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生誕220年広重展:記念コンサート
2018年8月15日(水)(1回目)10:30〜,(2回目)13:00〜 石川県立美術館1Fロビー

バッハ,J.S./無伴奏チェロ組曲第1番〜プレリュード
滝廉太郎/荒城の月
イザイ/無伴奏チェロ・ソナタ〜第1楽章
カサド/無伴奏チェロ組曲〜第3曲
バッハ,J.S./無伴奏チェロ組曲第6番〜ジーグ
(アンコール)カタルニア民謡/鳥の歌

●演奏
ルドヴィート・カンタ(チェロ)



Review by 管理人hs  

石川県立美術館で開催中の「生誕220年広重展」関連イベントとして,おなじみ元オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の首席チェロ奏者,ルドヴィート・カンタさんによるミニ演奏会が行われたので聞いてきました。会場は,石川県立美術館のロビーでした。この美術館のホールでのコンサートならば,何回も聞いたことはありますが,大きな吹き抜けの下での演奏を聞くのは今回が初めてでした(フラメンコを見たことはありますが)。今回は,その「珍しさ」もあって,聞きに行くことにしました。

#この日は 「撮影可」だったので...邪魔にならないように上の方から全体の雰囲気を撮影してみました。


この日は10:30からと13:00からの2回,同一内容の演奏会が行われました。私は1回目の方を聞いて来ました。

曲はすべて,「チェロ独奏」で演奏されました。「広重展」自体,日本各地の名所や宿場などの風景版画中心ということで,演奏会のテーマも「旅」だったのですが,「色々な国の作品を集めた」という程度で,正確には,無伴奏チェロのための作品の「さわり」集といった感じでした。

最初に演奏されたのは,「無伴奏チェロ」の代名詞,J.S.バッハの無伴奏チェロ組曲第1番のプレリュードでした。カンタさんの演奏でも何回も聞いたことのある曲ですが,いつもどおり,ゆったりとしたテンポでじっくりと演奏されました。カンタさんは,弾き始めの部分でも緊張することなく,さりげなく会話が聞こえてくるような趣きがありました。今回は,特に「静かに何かをつぶやいている」ような雰囲気がありました。

2曲目は,瀧廉太郎の「荒城の月」でした。こちらもまた,しみじみと聞かせてくれました。この「しみじみ」感は今回のミニ演奏会の基調だったと思います。カンタさんは,「皆さんの方がよく知っている曲です」と紹介されていましたが,美しい高音やソットヴォーチェで演奏されたデリケートな演奏を聞きながら,すっかりカンタさんのお得意のレパートリーになったなぁと思いました。

続く,イザイとカサドの無伴奏作品は,カンタさんがCD録音を行っている作品ですね。イザイの方は,カンタさんが語っていたとおり,「暗い作品」でした。古いのか新しいのか分からない「意味深さ」と何かのメッセージが込めらているような「意味深さ」という二重の意味深さが感じられる,渋い大人の演奏だったと思います。

イザイは,ベルギーの作曲家ですが,カサドの方は,スペインの作曲家です。こちらも明るい感じではなかったのですが,フラメンコを思わせる舞曲風の部分が出てくるので,より聞きやすく感じられました。弓を使わず,爪弾く感じが,いかにもスペイン的でした。ほの暗い躍動感と野性味の感じられる演奏でした。

プログラムの最後は,最初の曲と呼応するように,バッハの無伴奏チェロ組曲第6番の最終楽章「ジーグ」が演奏されました。バッハを額縁にして,世界各国の音楽を楽しむといった構成ということになりますね。第1番同様,ぎこちないと思わせるほど,じっくりと演奏されていました。時折,輝きのある音が出てくるのが,曲集のエンディングに相応しいと思いました。

最後に,アンコールで,カタルニア民謡でカザルスの演奏で有名になった「鳥の歌」が演奏されました。この曲は,6月下旬に行われたスロヴァキア・フィルとカンタさんの共演の際もアンコールで演奏されましたが,今回は8月15日(終戦の日)を意識しての選曲でした。カザルスの演奏同様,平和への祈りを込めての演奏でした。とはいっても,他の曲同様,最初の方は,「さりげない」と感じでした。その後,曲が進むにつれて,熱い思いがにじみ出てくるのが,カンタさんらしいと思いました。

この場所で演奏を聞くのは滅多にないことでしたが,天井が高くて気持ちの良いスペースですので,機会があれば,他の楽器でも聞いてみたいものです。21世紀美術館に続いて,OEKとのコラボに期待したいと思います。

PS. ちなみに「広重展」の方は,別の日に鑑賞済です。次のブログに内容をまとめてみましたので,関心のある方はご覧ください。
http://oekfan.blogspot.com/2018/07/blog-post.html

(2018/08/16)




この日のプログラム