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IMAライジングスターコンサート2018
2018年8月19日(日)17:00〜 石川県立音楽堂交流ホール

1) サラサーテ/カルメン幻想曲
2) モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」〜第1,3楽章
3) チャイコフスキー/ドゥムカ
4) ショパン/英雄ポロネーズ
5) ドビュッシー/チェロ・ソナタ
6) イザイ/サン=サーンスの「ワルツ形式の練習曲」によるカプリース
7) バッハ,J.S./無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番〜第3,4楽章
8) エルンスト/魔王
9) ショーソン/詩曲

●演奏
ナキョン・カン*1,外村理紗*2,エイミー・M・オ*6,吉江美桜*7-8,ドンヒュン・キム*9(ヴァイオリン),牟田口遙香(チェロ*5),ジュヒ・イム(ピアノ*3-4)
横田知佳*1-2,5-6,ヤンヒー・リー*9(ピアノ)



Review by 管理人hs  

石川県立音楽堂邦楽ホールで行われた,オペラ&講談「卒塔婆小町」公演の後,交流ホールに移動し,毎年8月恒例のいしかわミュージックアカデミー(IMA)のライジングスターコンサートを聞いてきました。交流今回登場したのは次の若手演奏家たちでした。

ヴァイオリン:ナキョン・カン,外村理紗,エイミー・M・オ,吉江美桜,ドンヒュン・キム,チェロ:牟田口遙香,ピアノ:ジュヒ・イム

IMAで講習を受けている日本や韓国等の若手演奏家たちの中でも,各種コンクールで上位入賞しているような奏者が結集しており(例えば,ヴァイオリンの外村さんと吉江さんは,既に日本音楽コンクールで上位入賞の実績があります),例年どおり水準の高い演奏を楽しむことができました。昨年に続いて登場した方も多かったのですが,技術的には全く問題がなく,安心してその表現を楽しむことができました。

以下,各奏者の演奏の印象です。

1 ナキョン・カン(ヴァイオリン)
サラサーテのカルメン幻想曲をしっかりとした音で各部分を的確に描き分け。難技巧も難しく聞こえず平然と演奏。最後の「ジプシーの踊り」の部分のノリの良いテンポ感が,横田知佳さんのピアノ共々爽快でした。

2 外村理紗(ヴァイオリン)
モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番の第1楽章と第3楽章(第1楽章のオーケストラ序奏部は一部省略)を演奏。ヴァイオリンの音に瑞々しさと同時に自然な憂いがあり,モーツァルトの曲にぴったり。贅肉のないしなやかな演奏で,曲全体の「姿」がとても良いと思いました。ただし,第3楽章は,やはりオーケストラ版でないと,トルコ風の感じが薄まるので,かなり真面目に聞こえました。途中に出てくる力強いボウイングと最後の部分の優雅さの対比がとても良いと思いました。

3 ジュヒ・イム(ピアノ)
チャイコフスキーのドゥムカの前半は,ロシア風の重苦しい気分がなく,とてもきれい。テンポが速くなる後半も演奏全体に推進力と色彩感があり,どちらかというとフランス音楽やリストのピアノ曲のような印象を受けました。

ショパンの英雄ポロネーズは,無理なく,しなやかな演奏。十分な力強さと推進力があり,お見事。荒々しい感じがない,クリアで爽快な演奏でした。

4 牟田口遙香(チェロ)
憂いのある,内面的な感情の動きをしっかりと表現した,ドビュッシーのチェロ・ソナタを聞きながら,先日,ミンコフスキ指揮で聞いた「ペレアスとメリザンド」の「森」の雰囲気を思い出しました。第1楽章での深い音と第2,3楽章でのミステリアスなピツィカートや流れの良い伸びやかさの対照が鮮やか。第2楽章の途中,交流ホールの外から,なぜかヴァイオリンを練習する音が...。残念ながら,この部分だけ演奏に集中できませんでした。

5 エイミー・M・オ(ヴァイオリン)
サン=サーンスの曲に基づく,イザイの作品。平然とした表情で登場し,そのまま鋼のような音でバリバリと演奏。非常に迫力があり,鮮やかでしたが,もう少し優雅さがあった方が親しみやすいかもと思いました。

6 吉江美桜(ヴァイオリン)
今回登場した奏者の中では,もっとも落ち着いた雰囲気で,完成されたプロのアーティストといった印象を受けました。まず,バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタの後半の2楽章。単音にも関わらず,音に自然な陰翳と落ち着きがありました。最終楽章はくっきり,キビキビと演奏。その中に温かみがあるのが良いと思いました。

今回の演奏会の中で,最も印象に残ったのが,次のエルンストの「魔王」でした。シューベルトの「魔王」の歌唱部分と伴奏部分を一人で演奏するような凄い曲。ヴァイオリンの作り出す多彩な音を駆使した音のドラマで,もがく登場人物たちの悲鳴が聞こえてくるよう。演奏至難の曲でしたが,人間味を感じさせてくれました。

7 ドンヒュン・キム(ヴァイオリン)
ショーソンの「詩曲」は,過去,このコンサートでも頻繁に演奏されてきた作品。堂々とした雰囲気の中から,しみじみとした淡い透明感が漂ってくるよう。途中から,次第に熱気を帯びてきて,最後は海老反りのような状態で演奏。輝きのある音をしっかりと鳴らした,迫力十分の演奏でした。

IMAについては,以前に比べると,一般向け公演の数が減っているのですが,そのレベルの高さは相変わらずだと思いました。今回登場した若者たちの中から,国際的に活躍するアーティストが登場することを期待したいと思います。

(2018/08/23)




公演のチラシ。手書きの文字がインパクトがありました。