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金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第43回サマーコンサート
2018年7月8日(日)15:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール

ビゼー(ホフマン編)/「カルメン」第1組曲
フィンジ/弦楽合奏のためのロマンス
ドヴォルザーク/交響曲第9番ホ短調,op.85「新世界から」

●演奏
高木優佑指揮金沢大学フィルハーモニー管弦楽団



Review by 管理人hs  

この時期恒例の金沢大学フィルハーモニー管弦楽団のサマーコンサートが石川県立音楽堂コンサートホールで行われたので聞いてきました。この日の金沢は,昨日までの雨が晴れ,気温の方も,文字通り「サマー」でした。

プログラムは,最初にビゼーの「カルメン」第1組曲,後半はドヴォルザークの「新世界」交響曲ということで,おなじみの名曲路線でしたが,その間に,英国の作曲家,フィンジの「弦楽のためのロマンス」という,「オッ」と思わせる曲が入っていたのがポイントでした。

メインの「新世界」については,つい2週間前同じ場所でスロバキア・フィルによる見事な演奏を聞いたばかりだったので,いろいろとプレッシャーがかかったと思いますが,この日の演奏も両端楽章を中心に,集中力の高い,気合い充分の演奏を聞かせてくれました。

第1楽章主部はスピーディな展開の後,フルートがじっくりと濃厚な音を聞かせてくれました。コーダの部分のトランペットを中心とした勢いのある音楽も良いと思いました。第2楽章は,最初に出てくる管楽器のハーモニーがやや不安定が気がしましたが,中間部での,コントラバスのピツィカートなど良い感じだなと思いました。第3楽章は,快適な推進力のある音楽でした。ここでもトリオの部分での「空気がパッと変わる」感じが良いと思いました。

第4楽章には,ほとんどインターバルを入れず,連続的に演奏していました。金管楽器を輝かしさのある音楽は,大変聞き映えしました。この日の演奏ですが,全曲を通じて,ティンパニの強打,木管楽器の生き生きとした表情がとても良いと思いました。もしかしたら,スロヴァキア・フィルの演奏の影響を受けている部分もあったのかもしれませんね。堂々とした聞き応えと若々しさを持った演奏だったと思います。

その一方で,「新世界」交響曲は,超名曲と言われているけれども,それだからこそ,怖い曲だなと改めて思いました。ホルン,イングリッシュホルン...など聞かせどころだからこそ,粗が目立ちやすい部分があります。今回の演奏もパーフェクトではなかったと思いますが,第2楽章のイングリッシュホルンも,第4楽章のホルンのハイトーンとその後のアンサンブルの部分なども「よくがんばった!」演奏だったと思います。

一つ残念だったのは,第4楽章の最後の部分でしょうか。長〜く音を伸ばして終わる部分で,待ちきれずにパラパラと拍手が入りました。この部分は,ハーモニーの美しさをじっくり聞きたかったですね。

前半に演奏された,「カルメン」の方も,大変流れの良い演奏でしたが,少々ソツがなさ過ぎるところがあったかもしれません。今回の組曲版では,オペラの進行順ではなく,次のような曲が演奏されました。
  1. 前奏曲(第1幕への前奏曲の後半部分):オペラ全体のライトモチーフと言っても良い,不吉な感じの「運命のモチーフ」が大げさになりすぎずに演奏されました
  2. アラゴネーズ(第4幕への前奏曲):タンバリンの音を加えての爽やかで軽快な演奏
  3. 間奏曲(第3幕への間奏曲):フルートとハープによる,昼下がりの情緒という感じ
  4. セギディーリャ(第1幕のカルメンの歌):木管楽器などが「カルメン役」。この曲はやはり声がないと少々物足りないかも。それと「怪しい揺らぎ」のようなものが欲しかったかな
  5. アルカラの竜騎兵(第2幕への前奏曲):ファゴットによる確固たる足取り
  6. トレアドール(第1幕への前奏曲の前半):お待ちかねの有名曲。余裕のあるテンポで心地よく聞かせてくれました
調べてみると,ホフマンという人の編曲版のようです。シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団が,第1組曲,第2組曲とも録音しています。第2組曲の方が,より「編曲」的です。
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そして今回の目玉は,やはり,前半2曲目に演奏されたフィンジの弦楽のためのロマンスだったと思います。私自身,初めて聴く曲でしたが,大変美しい曲でした。隠れた名曲だと思いました。メロディの中に不思議な懐かしさのようなものがあり,英国の風景や映像が浮き上がってくるようでした。

楽器編成的には,やや低弦のバランスが大きい感じで,包み込まれるような豊かさを感じました。抑制された甘さ(または自然に甘さが滲み出てくる感じ)がとても良いと思いました。時々,コンサート・ミストレスの方のソロが入るなど,10分程度の曲にも関わらず,変化に富んだ曲想を楽しむことができました。

今回,どういう経緯でこの曲を選曲されたたのかは,分かりませんが(管楽器が参加できないので,冒険的な試みだったと思いますが),これからもこういう選曲に期待したいと思います。それと,この曲については,是非,アビゲイル・ヤングさんとオーケストラ・アンサンブル金沢にも演奏してもらいと思いました。

この演奏会が終わると,梅雨が明けて,暑さが増してくるというのが例年のパターンです。今年の場合,その暑さの勢いが「半端ない」感じです。若いメンバーによる気合いのこもった演奏で,力をもらったので,何とか乗り切っていきたいと思います。

(2018/07/16)





公演の立看板