OEKfan > 演奏会レビュー
冨田一樹オルガン・リサイタル
2018年5月31日(木)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

バッハ,J.S./前奏曲とフーガ ハ短調, BWV.546
バッハ,J.S./いと高きところにいます神にのみ栄光あれ, BWV.662
バッハ,J.S./我ら悩みの極みにありて, BWV.641
バッハ,J.S./天にまします我らの父よ, BWV.682, 683
バッハ,J.S./トッカータ,アダージョとフーガ ハ長調, BWV.564
ブクステフーデ/前奏曲ハ長調, BuxWV.137
パッヘルベル/幻想曲ト短調, P.128
シャイデマン/エコー・トッカータ ト長調, WV.43
バッハ,J.S./前奏曲とフーガ ホ短調, BWV.533
バッハ,J.S./装いせよ,おお,魂よ BWV.654
バッハ,J.S./パッサカリア ハ短調, BWV.582
(アンコール)バッハ,J.S./来たれ造り主たる聖霊の神よ, BWV.667

●演奏
冨田一樹(オルガン)



Review by 管理人hs  

冨田一樹さんのオルガン・リサイタルが,石川県立音楽堂コンサートホールで行われたので聞いてきました。冨田さんは,2016年のライプツィヒ・バッハ国際コンクールで優勝した方ということで,今回のプログラムも「ほとんどバッハ」というプログラムでした。

プログラムは,前半後半とも,「前奏曲とフーガ」「トッカータ,アダージョとフーガ」「パッサカリア」などの重量感のある曲の間に,コラールなどの穏やかな感じの曲を配する配置になっていました。いかにもオルガン曲らしい,輝きと重厚さと力強さと,1曲ごとに音色が変化する,柔らかな雰囲気の両方を楽しむことができ,プログラム全体としての,統一感と多彩さがありました。まず,この構成が素晴らしいと思いました。

最初に演奏された,前奏曲とフーガでは,まず,石川県立音楽堂のパイプオルガンの音の充実感に浸ることができました。この日は1階席で聞いてみたのですが,オルガンの低音が特によく聞こえてきました。耳で聞くというよりも,体で感じるといった感覚がありました。オルガンの音色の方は,「イメージどおりのパイプオルガンの音」(何と表現すれば良いのか分からないのですが)で,「バッハのオルガン曲らしい」と思いました。全体に落ち着きのある展開で,フーガの美しさと堂々とした立派さを感じることができました。

その風格に圧倒されたのか,何となく緊張感があったのか,はじめのうちは曲が終わった後に拍手が入らなかったのですが(曲の区切りが分からなかったのかもしれません),曲が進むにつれて,拍手が入るようになってきました。

その後,オルガン・コラールが3曲演奏されました。こちらの方は曲の規模が小さく,叙情的な歌を味わうことができました。素朴な音が出てきたり,可愛らしい感じの音が出てきたり,トランペット風の音が出てきたり,オルガンという楽器の色彩感を楽しめました。

前半の最後に演奏された「トッカータ,アダージョとフーガ」は,3楽章からなるイタリア風協奏曲といった作品で,全プログラムの中でも特に印象的な曲でした。第1楽章にあたる,「トッカータ」の部分では,切れ味の良い華やかな音楽が続きました。途中,足鍵盤だけによる音楽がかなり長く続く部分があり,「これは凄い」「全運動だな」と思いながら聞いていました。主部での,心地よい推進力を持った音の動きも素晴らしいと思いました。気力が充実した輝くような前向きさを感じました。

「アダージョ」の部分では,一転して少し甘さを持った静かな雰囲気になりました。ミステリアスな和音が魅力的でした。「フーガ」の部分も,「トッカータ」の部分同様の輝かしさがあり,爽やかに全曲を締めてくれました。変化に富んだ音楽を鮮やかに聞かせてくれるような演奏でした。

後半の最初のコーナーは,バッハ以外のブクステフーデ,パッヘルベル,シェイデマンの曲のコーナーでした。いずれも,J.S.バッハが影響を受けた作曲家ということになります。ブクステフーデの曲は,フーガ,シャコンヌなど色々な要素が詰め込まれた曲で,その曲想の変化を楽しむことができました。

パッヘルベルの曲は,ロマンティックな気分さえを感じさせるような瞑想的でミステリアスな曲でした。ふんわりとした感じが良いなぁと思いました。シャイデマンの曲は2つの声部のメロディが絡み合ったり,エコーになったりする曲でした。特に後半のエコーの部分は,フーガほど厳格な感じはなく,どこかユーモラスな気分を感じました。

3曲とも,それぞれに特徴的で,演奏会全体の中で良いアクセントになっていると思いました。

その後,ファンファーレのようなテーマが特徴的だったバッハの「前奏曲とフーガ」の後,そこはかとなく甘い香りのするオルガン・コラールが演奏されました。冨田さんによる曲目解説によるとシューマンやメンデルスゾーンにも人気の曲とのことでした。そのことが分かるような作品でした。パンフルートのような味のある音と深い余韻を感じさせる深く静かな響きが素晴らしいと思いました。

この曲を含め,今回は,これまであまり馴染んでこなかった,オルガン・コラールが数曲演奏されました。どの曲も味わい深いと思いました。日常的に,寝る前などに聞いてみると,敬虔な気分で熟睡できるのでは,と思ったりしました。

最後は「パッサカリア(パッサカリアとフーガと書かれることもある曲です)」で締められました。この日演奏された曲の中でいちばん重量感のある曲で,荘厳な美しさがありました。日常とは別世界の,巨大な建築物に一歩ずつ入っていくうな雰囲気を味わうことができました。いちばん最後の音はとても長〜く伸ばしており,一目瞭然の集結感で演奏会全体を締めてくれました。

最後に冨田さんのトークが入った後,アンコールで短めのコラールが1曲演奏されて,お開きとなりました。

石川県立音楽堂コンサートホールのパイプ・オルガンだけによるリサイタルを聞くのは,久しぶりの気がします。今回,冨田一樹さんによる,王道を行くようなバッハ演奏を聞いて,年数回は,こういう演奏会に来て,気分を引き締めるのも良いかなと思いました。

(2018/06/06)





公演のポスター


公演の案内