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オーケストラ・アンサンブル金沢ファンタスティック・オーケストラコンサート
「池辺晋一郎が選ぶクラシック・ベスト100」第4回
2018年5月17日(木)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) 池辺晋一郎/「池辺晋一郎が選ぶクラシック・ベスト100」テーマ曲
2) シャルパンティエ/テ・デウム ニ長調〜前奏曲(凱旋行進曲)
3) クープラン/クラヴサン曲集〜第1巻第1組曲から
4) ベルリオーズ/序曲「ローマの謝肉祭」
5) グノー/歌劇「ファウスト」〜宝石の歌「なんと美しいこの姿」
6) グノー/歌劇「ロミオとジュリエット」〜「私は夢に生きたい」
7) フランク/ヴァイオリン・ソナタ イ長調〜第4楽章
8) マスネ/歌劇「タイス」〜瞑想曲(編曲版)
9) サン=サーンス/組曲「動物の謝肉祭」〜第7番「水族館」,第12番「化石」
10) ビゼー/歌劇「カルメン」前奏曲
11) ビゼー/「アルルの女」第2組曲〜「メヌエット」「ファランドール」
12) ドビュッシー(ビュッセル編曲)/小組曲〜小舟にて
13) ドビュッシー/弦楽四重奏曲ト短調, op.10〜第1楽章
14) ラヴェル/弦楽四重奏曲ヘ長調〜第2楽章
15) ラヴェル/組曲「クープランの墓」〜リゴドン(管楽五重奏とピアノ版)
16) デュパルク/旅への誘い
17) アーン/妙なる時
18) フォーレ/組曲「ペレアスとメリザンド」〜シシリエンヌ
19) フォーレ/3つの歌, op.7〜夢のあとに
20) サティ/ジュ・トゥ・ヴ
21) ドリーブ/バレエ音楽「コッペリア」〜マズルカ

●演奏
田中祐子*2,46,10-12,18,21;池辺晋一郎*1指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:松浦奈々)*1-2,4-6,10-12,18,21
オーケストラ・アンサンブル金沢メンバー*8,9,13-15
小林沙羅(ソプラノ*5,6,16,17,19,20),松浦奈々(ヴァイオリン*8),松井晃子(ピアノ*9,16,17,19,20;チェンバロ*2),田島睦子(ピアノ*7,9,15)
お話:池辺晋一郎



Review by 管理人hs  

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のファンタスティック・オーケストラコンサートシリーズで定期的に行われている「池辺晋一郎が選ぶクラシック・ベスト100」の第4回目が行われたので,聞いてきました。この「ベスト100」シリーズは,毎回テーマを決めて,池辺さんが選ぶ「聴き所たっぷりの20曲」を演奏するというものです。今回のテーマはフランス音楽でした。

このシリーズについては,池辺さん自身が「(全部演奏しないので)欲求不満コンサートです」と語っていたとおり,「少々中途半端かな?」と思い,これまでは聞きに行かなかったのですが,今回初めて聞きに行ってみて,むしろ「通常のコンサートにはない豪華さがある」と感じました。

OEKは室内オーケストラなので,大編成の曲を演奏するのは(予算的に?)難しいのですが,それを逆手に取るように,室内楽曲が出てきたり,ピアノ伴奏の歌曲が出てきたり,バロック音楽があったり近代の曲があったり...大変変化に富んだ編成になっていました。このことは,交響曲が少ないフランス音楽の世界にぴったりの選曲だったように思いました。

最初に,池辺さん作曲によるこのシリーズのテーマ曲が演奏されました。モーツァルトの「ジュピター」の冒頭で始まった後,次々と色々な曲の断片がつながれた曲でした。原調のままつないだのが「技」とのことでしたが,少々落ち着かない気がしないでもありませんした。

フランス音楽の最初は,シャルパンティエのトランペットのファンファーレ風の曲で始まりました。実質こちらの方が序曲っぽい感じでした。この曲ですが,池辺さんが「聞けば分かる曲」とおっしゃられていたとおりの有名な曲です。ヨーロッパから音楽番組が中継される時(ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートなど)に必ず流れる曲ですね。コンサートホールで聞くと,広々としたスケールの大きさを感じました。

この曲はヴェルサイユ楽派の曲でしたが続いて,バロック時代を代表して,クープランのチェンバロ(フランスだとクラブサンでしょうか)曲が松井晃子さんの独奏で演奏されました。平日の仕事が終わった後に聞くのにぴったりの音楽で,血圧が多少下がって,血液がサラサラと流れる気がしました。

ここで池辺さんの洒落を一つ。ギョーム・ド・マショーは,「老いらくの恋」で有名。「魔性(マショー)の女」に引っかかりました。

演奏会の前は,「どの曲も途中で終わるのだろう」と予想していたのですが,大半の曲はしっかりと全曲を演奏していました。例えば,次ぎに演奏された,ベルリオーズの「ローマの謝肉祭」序曲など,OEKが滅多に演奏しない曲もしっかり全曲を演奏してくれたのも嬉しかったですね。この曲は,私がクラシック音楽を聞き始めた最初期の小学校高学年の頃に聞いた思い出の曲です。田中祐子さん指揮のキビキビとした気持ちよい指揮で爽快に楽しませてくれました。ちなみにこの曲の打楽器なのですが,タンバリンが2人居たように見えました。これが沸き立つ躍動感のスパイスになっているんだなぁと実演を見て気づきました。

その後,オペラのコーナーとなり,ソプラノの小林沙羅さんの独唱でグノーの作品が2曲歌われました。グノーの歌劇「ファウスト」の中の「宝石の歌」は特に一度生で聞きたかったアリアでした。両曲とも清潔感と若々しさ,そして力強さもあり,マルガリータやジュリエットのイメージにぴったりでした。

オーケストラ演奏の合間に,室内楽曲がかなり沢山演奏されていたのも特徴でした。今回は,ゲストコンサートマスターとして松浦奈々さんが参加していましたが,松浦さんを中心としたメンバーで,フランクのヴァイオリン・ソナタの一部,ドビュッシー&ラヴェルの弦楽四重奏の一部などが変奏されました。室内楽曲については,あえて完結感を無くし,「途中で終わりましたよー」という感じで終わっていたのも面白かったですね。池辺さんのお話だと,「もっと聞きたいと思わせる作戦」とのことでした。

タイスの瞑想曲については,「全曲ではないけれども,まとまりのある編曲」によるものでした。ハープや弦楽器の上に独奏ヴァイオリンが乗っているような美しい演奏でした。ただし,曲が始まってすぐに転調して中間部になるような感じだったので,ちょっと違和感を感じました。

その後,オリジナル編成(弦五部+フルート+クラリネット+ピアノ2+鍵盤打楽器)で「動物の謝肉祭」の中の「水族館」「化石」が演奏されました。2曲とも,特にサン=サーンスらしいウィットのある作品ですが,「白鳥」などに比べると,意外に実演で聴く機会はない作品です。シロフォンやグロッケンが加わった透明感のある響きをしっかり楽しむことができました。

前半最後は,おなじみビゼーの「カルメン」と「アルルの女」の中の曲が演奏されました。特にOEKのフルート奏者,松木さやさんがソロ・パートを演奏した「メヌエット」が素晴らしいと思いました。池辺さんが語っていたとおり,この日は,フルートとハープが大活躍する作品が満載で(フランス音楽の特徴と言えます),この曲以外にも,後半で,ドビュッシー「小組曲」の「小舟にて」,フォーレの「ペレアスとメリザンド」のシシリエンヌという具合で,フルート音楽のファンには堪えられない,フルート名曲集になっていました。そのいずれもで,松木さんの,プリマドンナを思わせる豊かさのある演奏を楽しむことができました。

後半は,この小組曲に続いて,上述のどおりドビュッシーとラヴェルの弦楽四重奏曲がそれぞれ途中まで演奏されました。その後,OEKの管楽メンバー5人+田島睦子さんのピアノで「クープランの墓」のリゴードンが演奏されました。これもまた素晴らしい演奏でした。フランスの有名な管楽アンサンブルに「レ・ヴァン・フランセ」というアンサンブルがありますが,それと同じ編成のはずです。この曲は,OEKの室内楽シリーズでも聞いた記憶はありますが,この編成で,また色々な曲を聴いてみたいものだと思いました。

プログラムの終盤は,前半でオペラアリアを2曲歌った小林沙羅さんが再登場し,松井晃子さんのピアノと共に,デュパルクの「旅への誘い」,アーンの「妙なる時」,フォーレの「夢のあとに」,サティの「ジュ・トゥ・ヴ」を歌いました。小林さんは,私自身,密かに(別に隠す必要はありませんが)応援している歌手の一人です。今回,予想以上に出番が多く,嬉しくなりました。フランス名歌曲集といった趣きがあり,この部分を聞いただけでも来た甲斐があったと思いました。

アーンの「妙なる時」だけは,全く聞いたことのない曲だったのですが,池辺さん自身の思い出の作品&お薦めの作品とのことでした。その言葉どおりの愛すべき作品でした。こういった曲に巡り会えたのも大きな収穫でした。

小林さんの歌は,瑞々しく可憐な雰囲気と同時に,華やかで,心の強さを感じさせてくれるのが素晴らしいと思います。

最後はドリーブのバレエ音楽「コッペリア」の中のマズルカが力強く演奏されました。池辺さんのお話によると,池辺さんの作曲の師匠は「ドリーブ〜ビュッセルの系列」とのことで,この曲をトリに持ってきたのは,そのオマージュの意味も合ったのかもしれません。キビキビとした運びの演奏で,気持ちよく演奏会を締めてくれました。

今回は全部で20曲も演奏されたのですが,うまくトークが入っていたこともあり,落ち着きのない細切れ感がなく,むしろ,大変じっくりとフランス音楽を楽しむことができた気がしました。一曲ごとが短く,疲労感も少なかったので,平日の夜に楽しむのにもぴったりだったと思います。

このシリーズ,食わず嫌い(?)でこれまで参加してこなかったのですが,個人的にはどなたにもお薦めできる内容だったと思います。楽器編成がコロコロ代わるので,演奏者の椅子のセッティングの変更がものすごく多いなど,裏方の仕事は大変だったと思いますが(恐らく,楽譜を揃えるのも大変だし,リハーサルも大変だったのではないかと思います),その労力に見合うだけの,楽しくて聞き応えのあるコンサートになっていたと思います。あと1回ありますので(テーマは...忘れました),是非聞きに行ってみたいと思います。

(2018/05/27)






公演の立看板


開演までのスライドショーです