OEKfan > 演奏会レビュー
IMA×OEKチェンバーコンサート:石川県立音楽堂室内楽シリーズVOL.1
2018年8月21日(火)19:00〜 石川県立音楽堂交流ホール

1) トゥリーナ/ピアノ三重奏曲第2番ロ短調, op.76
2) エネスコ/ヴァイオリン・ソナタ第3番イ短調, op.25
3) ショパン/ピアノ協奏曲第1番ホ短調, op.11(室内楽版)

●演奏
いしかわミュージックアカデミー講師及び公式伴奏者:
ロラン・ドガレイユ*1, レジス・パスキエ*2(ヴァイオリン),毛利伯郎(チェロ*1),ピオトル・パレチニ*,草冬香*1,三又瑛子*3(ピアノ)

オーケストラ・アンサンブル金沢メンバー:
青木恵音,トロイ・グーキンズ(ヴァイオリン*3),古宮山由里(ヴィオラ*3),大澤明(チェロ*3),今野淳(コントラバス*3)



Review by 管理人hs  

8月恒例の,いしかわミュージックアカデミー(IMA)が今年も石川県立音楽堂を中心に行われました。期間中,IMAの講師とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)メンバーとが共演する室内楽公演が行われるのもすっかり恒例です。今年は,ロラン・ドガレイユ,レジス・パスキエ,毛利伯郎,ピオトル・パレチニといったIMA講師が登場しました。

毎年この公演では,ピアノの入るやや大きめの室内楽曲がメインで演奏されるのですが,今年は,ショパンのピアノ協奏曲第1番の室内楽版が演奏されました。滅多に演奏される機会がない曲であることに加え,ソリストはIMAの講師に加え,ショパン国際ピアノコンクールの審査委員でありショパン音楽大学教授である,ピオトル・パレチニさんということで,まずはこの曲を目当てに聞きに行きました。

前半に演奏される曲は...実はよく分かっていなかったのですが,この2曲が本当に素晴らしい演奏でした。

最初のトゥリーナのピアノ三重奏曲第2番は,ロラン・ドガレイユさんのヴァイオリン,毛利伯郎さんのチェロ,草冬香さんのピアノによって演奏されました。トゥリーナという作曲者自体,よく知らない人だったのですが(ギター曲を作っていたはず...ぐらいの知識),とても良い作品でした。スペインの作曲家ということもあるのか,短調の作品であるにも関わらず,どこか陽光が差してくるような明るさがありました。メロディも大変親しみやすく魅力的で,ドガレイユさんを中心に3人の奏者が大変楽しそうに演奏されていました。各楽器の「対話」と「ハモリ」も素晴らしく,熟練の室内楽の楽しさを満喫させてくれるような演奏でした。

全体としては,ヴァイオリンとチェロのための二重ソナタのような雰囲気もあり,ドガレイユさんと毛利さんの息の合わせ方が,非常にリアルに伝わってきました。第2楽章での弱音器を付けた不思議なウィットも魅力的でした。トゥリーナという作曲家の室内楽について,これからも機会を見て演奏して欲しいものだと思いました。

次に演奏された,エネスコのヴァイオリン・ソナタ第3番も初めて聞く曲でした。ルーマニアの民俗様式でというサブタイトルがあったので,ルーマニア狂詩曲のような,楽しげな曲かなと予想していたのですが,曲が進むにつれて,どんどん狂気が増してくるような,すごい作品でした。これは,大ベテラン・ヴァイオリニスト,レジス・パスキエさんのすごさにもよると思います。曲の冒頭から,オリエンタルでミステリアスな雰囲気が漂い,楽章の中で緩急の変化が大きい点で,ヤナーチェクやバルトークの曲と似た感じもあったのですが,それともひと味違う,迫力と魅力のある作品でした。

パスキエさんの演奏は,時々音がかすれたり,揺れたりしていましたが,それがまたこの曲の雰囲気にぴったりでした。何よりも堂々とした貫禄がありました。時折,コブシを回すようなフレーズがあったのも面白かったですね。第2楽章は,フラジオレットが出てきたり,さらに怪しげな雰囲気がありました。ピアノについては,同音を連打する部分もあったので,ラヴェルの「夜のガスパール」を思わせるムードもありました。

第3楽章は特に躍動感があり,バルトークのルーマニア民俗舞曲集を思わせる,緩急の変化と野性味がありました。曲の最後の部分では,ピアノと一体となって,スリリングな盛り上がりを作っていました。この曲のピアノ・パートも大変難しかったのではないかと思います。演奏後,パスキエさんからしきりとピアノの三又さんを讃えていました。

というわけで,まず,IMA講師による前半の2曲だけで大満足でした。

後半に演奏されたショパンのピアノ協奏曲第1番(室内楽版)については,やはり,管弦楽版に親しみ過ぎているせいか,個人的には結構違和感を感じてしまいました。「ここはファゴットが伴奏しているはず」「ホルンが出てこない」「トランペットが聞こえない...」という感じで,ついつい頭の中で音を補いながら聞いてしまいました。

パレチニさんは,見るからに「立派な先生」という雰囲気の方で,その演奏にも堂々たる貫禄がありました。室内楽版ということで,ピアノを激しく叩くような感じはなく,弦楽五重奏(弦楽四重奏+コントラバス)とバランスの取れた演奏を聞かせてくれました。速いパッセージでのショパンならではのキラキラした音の美しさ,第2楽章でのノクターン風の気分など,イメージどおりのショパンを聞かせてくれました。

「協奏曲」ということでOEKメンバーは,がっちりとした演奏を聞かせてくれたのですが,交流ホールの場合,かなり音がデッド(というかダイレクトに聞こえすぎる)なので,か弦楽五重奏の音がかなり硬く聞こえました。弦楽器だけだとシリアス過ぎるけれども,ピアノが入ると全体にロマンの香りが漂ってくる,という印象がありました。特にピアノに弦楽器の音が薄く重なるような部分(2楽章など)が,バランス的にちょうど良い感じに聞こえました。ピアノが演奏する優しいメロディにチェロがオブリガードで絡んでくるような雰囲気も絶品でした。

パレチニさんのピアノは,じっくり・こってり聞かせる部分と硬質な音でかっちり聞かせる部分のメリハリが素晴らしいと思いました。キラキラしていても安っぽくなく,じっくり聞かせる部分も甘くなりすぎない,バランスの良さがありました。

第3楽章も弾むリズムと安定感とが同居したような演奏でした。途中,ピアノが民謡風のフレーズをオクターブで静かに演奏する部分が好きなのですが,こういった部分が実に味わい深いと思いました。ピアノ・パートが終わった後の,全曲の結びの部分などは,管弦楽版で聞くよりは,優雅に響くなぁと思いました。

というわけで,この室内楽版については(今回のプログラムは,曲目解説が全く書いてなかったのですが,版の「来歴」などを書いてほしかったなぁと思いました),恐らく,響きが豊かなコンサートホールで聞いたらまた印象が変わる気がします。実は,9月16日に金沢出身のピアニスト,木米真理恵さんが,石川県立音楽堂コンサートホールで,この曲を弦楽四重奏との共演で演奏する公演が行われます(今回が弦楽五重奏との共演だったので,違う版でしょうか?)。たまたま,同じ曲の競演ということになってしまったのだと思いますが,個人的には,是非,聞き比べをしてみたいなと思っています。

というわけで,今年のIMA関連の室内楽公演も,充実した選曲&演奏を楽しむことができました。

(2018/08/28)



公演の立看板


IMAのレッスンの立看板。パレチニ先生は,写真とは違い,美しい白髪になられていました。


終演後のホール