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オーケストラ・アンサンブル金沢富山特別公演 with 合唱団OEKとやま
2018年8月26日(日)16:00〜 富山県民会館

ベートーヴェン/ミサ・ソレムニス ニ長調, op.123

●演奏
山下一史指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:荒井英治)
川越塔子(ソプラノ),鳥木弥生(メゾ・ソプラノ),中鉢聡(テノール),豊嶋祐壹(バリトン),合唱団OEKとやま



Review by 管理人hs  

8月最後の日曜日,富山市で,合唱団OEKとやまとオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)による富山特別公演が行われたので聞いてきました。昨年はヴェルディのレクイエムが演奏されましたが(あれから早くも1年なんですね),今年はそれに匹敵する大作ベートーヴェンのミサ・ソレムニスが演奏されました。

金沢では,石川県音楽文化協会の合唱団が毎年12月に第9とセットでこの曲を演奏していますので,個人的にはお馴染みの作品ですが(この年末公演のおかげで,大好きな作品になりました),OEKにとっては,演奏するのは久しぶりだと思います。今年は,「富山での夏のミサ」公演ではお馴染みの山下一史さん指揮でこの大曲が演奏されました。

大曲といいつつ,実は,本日の演奏は,予想以上にテンポの速めの演奏で,CD1枚に収まるテンポだったと思います。会場での事前アナウンスでは,「80分を予定」と言っていましたが,75分ぐらいだったと思います。しかし,慌てた感じはなく,じっくりとこの曲を楽しませてくれた,という実感が残りました。フーガなど,部分的にかなり速い部分があったのだと思います。

山下さんは,若い頃,往年の大巨匠,ヘルベルト・フォン・カラヤンのアシスタントをされていましたが,その師匠譲りの充実感の残るミサだったと思います(カラヤンはこの曲を何回もレコーディングしていますね)。冒頭「キリエ」の和音から,合唱のボリューム感がホールのサイズにぴったりで,バランスよく,しっかりと祈りの音楽へと導いてくれました。

 開演前のステージ

ソリストの方は,昨年同様,藤原歌劇団の皆さんでしたが,ソプラノの川越塔子さんとテノールの中鉢聡さんについては,「押しが強すぎ」といったところがあり,ややバランスが悪い気がしました。恐らく,オペラならば丁度良かったと思うのですが,声がダイレクトに飛び込んでくる富山県民会館で聞くと,特に川越さんの声は,かなり大仰な感じに聞こえました。その一方,お馴染みメゾ・ソプラノの鳥木弥生さんの声は,最終楽章の「ミゼレーレ」の部分を中心に,染みこむような声を聞かせてくれました。バリトンの豊嶋祐壹さんは,他の3人に比べると,ややインパクトが弱い印象ででした。

第1曲「キリエ」の冒頭ですが,プログラムの中で潮博恵さんが,モーツァルトの歌劇「魔笛」序曲の冒頭と似ていると書かれていたのですが,言われてみると「そんな感じだな」と思いました(ただし,調性は違います)。

第2曲「グローリア」と第3曲「クレド」は,それぞれ独立した合唱曲にしても良いぐらいのボリューム感があります。「グローリア」は,冒頭の部分の輝かしさが曲想にぴったりでした。このホールはそれほど大きくないので,ダイレクトに楽器や合唱の音が飛び込んで来ます。特に合唱の方は「生々しい声」が聞こえてくるようでした。「グローリア」については,最初の部分をはじめとした,輝かしい部分が印象的なのですが,中間部で出てくる,OEKの奏者たちによるソロにも聞き応えがあり,「静かな部分も良いなぁ」と思いました。

第2曲,第3曲とも,終盤,フーガのようになる部分がありますが,どちらも速いテンポで,どこかスポーティな感じもしました。この速さが今回の演奏の特徴だったと思います。その点で「合唱団OEKとやま」の皆さんは大変だったと思うのですが,その躍動感のある表現からは,「晩年のベートーヴェン」というよりは,「フランス革命の時代のベートーヴェン」といった前向きの気分伝わってきました。オーケストラと一体となった引き締まった熱気のある歌を聞かせてくれました。

「クレド」の方は,もともと,「ミニ受難曲」みたいな部分ということで,途中暗転したり,明るくなったり,ソロ歌手入りのオラトリオ的な雰囲気がありました。後半,勢いのある音楽が続く部分では,途中,トロンボーンが「一声」乱入する部分があり,なぜか昔から好きです(とても良い音でした)。この「一声」の後,合唱の表情が変化していき,最後は熱くどっしりと終わっていたのがとても良いと思いました。

第4曲「サンクトクス」は,前半,しみじみとした雰囲気で始まります。OEKの低弦の音も素晴らしかったし,ソリストの皆さんのバランスの良い落ち着いた声も良いと思いました。その後,合唱団が華やかに歌った後,「ホザンナ,ホザンナ...」と下がってくる部分も好きな部分です。とてもキビキビした歌でした。

そして,この曲の大きな聞きどころの一つの「ベネディクゥス」の部分に入っていきます。この部分でも低弦のしみじみとした雰囲気が素晴らしかったですね(ヴィオラとチェロの首席奏者は客演の方でした。ここはやはり,メンバー表が欲しいところでした)。その中から,この日の客演コンサートマスター,荒井英治さん(東京フィルのコンサートマスターですね)とフルートの岡本えり子さんの絶妙のハモりで,天上から精霊がそっと降りてくるようなミステリアスな美しさのある音楽を聞かせてくれました。

荒井さんの方は,その後も,安定感たっぷりの「至上のオブリガード」を聞かせてくれました。今回の公演のMVPは,この部分を見事に聞かせてくれた荒井さんだったかもしれません(プログラムに名前がクレジットされていなかったのが大変残念でした。)。

第5曲の「アニュスデイ」は「平和への祈り」で締められるので,「8月に聞く」のに相応しいのかもしれません。この曲でも,最初の「ミゼレーレ」の部分が静かで,段々と感動的に盛り上がってきます。「ミゼレーレ」の部分は,バリトン豊嶋さんから始まりますが,少々おとなしく,さらりと歌っているように感じました。その後,メゾ・ソプラノの鳥木さんに引き継がれていきますが,情感が少しずつ高まっていくような感じでした。

途中,ティンパニとトランペットがフランス革命的なムードを盛り上げます。この部分では,ソプラノの川越さんの高揚した感じの声がぴったりでした。「民衆を率いる自由の女神」といった感じでした。

この部分に続く,平和への祈りを込めた音楽は,ベートーヴェンの作品の中でも特に好きな部分です(交響曲第6番「田園」の最終楽章と通じる気分がありますね)。合唱による「Pacem(平和)」の言葉と弦楽器を中心としたOEKのキリッと締まった音とが一体となり,穏やかな爽快さの中で全曲を締めってくれました。

というわけで,今年もまた「大曲」をしっかりと楽しむことができました。この「夏のミサ」シリーズは,OEKの夏休み企画として,是非,これからも定着させていって欲しいと思います。

PS. この日は,せっかく富山市に来たので,演奏会の前に,「一度行ってみたかった」富山県水墨美術館にも寄ってきました。平屋建ての贅沢さを感じさせる,大人向けの素晴らしい美術館でした。これについては,以下の記事をご覧ください。

昨日はOEK富山特別公演にあわせて、#富山県水墨美術館 で「生誕120年 #児玉希望 展」を鑑賞。平屋建築ならではの広々と贅沢さを味わえる良い美術館でした。

(2018/08/31)




公演の立看板


ホールの入口


富山県内で行われるコンサートなどのイベントのポスターが多数掲示されていました。



県民会館の外観