OEKfan > 演奏会レビュー
植村太郎×鶴見彩デュオリサイタル(宇宙の饗宴 Vol.II)
2018年4月3日(火)19:00〜 金沢市アートホール

シューベルト/ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ第1番ニ長調,D.384
ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調,op.78「雨の歌」
シュトラウス,R./ヴァイオリン・ソナタ変ロ長調,op.18
(アンコール)グラズノフ/瞑想曲
(アンコール)曲名不明

●演奏
植村太郎(ヴァイオリン),鶴見彩(ピアノ)



Review by 管理人hs  

満開の桜の中,植村太郎さんのヴァイオリンと鶴見彩さんのピアノによるデュオ・リサイタルを金沢市アートホールで聞いて来ました。聞きに行こうと思ったのは,リヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタとブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番という大曲2曲が演奏されたことです。リヒャルト・シュトラウスの方は,近年,演奏される機会が増えている隠れた名曲だと思っているのですが,金沢で演奏される機会は非常に少ないと思います。

植村太郎さんのお名前は,今回初めて知ったのですが,安定感のある,しっかりとしたヴァイオリンの音がまず素晴らしいと思いました。各曲とも,満開の桜の気分にぴったりの,聴き応え十分の演奏を聴かせてくれました。大げさな表現はなく,さりげなく演奏しているのに,しっかりと落ち着きのある音が広がり,音楽に常に余裕がありました。

ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番では,第1楽章から甘くなりすぎることなく,古典的な佇まいを持ちながら,その中にロマン派の曲にふさわしい,熱い情感が自然に漂っていました。曲の最初の部分の落ち着いた雰囲気をはじめ,鶴見さんのピアノにも植村さんのヴァイオリンにぴったりの安定感がありました。

第2楽章もじっくりと演奏され,深い呼吸を感じました。中間部は力強く演奏されていましたが,安っぽくなることはなく,底光りするような音楽を聴かせてくれました。第3楽章でも,「雨の歌」の愛称にふさわしい,ほの暗い音の流れが素晴らしいと思いました。楽章の最後の方で,ついつい思いの熱さがあふれ出てしまったような盛り上がりとその後に続く,しっとりとした名残惜しさが素晴らしいと思いました。

リヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタの方も聴き応え十分の演奏でした。第1楽章の最初は,ビシッと引き締まった鶴見さんのピアノでダイナミックに始まった後,植村さんのヴァイオリンが続きました。この辺については,もっと大げさに弾いてもらっても面白いかなとも思いましたが,曲が進むにつれて,次第に気宇壮大な気分になっていきました。華麗に駆け上っていくようなパッセージやたっぷりとした歌は,ロマン派音楽の到達点のような充実感を感じました。

第2楽章は,心のこもったインティメートな歌が印象的でした。今回のプログラムどおり,シューベルト,ブラームスと続くドイツ歌曲の伝統を感じさせるような楽章でした。静けさと深さを持ったヴァイオリンとキラキラとした感触もあるピアノの対話も印象的でした。

第3楽章は,ピアノのみによる暗い迫力を持った序奏の後,ヴァイオリンを加えて華麗な雰囲気を持った主部になります。バランスを壊すことなく,音楽のテンションが上がり,音の動きも大きくなっていくあたり,ゴージャスだなぁと思いました。お2人のコラボレーションによる,熱く重厚さのあるコーダも大変聴き応えがありました。

プログラムの最初に演奏されたシューベルトのソナチネ第1番もシンプルな曲想ながら,植村さんと鶴見さんによるしっかりとした音で演奏されると聴き応え十分でした。第2楽章は鼻歌のような感じの楽章,第3楽章は弾むような曲想でしたが,常に落ち着きと余裕があり,品格のある音楽をしっかりと聴かせてくれました。

アンコールでは,ロマンティックな気分に溢れたグラズノフの瞑想曲に加え,シンプルな歌と名技性の両方が楽しめるとてもキャッチーな曲(タイトルを知りたいところです)の2曲が演奏されました。特に2曲目の方は,最後の方は「これでもか,これでもか」と華やかな曲想が続き,聴き応え十分でした。

充実感たっぷりのソナタに加え,歌と技をたっぷりと楽しませてくれるようなアンコール曲ということで,ヴァイオリン・リサイタルの王道を行くような素晴らしい演奏会だったと思います。演奏会後は,少し遠回りして夜桜を眺めながら帰ったのですが,その気分にもしっかりとマッチした演奏会でした。このお二人の演奏で,是非,ドイツの室内楽曲をまた聴いてみたいものです。

PS. 演奏会終了後は,石川門付近の夜桜を眺めながら帰宅
 

(2018/04/10)






公演のチラシ

演奏会に行く途中,浅野川沿いを中心に花見をしました。