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サカリ・オラモ指揮BBC交響楽団金沢公演
2018年3月6日(火)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ブリテン/歌劇「ピーター・グライムズ」〜「4つの海の間奏曲」,op.33a, 「パッサカリア」op.33b
2) チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調,op.35
3) (アンコール) チャイコフスキー(グラズノフ編曲)/なつかしい土地の思い出〜メロディ
4) ブラームス/交響曲第1番ハ短調,op.68
5) (アンコール) シベリウス/組曲「ペレアスとメリザンド」間奏曲

●演奏
サカリ・オラモ指揮BBC交響楽団,アリーナ・ポゴストキーナ(ヴァイオリン*2-3)



Review by 管理人hs  

この時期恒例の東芝グランドコンサートが石川県立音楽堂で行われたので聞いてきました。今年登場したのは,サカリ・オラモ指揮BBC交響楽団でした。2月の後半から,「コンサートに行き過ぎ」なのですが,これまで聞いたことのないオーケストラが来ると,やはり行きたくなります。

プログラムの方は,チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲とブラームスの交響曲第1番がメインということで,やや「名曲過ぎる」プログラムでしたが,終わってみると,「やっぱりブラームスは良い」「チャイコフスキーも良い」と大満足の内容でした。何より,もったいぶったところのないオラモさんの音楽作りと,BBC交響楽団の芯の強さのあるバランスの良いサウンドが素晴らしいと思いました。

最初に演奏されたのは,ブリテンの歌劇「ピーター・グライムズ」の「4つの海の間奏曲」と「パッサカリア」でした。初めて聞く曲だったこともあり,やや取っつきにくいところはあったのですが,テューバを含む大編成オーケストラによる多彩な響きを楽しむことができました。これを機会に,聞き込んでみたいと思います。

# 開演前にステージ上を撮影したのが右の写真です。

続いて,アリーナ・ポゴストキーナさんの独奏で,チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が演奏されました。ポゴストキーナさんの演奏は,非常に正統的で,センチメンタルな気分に溺れるようなところはありませんでした。オーケストラの編成も,ブリテンの時よりもかなり人数を減らしていたこともあり,古典的な曲を聞くようなまとまりの良さを感じました。

カデンツァの部分をはじめとして,音程も技巧も確かで,音楽が崩れることはなく,全体に安定感がありました。ただし,まじめで堅苦しい演奏というわけではなく,音色自体にほの暗い情感が常に漂っていました。そこが大変魅力的でした。オラモさん指揮の大船に乗ったような安心感のある演奏と共に,さりげないけれども,深さの残る演奏を聞かせてくれました。第1楽章のエンディング部分などは特に堂々としていましたので...盛大な拍手がわき起こりました。

第2楽章では,BBC交響楽団の木管セクションの水準の高さを実感できました。非常にしっかりとした高級感のある音で,ソリスティックで雄弁な音楽を聞かせてくれました。ポグストキーナさんの演奏は,第1楽章同様,ロマンティックになり過ぎることのない,節度と品の良さがありました。通俗的になり過ぎていない感じがとても良いと思いました。

ティンパニの一撃で気分が一新して,急速な第3楽章が始まりました。テンポは速く,揺れもありましたが,浮ついた感じにはならず,しっかりとチャイコフスキーの音楽を聞かせてくれました。ポゴストキーナさんのヴァイオリンには常に軽快さがあり,クライマックスに向けて,楽々と音楽が流れて行きました。

コーダの部分では,オーケストラの音量が一段階アップし,エンディングに相応しい充実感で,全曲を締めてくれました。見事な設計に基づいた演奏だったと思います。

アンコールでは,チャイコフスキーの「なつかしい土地の思い出」から「メロディ」が演奏されました。グラズノフ編曲による,オーケストラ伴奏版で演奏されましたので,ヴァイオリン協奏曲の2楽章の別バージョンといった趣きがあり,リラックスして楽しむことができました。

後半はブラームスの交響曲第1番が演奏されました。金沢でこの曲を聞く場合,オーケストラ・アンサンブル金沢+αぐらいの編成で聞くことが多いので,コントラバスが8本も入るプロの大編成オーケストラで聞くこと自体,私にとっては新鮮なことです。BBC交響楽団の音は,重厚なサウンドという感じではなく,しっかりとした芯のまわりに適度に肉が付いているような,バランスの良さを感じました(例によって,3階席で聞いていたせいもあるかもしれません)。

オラモさんのテンポは,全く慌てる部分はなく,全曲に渡って,非常に堂々とした音楽を聞かせてくれました。現代ではかえって珍しいほどの,惚れ惚れするほど構えの大きな演奏だったと思います。ただし,音楽が盛り上がる部分でも,これ見よがしに大げさな表現を取るような感じではなく,常に颯爽とした爽やかさも同居していました。

第1楽章冒頭のティンパニの連打の部分から,安定感と同時にエネルギーを感じさせる演奏でした。主部も堂々とした力感が溢れていました。慌てないけれども,自信に満ちた大きな流れを感じることができました。各楽器をしっかり鳴らし切ったような,彫りの深さの感じられる演奏でした。

第2楽章も慌てることなく,心のこもった歌をしっかり聞かせてくれました。素朴さのあるオーボエをはじめとして,木管楽器にはソリスティックな味わいがありました。終盤に出てくるコンサートマスターのソロもとても丁寧で,オーケストラ全体の音とバランス良く溶け合っていました。第3楽章の演奏からも,安定感のある線の太さを感じました。音楽が盛り上がってもうるさくなることはなく,自然な高揚感が作られていました。

第4楽章もまた聞き所の連続でした。悠揚とした雰囲気で始まった後,ティンパニの一撃がビシっと入り,ホルンの名旋律の部分になります。2本のホルンが重なり合うように演奏している感じで,スケール感豊かな立体感を感じました。引き続き,フルートにメロディが引き継がれますが,その輝きのあるしっかりとした音が見事でした。ソリストが演奏しているような雄弁さがありました。満を持して登場するトロンボーン3本によるコラールの部分は,とてもバランス良く,丁寧に演奏されていました。その意味深さが素晴らしいと思いました。

そして,第1ヴァイオリンに第1主題が登場します。その清々しい響きも素晴らしいと思いました。その後,次第にボリューム感と躍動感を増していきますが,その流れの良さには,安心して身を任せることができました。

楽章の終盤をはじめとして,どの部分を取っても,もったいぶったようなところはなく,変わったことはしていないのに,音楽を気持ちよく表現し切ったような爽快さが常に感じられました。オラモさんの指揮からは,巨匠指揮者のような風格と安心感を感じました。第4楽章のコーダの部分で,金管楽器を中心にコラール風のメロディを演奏する部分が出てきますが,本当に堂々と聞かせてくれました。「待ってました。たっぷりと!」と声を掛けたくなる感じでした。そして,最後は,どこか全てを悟ったような,少し脱力したような音でスッと締めてくれました。

アンコールでは,オラモさんの「お国もの」であるシベリウスの付随音楽「ペレアスとメリザンド」から間奏曲が演奏されました。最初の音が聞こえた瞬間,「気分は北欧」といった気分にさせてくれるような曲で,軽快に弾む素朴なリズム感が大変魅力的でした。リラックスして楽しむことができました。

以上のとおり,東芝グランドコンサートならではの,「名曲過ぎる」プログラムでしたが,その名曲の名に相応しい,堂々たる演奏を楽しむことのできた演奏会でした。ポゴストキーナさんという,これまで聞いたことのなかった素晴らしいアーティストに接することもできたのも大きな収穫でした。自分の記録を調べてみると,過去,オラモさん指揮でブラームスの交響曲第2番を聞いたこともあるので,この際,他の2曲もいずれ聞いてみたいものだと思いました。

(2018/03/10)








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