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石川県ジュニアオーケストラ第24回定期演奏会
2018年3月25日(日) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

モーツァルト/交響曲第40番ト短調,K.550
シュトラウス,ヨーゼフ/鍛冶屋のポルカ
榊原栄/キッチン・コンチェルト
カバレフスキー/組曲「道化師」
エルガー/行進曲「威風堂々」第1番
(アンコール)菅野よう子/花は咲く(管弦楽編曲版)

●演奏
鈴木織衛指揮石川県ジュニア・オーケストラ



Review by 管理人hs  


「もうすぐ桜も開花かな?」という気分になるような,穏やかな快晴の日曜の午後,石川県立音楽堂コンサートホールで行われた石川県ジュニアオーケストラの第24回定期演奏会を聞いてきました。指揮はお馴染みの鈴木織衛さんでした。

昨年のこの公演は,バレエとの共演という面白い試みでしたが,今年は,まず,オーソドックスに交響曲が演奏されました。やはり,バレエと共演すると,オーケストラ以上にダンスの方が目立ってしまうので,原点に立ち返ったのだと思います。

演奏されたのは,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)に挑む(?)かのように,モーツァルトの交響曲第40番の全曲でした。これは,今年の連休に行われる楽都音楽祭のテーマに合わせた選曲という意味もあったのだと思います。考えてみると,非常にチャレンジングな選曲でした。OEKがいつも演奏しているような,編成がそれほど大きくない曲ということで,言葉は悪いのですが,ごまかしが聞かない曲です。

本日の演奏も,さすがにいろいろと粗の目立つ部分もありましたが,まず音楽全体の構成がとても立派で,妥協したところがなかったのが素晴らしいと思いました。鈴木織衛さんが,「OEKを指揮する時以上に気合いを入れて指揮をしました。決して,手を抜いている訳ではないのですが...」と語っていたとおり,第1楽章の最初の低音のリズムの刻みの部分から,グッとアクセルを踏み込むような迫力を感じました。ベースとなる弦楽器の音にしっかりとした音の芯があり,浮ついた感じになっていないのが良いと思いました。非常に明確に演奏された,立派な40番だったと思いました。

楽器編成的には木管楽器の人数がとても多いなど,少々変わったバランスでしたが,結果として,いつも聞くのと違ったフレーズがくっきりと浮き上がってくるような面白い効果が出ていました。

第2楽章では,悲しみの深淵を見せるような中間部での表現が印象的でした。第3楽章では,トリオの部分が,ちょっとハラハラする感じでしたが,弛緩した感じがないのが良いと思いました。第4楽章は「疾走する悲しみ」というよりは,じっくり丁寧に悲しみを描いているようでした。クラリネットの響きがその気分にぴったりだと思いました。

交響曲は,特定のモチーフを地道に積み上げて大きな音楽を作る点に面白さがありますが,その辺の緊密感もしっかり出ていたと思いました。

前半が「トークなしのシリアスな音楽」だったので,後半は「トーク入りの楽しい音楽」の連続となりました。最初の2曲は打楽器奏者が主役として活躍する曲でした。

「鍛冶屋のポルカ」といえば,今年のOEKのニューイヤーコンサートでの楽しいパフォーマンスを思い出します。今回もまた,楽しいパフォーマンス(途中,新聞を読んだり,ペットボトルで水分補給をしたり)を見せてくれました。オーケストラの大らかな響きに加え,金床の音も美しかったですね,

故・榊原栄さん作曲の「キッチン・コンチェルト」は,。台所にあるフライパンなどの道具を打楽器として使う大変楽しい作品で,OEKとジュニア・オーケストラがいちばん頻繁に演奏している曲です(鈴木さん談)。ルロイ・アンダーソンの曲の「サンドペーパー・バレエ」を思わせる軽快さのある伴奏に乗って,打楽器奏者が楽しく色々な「打楽器」を叩くということで,ジュニアのメンバーには,とても難しい曲だったと思うのですが,演奏全体に「何年もこの曲を演奏している」と思わせるようなリラックスした気分まで出ていて素晴らしいと思いました。

さらに途中に出てくるカデンツァの部分では,打楽器パート総出演(7人ぐらいいたと思います)で,大変楽しいアドリブを聞かせてくれました。吹奏楽曲の定番の「宝島」の途中に打楽器のアドリブが出てくることがありますが,そういった楽しい気分満載でした。演奏後の鈴木さんのトークによると,ジュニアのメンバーにすべて任せたということでした。こういう自発性のある演奏は,これからも聞いてみたいなぁと思いました。

ちなみに,この曲については,基本モチーフを演奏するために,大きさの違う3種類のフライパンが不可欠なので,鈴木さんは「門外不出と思っていた」そうですが,専用フライパンを宅急便で簡単に送ることができることが分かってしまい,先日,京都のオーケストラでも演奏したとのことです。

その後,カバレフスキーの組曲「道化師」の全曲が演奏されました。ギャロップだけが有名な曲なので,全曲が演奏されるのは比較的珍しいかもしれません。短いながらも色々な性格を持った曲が続き,多彩なドラマが次々と展開していくような演奏を生き生きと楽しませてくれました。最後の曲は,今まで登場した「コメディアン総出演」といった生き生きとした楽しさがありました。この曲の英語タイトルが「Comedians」と複数形になっていることがよく分かる演奏でした。

最後はエルガーの威風堂々第1番を文字通り,堂々と演奏してくれました。改めて品格の高さのある曲だなと感じさせてくれるような演奏でした。鈴木さんの指揮による,ビシッと締まっていながら,優雅さを感じさせる音楽は,この曲の持つ英国紳士風の雰囲気にぴったりでした。

ちなみにこの曲でも打楽器が大変沢山登場していました。何が出てくるかじっと見ていたのですが,ティンパニ,大太鼓,小太鼓,シンバル,タンブリン,トライアングル,鈴に加え,最後にグロッケンが出てきました。そういえばそうだったなぁと思いながら聞いていました。トリオの有名がメロディが最初に出てくる直前に小太鼓の音がチョロッと入ったり(この部分が何故か好きなのです),小太鼓のロールの後,シンバルがジャーンと入って,大きく盛り上がったり,コーダの部分でシャンシャンと鈴の音が加わったり...壮大な曲なのに,なぜか細かい部分に耳が行ってしまう曲です。欲を言えば...パイプオルガンも入って欲しかったですね。

アンコールでは,オーケストラ演奏用に編曲された「花が咲く」がとても美しく演奏されました。各パートに見せ場があるとてもよくできたアレンジでした。鈴木さんが語っていたとおり,一輪ずつ花が咲いていった後,最後,全部の楽器が一体となってワーッと「花が咲く」感じが感動的でした。最後の部分での励ますようなリズムも良いなぁと思いました。

というわけで,今年の定期演奏会は,非常にジュニア・オーケストラらしい内容だったと思います。やはり交響曲を演奏するというのは,ジュニアにとっても大きな目標になるのではと改めて思いました。その点で,ジュニア・オーケストラのメンバーにとって「財産」になるような演奏会だったと思います。

(2018/03/25)













公演のポスター


色々な楽器を試すことのできるコーナーもありました。

音楽堂では,大々的に日本薬学会の準備も始まっていました。


もてなしドームには,「ガル祭」のタペストリーが掛かっていました。早いもので,あと1か月ほどで始まりますね。



金沢駅では,120年記念のパネル展示


3月は北陸新幹線の誕生月ということで,ケーキのようなオブジェもありました。