奏されることが多いのですが,今回は特別にOEK合唱団を加えての,オリジナル版で演奏されました。

合唱団は,パイプオルガン前のステージに配置していました。バランス的に,やや男声が少ないかなという印象はありましたが,その声には生々しい迫力があり,盛大に加わる打楽器群とともに,エキゾティックなムードをさらに盛り上げてくれました。田中さんの指揮ぶりは,大変明快で,滅多に聞くことのできない合唱付き版を存分に楽しませてくれました。特にエンディング部分での,若々しくキビキビとした盛り上げ方が良いと思いました。

後半に演奏された,ドヴォルザークの交響曲第8番の方は,大学オーケストラのメンバーが首席奏者になっていました。この曲は大学オーケストラが比較的よく演奏する曲で,数年前のラ・フォル・ジュルネ金沢で,井上道義さん指揮京都大学交響楽団による見事な演奏を聞いたことを思い出します。

この日の演奏も素晴らしいものでした。田中さんの指揮はここでも明快で,じっくり演奏する部分と熱く燃える部分とのメリハリがしっかりと付けられていました。各楽章ごとにしっかりと盛り上がりがあり,豊かな歌と硬質に引き締まった若々しいサウンドを楽しませてくれました。

第1楽章から,前向きにグイッと前へ前へと進んでいく積極性が感じられました。第2楽章では,前半部分のたっぷりとした感じと中間部の緊迫感とのコントラストが鮮やかでした。学生オーケストラのコンサートミストレスによるソロもしっかりと聞かせてくれました。

そして,美しく,流れ良く演奏された第3楽章の後の第4楽章が特に楽しめました。

演奏前の田中さんと学生指揮者の方によるトークの中で,OEKのチェロの大澤さんからチェロパートに向けて「3席に居る好きな女性に届くように弾いてみよう」という素晴らしいアドバイスがあったことが紹介されましたが,冒頭チェロパートによって演奏された主題は,「なるほど」と思わせる雄弁さでした。フルートの難しいソロも,急速なテンポだったにも関わらず,しっかりと吹き切ってくれました。

この楽章については,チェロやフルート以外にも,冒頭のトランペットの爽快なファンファーレ,ホルンの強烈なトリル,童謡「黄金虫」を思わせる部分...など色々とチェックポイントがあるので,冬季五輪のフィギュアスケートの演技を見るように,「ここもクリア,次は4回転...」という感じで,がんばれと応援しながら聞いてしまいました(私だけだと思いますが...)。最後の熱気を込めたコーダに至って,充実した響きで締めくくられた時には,プーさんのぬいぐるみ(?)でも投げ込みたいような気分になりました。

田中さんの指揮ぶりは大変分かりやすく,全曲を通じて,気っ風の良い音楽を聞かせてくれました。演奏前のインタビューでの話の引き出し方もとても面白く,学生オーケストラとの相性は抜群だと思いました。

この両曲の間に,OEK単独でプロコフィエフの古典交響曲が演奏されました。この曲については,OEKの十八番ということで,安心して楽しむことができました。コンパクトな交響曲という印象のある曲ですが,第1楽章は,比較的じっくりしたテンポで,細部にいたるまで明快に聞かせてくれました。さらにはスケールの大きさまで感じさせてくれました。
穏やかな第2楽章での第1ヴァイオリンの美しさ,第3楽章ガヴォットでの積極性と粋な終わり方...「どの部分も納得」といった感じの演奏でした。

急速なテンポで演奏された最終楽章では,フルートをはじめとした,OEKの各パートがソリスティックに活躍し,オーケストラのための協奏曲的な,華やかさを感じました。名人芸の饗宴といった楽しさに溢れていました。

演奏時間的には,比較的短い演奏会でしたが,ようやく春らしくなってきた季節にぴったりの新鮮さ溢れる演奏でした。今後,田中祐子さんがOEKを指揮する機会はどんどん増えてくると思います。その期待が大きく膨らんだ演奏会でした。

(2018/03/08)





公演のポスター


開演前に練習時の写真のスライドショーを流すのも恒例ですね。