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music a@rt season12 オーケストラ・アンサンブル金沢設立30周年記念「時・空間」
2018年6月17日(日) 1回目11:00〜 2回目13:00〜 金沢21世紀美術館内

*演奏曲目(作曲年)
1) バッハ/エア(1731)
2) モーツァルト/アイネ・クライネ・ナハトムジーク〜第1楽章(1787)
3) シューベルト/楽興の時第3番(1823-1828頃)
4) プッチーニ/菊(1892)
5) ショスタコーヴィチ/ポルカ(1931)
6) 一柳慧/インタースペース〜第4楽章(1986)

●演奏・出演
オーケストラ・アンサンブル金沢メンバー(トロイ・グーキンズ,若松みなみ(ヴァイオリン),古宮山由里(ヴィオラ),ソンジュン・キム(チェロ))
ダンス:小尻健太*6



Review by 管理人hs  

金沢21世紀美術館(21美)で,music a@rtシリーズ:オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)設立30周年記念として,OEKメンバーによる弦楽四重奏とダンサーの小尻健太(尻の字は「?」なのですが,環境依存文字になってしまうのでこの字にしました)さんが美術館内で共演するというとても面白そうな企画があったので出かけてきました。

21美とOEKとは,前音楽監督の井上道義さんが,21美が大好きだったこともあり,館内で色々と企画を行っていましたが,ここ数年はクリスマスシーズンの企画だけだった気がします。今回はヴァイオリンのトロイ・グーキンズさん,若松みなみさん,ヴィオラの古宮山由里さん,チェロのソンジュン・キムさんが出演し,西洋音楽300年の歴史をたどった後,最後に小尻さんと共演するという趣向でした。

公演は11:00と13:00からの2回行われました。私は11:00からの方に参加してきました。こういうイベントはいつもそうなのですが,パフォーマンスが始まると「何だ,何だ?」という感じで人が集まってくる「立見効果」というのがあります。第1回の方も,続々と人が集まってきて,大道芸を楽しむような趣きもありました。こういうのも狙いの一つですね。

まず,OEKの演奏に先立って,小尻さんによるダンスが行われました。ダンスは市民ギャラリー近くの「光庭」で行われました。



この日は,最高の「ダンス日和(?)」でしたね。正直な所,ダンスで何を表現しようとしているのかよく分からなかったのですが,手足の動きを中心に,「空間を支配しよう」としているのではと感じました。地球上には重力があり,人間には身体というものがあります。その制約と自分の「思い」とのせめぎ合いなんだなと感じました。その「思い」が形となって表れる一瞬。その時空間に入る込むことがダンスを見る面白さかなと何となく感じました。

その後,「情報ラウンジ」に移動し,フワフワのカーペットの上で弦楽四重奏による演奏を聞きました。途中で退出した人がいたので,だんだんと前に押し出され「かぶりつき」というか大相撲で言うところの「砂かぶり」のような場所で聞くことになりました。これも楽しかったですね。


プログラムの構成はバッハから一柳慧まで,西洋音楽300年の歴史をたどる構成でした。前半,おなじみの曲が続いた後,だんだんとマニアックな世界へと入っていくような流れになっていました。大変間近だったので,例えば,レガートとピツィカートの切り替え,ヴィブラートのかけ方,ちょっとしたニュアンスの変化。こういったことがとてもよく分かるのが面白かったですね。

バッハのアリアがしっとりと始まると,お客さんが続々と集まってきました。音楽には,空間に色を付ける,そういった力があると思いました。モーツァルトのアイネ・クライネ・ナハトムジークの第1楽章は,何回も演奏されている曲ですが,場所が違うと新鮮に感じられます。終結部の名残惜しさとそれを振り切って終わる感じが良いなぁと思って聞いていました。

シューベルトの「楽興の時」第3番は,もともとはピアノ独奏曲ですが,弦楽四重奏でゆったりと演奏されるのも良いものです。タイトルどおり「楽と戯れる時」でした。この曲のタイトルですが,Moments musicauxというオリジナルも良いですが,「楽興の時」という簡潔な日本語訳も良いですね。

プッチーニの「菊」は,オペラ作曲家には珍しい室内楽曲ですが,シューベルトまでとはひと味違った,「大人の空気(?)」が漂うのが良い感じでした。調べてみると作曲された年は1892年。半音進行が出てきて,ちょっとウルウルしたムードになるあたり,「気分は世紀末」といった魅力を感じました。前日に,竹久夢二による本の装幀の話を聞いたばかりだったので,この辺と合わせて聞いても面白そうと思いました。

ショスタコーヴィチのポルカは,この作曲家ならではの,風刺の精神がピリッと効いた作品です。ピツィカート中心のユーモアを感じさせる曲なので,この曲も一種ショスタコーヴィチ版「楽興の時」かもと思いました。

最後,一柳慧さんのインタースペースが演奏されました。この曲は,過去何回か聞いたことがありますが,武満徹のレクイエムのように響いたり,バルトークのように聞こえたり,いろいろな要素が混ざっているなと思いました。

通常のホールだとかなり晦渋に聞こえたかもしれませんが,これだけ間近だと,初めて聞く人でも,演奏そのものの迫力に引き込まれたのではないかと思います。

この一柳さんの曲についてだけは,小尻さんのダンスとの共演でした。上述のとおり,人間というのは地球上に暮らしている限り,重力を意識せざるを得ないのですが(今回のように,地べたに座って聞いているうちに,だんだんと姿勢が悪くなり,腰が痛くなってくるのもそのせい?),それに逆らい,空間を支配しようとする動きがアーティスティックなダンスなのだと思います。そして,音楽の方は,通常何となくダラダラと流れていく時の流れに,色とメリハリを付ける働きがあると思いました。

アートというのは,「空間の広がり,時の流れ」を日常と違った風に感じさせてくれる働きと言えると思います。その一方,こういうパーフォーマンスは,ただボーッと浸っていれば良いのだと思いいます。アーティストたちの作る,少し違った時空間に浸る楽しみもあると思いました。

この企画,是非続編にも期待したいと思います。OEKでなくても,ピアノ演奏あたりでも良い気がします。窓の外,雨が降る時に武満徹のピアノ曲を聞いたり(こういう設定になるか分かりませんが),展示室内で音楽を聞いたりという企画も面白いと思いました。

この日はとても爽やかな気候でしたので,公演後,金沢城の周りをあてもなく自転車で一回りしてきました。写真などは以下のブログの方をご覧ください。

#21美で music a@rt #オーケストラ・アンサンブル金沢(#OEK)設立30周年記念「時・空間」に参加。OEKメンバーによる弦楽四重奏と #小尻健太 さんのダンスのコラボ #oekjp (
OEKfanの日々のできごと 2018年6月17日)

(2018/06/24)





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