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オーケストラ・アンサンブル金沢小松定期公演春:OEK設立30周年記念特別プログラム
2018年6月12日(火)19:00〜 こまつ芸術劇場うらら大ホール |
1) チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番変ロ短調, op.23
2) チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調, op.64
3) (アンコール)チャイコフスキー/アンダンテ・カンタービレ
●演奏
川瀬賢太郎指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:石田泰尚)
平野加奈(ピアノ*1)
前週に,川瀬賢太郎指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)による,シューマンの「ライン」と武満徹の「系図」を中心とした素晴らしい定期公演を聞いたばかりでしたが,この日はOEKが単独で演奏する機会は非常に少ない,チャイコフスキーの大曲2曲を演奏する小松定期公演が行われるということで,仕事を早めに切り上げ,車で小松まで出かけて聞いて来ました。
この公演には「OEK設立30周年記念特別プログラム」というサブタイトルが付いていましたが,OEK単独でチャイコフスキーの交響曲を演奏するには,どうしてもメンバーを増強する必要があります。その点がまずスペシャルでした。弦楽器の方は各パート2名ずつぐらい増員し,金管楽器も増強していましたので,この日のOEKは,合計60名ぐらいの編成になっていました。定員が40名程度ですので,通常の1.5倍の編成ということになります。「OEK+」といったところでした。
この編成によるチャイコフスキーですが,こまつ芸術劇場うらら大ホールの音響が,かなりデッドだったこともあり,各楽器の音が非常にクリアに聞こえてくるのが特徴でした。60名のオーケストラを聞くとなると,音がダイレクトに聞こえすぎて,少々疲れる部分もあったのですが,その分,OEKのアンサンブルのすばらしさを再認識することができました。
このことは,川瀬さんの音楽作りの精緻さにもよると思います。各楽器の音の動きやニュアンスの変化が非常に鮮やかに分かり,「スコアが見えるような演奏」というのは,今回のような演奏なのではと思いました(実際にスコアを見ているわけではないので,想像で書いているのですが...)。交響曲第5番はもともと聞き所満載の作品ですが,その魅力が細部に渡るまで鮮やかに伝わってきました。
実はスコアも持っています。
川瀬さんのテンポ設定は,土曜日の金沢での定期公演の時同様,あわてたようなところはありませんでした。第1楽章の冒頭,クラリネットの演奏。ここは2人で演奏するのですが,改めて「ぴったりあってるなぁ。ニュアンスが豊かだなぁ」と感心しました。主部に入っても,厳しさのある強奏としたたるようなカンタービレが交錯し,ニュアンスの変化が非常によくわかりました。それと,要所ではしっかりと間をとって,スケールの音楽を聞かせてくれました。楽章最後の力強い歩みも印象的でした。
第1楽章と第2楽章との間のインターバルは非常に短かったと思います。第3楽章と第4楽章の間も短かったので,全曲を2つの部分に分けて演奏していた感じでした。そのことによって緊張感が持続すると同時に,曲想の変化が鮮やかに感じられました。
第2楽章の冒頭は何といってもホルンの独奏が聞き所です。金星さんは夢見るような雰囲気の音でじっくりと聞かせてくれました。この部分を聞きながら,改めて,チャイコフスキーはバレエ音楽の大家だったんだな,と何となく思いました。この楽章でも中盤から後半にかけての盛り上げと,大きな間を取った緊迫感に引き込まれました。このホールだと,主旋律だけでなく,対旋律もクリアに聞こえるので,特に聞きごたえがあると思いました。
第3楽章では,しっかりと歌われた主部のワルツと中間部での精緻な音の世界とのコンラストが楽しめました。第4楽章は,最初の部分の弦楽合奏の澄んだ音が素晴らしいと思いました。トランペットのクリアな音も見事でした。さすがOEKという音でした。主部に入ると,ビシッと引き締まったスピーディな展開になります。この部分では,ホルンがタンギングのような感じで細かい音を吹く部分がとてもクリアに聞こえました。その後に続く,木管の合奏で流れるようなメロディを演奏する部分もがはっきり聞こえてきました(最近,こういう部分が好きなのです),どこをとっても臨場感たっぷりでした。
スコアで示すとこの部分ですね(第2主題ということのようです)。
それにしても,今回の演奏では,色々な音が聞こえてきました。第1楽章の最後の部分のファゴットの音が非常に不気味に聞こえたり,第2楽章のホルン独奏のヴィブラートがクリアに聞こえたり...チャイコフスキーの交響曲第5番は何度聞いても楽しめる曲ですが,今回の演奏は,いつもとは違った部分に光を当ててくれたような,素晴らしい演奏だったと思います。
その後はクライマックスに向けて,ギアを一段ずつ切り替えて行くように進んでいきます。各楽器がクリアかつ強く聞こえ,音の饗宴といった感じになっていました。楽章の終盤,大き目の溜めを作った後,さらに音量がアップし,壮絶さが増し,ケレン味なくコーダへと入っていきました。コーダの部分では,品格の高さを感じさせるようなトランペットの音が良いなぁと思いました。さらに輝きを増し,最後のダダダダンの部分は自信たっぷりに締めてくれました。
この部分での緊張感と高揚感,そして非常に流れの良い,推進力。やっぱりこの曲は良い,とつくづく思いました。その後,客席からは大きなブラーヴォの(ような)声がかかりました。...が,ちょっと非音楽的な声だったのが残念でした。
前半では,金沢出身のピアニスト,平野加奈さんとの共演でチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番が演奏されました。こちらも立派な演奏でした。平野さんがこの曲を演奏するのは,昨年末に金沢で行われた,ロシアの交響楽団との共演以来のことだと思いますが,この難曲に正攻法で取り組んだ,渾身の迫力が伝わってくるような演奏だったと思います。特に両手のオクターブで速い動きが続く部分などは,とても華やかでした。さすがにこのホールで聞くと,少々余裕のない感じに聞こえる部分もあったのですが,軽薄な感じになることはなく,曲全体としての立派さを感じさせてくれるような演奏だったと思います。
OEKの演奏についても,交響曲第5番の時同様,個人技とマスとしての迫力の両方を楽しむことができました。特に第2楽章でのフルートの松木さんの音が素晴らしいと思いました。少し前のNHK朝ドラの主題歌に「ニジイロ」という曲がありましたが,一つの音の中に虹のように色々な音色が混ざっているようなとても豊かな音でした。ピアノのソロをファゴットが渋く支えていたり,チェロ(この日はカンタさんでしたね)のしみじみとした音が聞こえてきたり,オーケストラとピアノが一体になったアンサンブルが良いなぁと思いました。
そして,強烈なティンパニの音に続いての,第3楽章は実にパワフルな音楽でした。ピッタリ合うか合わないか,といった部分も含め,ライブならではのスリリングさを楽しむことができました。
平野さんについては,石川県立音楽堂ができて間もない頃の,石川県新人登竜門コンサートに出演されて以来注目していたのですが,その後,次第に活躍の場を広げ,ついにはチャイコフスキーのピアノ協奏曲でOEKと再共演することができましたね。このことに感慨深さのようなものを感じています。こういう形で,長いスパンに渡っての成長を見守ることができるのも,音楽を長く聞き続けることの喜びの一つだと思います。
演奏会の最後は,弦楽合奏でアンダンテ・カンタービレがアンコールで演奏されました。暖かで豊かな気分に溢れた演奏で,川瀬さんが,OEKというファミリーの一員になったことを実感できた気がしました。
というわけで,川瀬×OEKシリーズ第2弾も大変充実した内容でした。ツイッターの情報によると,川瀬さんは金沢カレーのゴーゴーカレーが大好きとのこと。これにちなんで,私も金沢に戻る途中,(すでに夜10時を過ぎていましたが)ゴーゴー・カレーを食べてしまいました。チャイ5の後に55ということで,妙に良い感じで元気が出ました(さすがに翌日まで影響はあったのですが...)。
PS. 書き忘れていましたが,この日のコンサートマスタは,神奈川フィルのコンサートマスターの石田泰尚さんが客演していました。以前にも客演されたことがありますが,やはりその雰囲気には妙に迫力がありました。白い縁の眼鏡(次の写真のような感じ)もインパクトがありました。この日の迫力のある演奏の,何%セントかは,石田さんのオーラの力もあったかもしれないですね。
https://www.townnews.co.jp/0205/2017/03/24/375459.html

開演前,JR小松駅内の「カレーの市民アルバ」に行こうと思ったのですが,運悪く定休日。第2候補だった「小松うどん」の店へ。ただし,こちらも「熱いものは今できないんです」と言われ,ざるうどんに。

終演後,やはり「ざるうどん」だけだとお腹が空いたので,川瀬さんも好きな金沢カレーを食べることに。金沢市内に戻った後,ゴーゴーカレーの店へ。夜の10時過ぎに食べるものではありませんでしたが,豪快にカツカレーを食べて満足して帰宅。
(2018/06/16)
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公演のチラシ

ホールの入口

今回は2階で聞きました。ゆったり聞けそうだなぁ...と思っているうちに,吹奏楽部らしき女子高生が続々と入ってきて,ほぼ満席に。吹奏楽部顧問のような気分(?)を味わうことができました。
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