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第17回北陸新人登竜門コンサート:管・弦・打楽器部門
2018年7月12日(木) 19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) モーツァルト/交響曲第25番ト短調, K.183
2) ウェーバー/クラリネット協奏曲第2番変ホ長調, op。74
3) コッペル/マリンバとオーケストラのための協奏曲第1番
4) クーセヴィツキー/コントラバス協奏曲嬰ヘ短調, op.3

●演奏
安田菜々子(クラリネット*2),稲瀬祐衣(マリンバ*3),西田裕貴(コントラバス*4)
田中祐子指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)



Review by 管理人hs  

恒例の北陸新人登竜門コンサートが石川県立音楽堂コンサートホールで行われたので聞いてきました。ここ数年,5月頃に行われることが多かったのですが,今年は井上道義さんが音楽監督を退任した関係もあるのか,例年より遅く,7月に行われました。

今年は,管・弦・打楽器部門で,クラリネットの安田菜々子さん,マリンバの稲瀬祐衣さん,コントラバスの西田裕貴さんが,ソリストとして登場し,田中祐子指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と共演しました。指揮者もソリストも全員女性というのは,昨年までとは違う点ですね。演奏後,登場した独奏者たちに田中さんが,とてもカジュアルな雰囲気でインタビューをされたのですが,「女子会的な華やかさ」があるなぁと思いました。ちなみに公演チラシの方も「カラー」になり,華やかになりましたね。

今回の,「管・弦・打楽器部門」というのは,昨年までとは割り振りが違っています。従来は,「ピアノ部門」「弦楽器部門」「管・弦・声楽部門」でしたが,応募者数のバランスを考えてのことでしょうか。クラリネット,マリンバ,コントラバスと,協奏曲を演奏するには,ややマイナーな楽器ばかりだったのですが,その分,どこか大らかな雰囲気を感じた演奏会でした。

安田さんが演奏した,ウェーバーのクラリネット協奏曲第2番は,田中さん指揮OEKによる堂々とした序奏部から素晴らしかったですね。その上で,安田さんは,伸び伸びとした,思い切りの良い演奏を聞かせてくれました。演奏全体から積極性を感じました。突き抜けて聞こえてくる高音を聞くだけで演奏に引き込まれました。

第2楽章は一転して,オペラのアリアのようなたっぷりとした歌になりました。聞き手に訴えてくるような音と演奏の表情が素晴らしいと思いました。第3楽章はポロネーズ風の楽章で,楽しげな気分がしっかり伝わってきました。後半の技巧的な部分でも集中した快活な演奏を聞かせてくれました。

稲瀬さんの演奏した,コッペルの曲は,この日演奏された曲の中ではいちばん新しい作品でしたが,稲瀬さん自身,この曲を何回かオーケストラと共演された実績がある,ということで,しっかり手の内に入った演奏になっていました。野性的な感じの力強さのある第1楽章の冒頭から,演奏する姿も堂々としており,見ていて格好良いなと思いました。

稲瀬さんは,マレットを2本持ち,楽章ごとに種類を変えて演奏していたようでした。第2楽章での静謐で澄んだ雰囲気も良いなぁと思いました。第3楽章には,かなり長いカデンツァがありました。この部分でも,堂々とたっぷりと聞かせてくれました。

稲瀬さんは,インタビューの中で,「マリンバの温かみのある音が好き」とおっしゃっていましたが,その言葉どおり,コンサートホールの中に「木」を叩く,まろやかな音が心地よく広がっていました。曲全体としては,ミステリアスな部分があったり,たっぷり聞かせるカデンツァがあったり,大変変化に富んだ曲で,現代曲にしては,とても聞きやすい作品でした。

この登竜門コンサートでは(特に打楽器部門では),コッペルの今回の作品のような,「聞いたこともない作品」が出てくるのも楽しみの一つです。

最後に演奏された,西田さんの独奏による,クーセヴィツキーのコントラバス協奏曲は,チャイコフスキーのテイストが漂う作品でした。西田さんのコントラバスの音にも,「憂愁のロシア音楽」といったメランコリックな気分がありました。まず,曲の最初に出てくるホルンの音の野性味が素晴らしかったですね。この主題は,チャイコフスキーお得意の「運命の主題」という感じで,第3楽章の冒頭で,もう一度登場していました。

この主題を受けるように出てくる,西田さんのコントラバスの優しい音が良いなぁと思いました。息の長い歌を聞いているうちに曲の世界に引き込まれていきました。

第2楽章も懐かしさを呼び起こすような親しみやすさがありました。この部分は,チェロの独奏曲を聞いているような感じに聞こえました。第3楽章は,やはり低音楽器ということで,どこかテンションが低いような感じがしましたが,しっかりと音を積み重ねていく誠実さが感じられるのが良いと思いました。最後の部分は,静かで優雅な気分の中で締められました。

終演後は,ヴィオラのダニイル・グリシンさんが,盛大に拍手をしていたのが印象的でした。このコンサートについては,OEKメンバーにもソリストたちを盛り上げようという気持ちがあるのがうれしいですね。

この3曲に先だって,田中さん指揮OEKで,モーツァルトの交響曲第25番が演奏されました。この前の「楽都音楽祭」で演奏されなかった曲なので,その補遺ということになります(モーツァルトには珍しく,ホルンが4本も入る曲なので,クーセヴィツキーの編成に合わせて,選ばれた曲かもしれません)。

有名な冒頭部から,ビシっと引き締まり,無骨なくらい硬い雰囲気を出していました。いつもは聞こえない,対旋律がしっかり聞こえてくるなど,随所に田中さんらしい主張が感じられました。その後の楽章は速めのテンポで,一気に悲しみが走り抜けるようでした。その中で,オーボエやホルンを始めとした管楽器が美しく彩りを添えていたのも印象的でした。

今回の登竜門コンサートでは,田中祐子さん指揮OEKによる演奏に「しっかりサポートしますよ。大船に乗った気分で演奏してね」という雰囲気があったのもとても良かったと思います。これは,田中さんによる,インタビューによって,ソリストたちの素顔の一端を知ることができたことにもよると思いますがそして,3人の奏者とも大変,たくましい演奏を聞かせてくれたと思いました。その演奏を聞きながら,みんな頑張っているんだなぁと元気が出てくるような演奏会でした。

来年のこのコンサートは,川瀬賢太郎さん指揮による声楽部門になります。これまで「声楽のみ」という形はなかったので,どういう雰囲気になるのか楽しみにしたいと思います。

(2018/07/16)





公演のポスター