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オーケストラ・アンサンブル金沢 小松定期公演《秋》
2018年10月5日(金) 19:00〜 こまつ芸術劇場うらら

1) サン=サーンス/組曲「動物の謝肉祭」(台本:新井鴎子)
2) イベール/フルート協奏曲
3) サン=サーンス/交響曲第2番イ短調,op.55
4) (アンコール)フォーレ/組曲「シャイロック」op.57〜夜想曲

●演奏
田中祐子指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス),松木さや(フルート*2)松井晃子,田島睦子(ピアノ*1)
語り:辰巳琢郎*1



Review by 管理人hs  

半年に一度,春と秋に行われているオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の小松定期公演の「秋」を聞いてきました。今年の「春」(といっても6月でしたが)の方は,川瀬賢太郎さん指揮によるチャイコフスキー・プログラムでしたが,今回は,田中祐子さん指揮によるフランス音楽プログラムでした。

演奏されたのは,辰巳琢郎さんのナレーションを交えた,サン=サーンスの組曲「動物の謝肉祭」,OEKのフルート奏者,松木さやさんの独奏によるイベールのフルート協奏曲,そして最後に,サン=サーンスの交響曲第2番イ短調が演奏されました。

今回の「動物の謝肉祭」は,絵本のような雰囲気のストーリーの朗読付きの上演だったのに対し,他の2曲は金沢でも滅多に演奏されない曲ということで,「子供から大人まで(さらにはマニアまで)」楽しめる内容になっていました。

最初に演奏された「動物の謝肉祭」は,少年が夢の中で動物園を一回りする,「くるみ割り人形」を思わせる,「夢落ち」のストーリーになっていました。シナリオは新井鴎子さんによるもので,プログラムによると新井鴎子著『おはなしクラシック』第2巻(アステルパブリッシング出版)が出典となっていました。

田中祐子さんの指揮にも,元気の良さだけでなく,どこかファンタジーを思わせる気分がありました。最初の「序奏」の部分は「昼寝」の雰囲気を表現しており,元気よく始まるというよりは,夢の世界へのイントロという柔らかな雰囲気がありました。ちょっと武満徹の「系図」を思わせるようなムードすら感じました。続く,「ライオン」からも,ゆったりとした優雅さを感じました。

曲の最初から,すぐに辰巳さんの語りが始まりましたが,全体的にとても落ち着きのあるもので,子供向けの内容にも関わらず,大人が聞いても自然に楽しむことができました。「生の辰巳さん」を見るのは,今回が初めてだったのですが(百万石まつりに出演されていたのを見たかも...),テレビで見るよりもずっと,スマートで長身に見えました。辰巳さんもそろそろ「還暦」とのことでしたが,そうは見えず,「やさしいお父さん」が読み聞かせをするような若々しさを感じました。

OEKの編成は,総勢10人程度の室外楽編成でした。これがこの曲のオリジナルのはずです。メンバーは,ブレンディスさん,江原千絵さんのヴァイオリン,グリシンさんのヴィオラ,カンタさんのチェロ,ルビナスさんのコントラバス,岡本さんのフルート...ということで(今回は全員のお名前をクレジットして欲しかったですね),各曲ごとにOEKメンバーのソロを楽しむことができました。

「おんどりとめんどり」では,ブレンディスさん(久しぶりに登場された気がします)のキレの良い速弾きが印象的でした。「ろば」はピアノ2台の曲ということで,田中さんは指揮をせずにサイドで休んでいました。その後も小編成の曲についてはその形を取っていました。今回のピアノは,お馴染み,松井晃子さんと田島睦子さんで,息の合った名技性を楽しませてくれました。

「かめ」は,オッフェンバックの「天国の地獄」序曲の超スロー版ですね。この曲については,演奏前まで,コントラバスの独奏曲かと思い込んでいたのですが(それは次の曲でした),弦五部のソットヴォーチェによる演奏でした。優しい透明感が良かったですね。

そして次の「ぞう」がコントラバスの独奏でした。ルビナスさんの演奏は,ゴツゴツとした雰囲気を感じさせてくれました。中間部は,ベルリオーズの「妖精のメヌエット」のメロディの借用ですが,ここでは,象は象なりに(?)軽やかな雰囲気を出していたのが面白いと思いました。指揮者の田中さんは,ルビナスさんと一緒にワルツを踊りたそうな雰囲気でした。

ピアノ2台による「カンガルー」の後は「水族館」ですが,今回の物語では「湖の中」に落ちるような設定でした。この曲には20世紀音楽を先取りするような光沢感があって,大好きな曲です。渡邊さんのグロッケン,岡本さんのフルートが精妙に解け合っていました。次の「耳の長い登場人物」は,水の中に落ちた後,「しゃっくり」が止まらなくなった感じを表現するために使われていました。ヴァイオリン2本の掛け合いの曲ですが,段々と意地の張り合いみたくなるのが楽しい曲ですね。

「森の奥に住むカッコウ」はクラリネットが主役です。出す音は「カッコウ」の鳴き声を表現する2音だけですが,ブルックス・トーンさん(多分この方だと思います)の音はとてもまろやかで,このモチーフが出てくるたびに,役者のように表情豊かで,違った音を聞かせてくれました。時々,立ち上がって演奏したり,視覚的にも楽しませてくれました。

岡本さんのフルートの活躍する「鳥」に続いて,「ピアニスト」になります。この曲では,ピアニスト2人をはじめ,オーケストラの方も故意に音をずらして「下手に」演奏するのが定番になっています。今回も前半はそういう感じでしたが,田中さんが一旦止めた後は,気合いを入れ直した感じで,ピタッと決めてくれました。

続く「化石」では,曲に先だって,骨が落ちてくるような”効果音”を入れていました。この曲では,辰巳さんのナレーションと重なる形で演奏されていましたが,個人的には好きな曲なので,曲だけを聞かせて欲しかったなと思いました。サン=サーンスとしては,「古い曲をからかう」という意図があるのですが,正直なところ,次々登場してくる「古い曲」がとても魅力的に思えてしまいます(クラリネットの演奏する,ロッシーニの「セヴィリアの理髪師」のロジーナのアリアの辺りとか良いですね)。

ここまで来て,「夢でした」ということが分かり,「白鳥」と「終曲」で締められます。この「白鳥」が聞きものでした。チェロ独奏は,お馴染みルドヴィート・カンタさんでした。いつもどおりの,しっとりとした詩的な演奏でしたが,今回はさらにじっくりと演奏しているように思えました。ファンタジー風「謝肉祭」のクライマックスにぴったりだったと思います。ピアノ2台伴奏による,オリジナル版「白鳥」は意外に聞く機会がないのですが,やはり,良いですねぇ。ピアノ伴奏の途中で,キラリンと水をはじくような音型が入るのが良いですね。

「終曲」は,夢の中の動物園の思い出を振り返る曲。今回は,ほぼ室内楽のような演奏ということで,気心の知れた「OEKファミリー」によるリラックスした気分で,軽快に全曲を締めてくれました。この終曲では,ピッコロが隠し味のように入っているのが良いですね。

後半は,イベールのフルート協奏曲から始まりました。実は,今回の公演のお目当てはこの曲でした。20世紀のフルート協奏曲の名作と言われている作品ですが,意外に実演で聞く機会はありません。それをOEKの若手フルート奏者,松木さやさんの演奏で聞けるということで,「小松まで行くしかない」と思い立ちました。

第1楽章の最初の方は,ちょっととっつきにくい感じの曲想でしたが,松木さんの演奏は非常に正確で,停滞のないくっきりとした音楽を聞かせてくれました。途中,ニュアンスが変化して,柔らかな気分になるのも良いなぁと思いました。

第2楽章は,ラヴェルの「パヴァーヌ」辺りに通じるようなしっとりとした古風な気分が流れていました。次第に音楽が盛り上がり,輝きが増して,オーケストラと一体になった陶酔感が出てくるのも聞きものでした。

第3楽章は,常に動き回っている無窮動のような音楽で,松木さんの安定感抜群のくっきりとした気持ちのよいフルートを存分に楽しむことができました。粒立ちは良いけれども滑らかに流れる感じが素晴らしいと思いました。田中祐子さんの生き生きとした指揮ぶりと合わせ,凜々しさを感じさせてくれる「若武者(女性の場合何と言えば良いのでしょうか)」のような演奏だったと思います。

演奏会の最後は,サン=サーンスの交響曲第2番でした。非常に演奏される機会の少ない作品ですが,OEKの編成やキャラクターにぴったりの作品で,演奏会全体をキリっと締めてくれました。

第1楽章は,サン=サーンスの曲らしく,短調でありながら,本気で暗くなるような感じはなく,古典的な構成の中で,心地良い躍動感と流動性を感じさせてくれました。曲の最初の方で,いきなりヴァイオリンのソロが出てきたり,主部に入ると,いかにもという感じのフーガ風の主題が出てきたり,「これ見よがし」の面白さのある曲だと思いました。そういう気分を田中さんは,元気よく粋に聞かせてくれました。

第2楽章では,静かで豊かな歌が出てきます。水谷さんのイングリッシュホルンの甘い音が印象的でした。ドイツの交響曲にはあまり出てこないような,ストーリー性のようなものを感じました。

第3楽章はスケルツォなのですが,それほど荒々しい感じはなく,落ち着きがありました。中間部でのオーボエの楽しげな雰囲気なども,フランス音楽的だなぁと思いました。

最終楽章は,タランテラを思わせるような躍動感がありました。ビゼーの交響曲第1番の最終楽章に通じる,時折爆発力がある,カラッとしたラテン系の気分がとても良いですね。安心感と勢いが共存したような演奏もお見事でした。

曲全体を通じて,楽章ごとのキャラが大変分かりやすく,初めてこの曲を聞く人にも十分に楽しむことができたのではないかと思います。滅多に演奏されない曲ですが,数年に1回ぐらいは,OEKの定期公演で取り上げて欲しい曲だと思いました。

アンコールでは,フォーレの劇付随音楽「シャイロック」の中の「ノクターン」が演奏されました。弦楽合奏のみの曲(だったと思います)で,昼間の疲れをしっかりと癒やしてくれるような深さと落ち着きのある,素晴らしい作品でした。一日の最後に,素晴らしいお宝のような曲を最後にプレゼントしてもらった気分です。

この日は,各曲の演奏時間自体はそれほど長くなかったので(3曲合わせても1時間程度だったと思います),その分,辰巳さんと田中さんのトーク,さらにはフルートの松木さんへのインタビューもありました。個人的には,松木さんのフルートを始めるきっかけのお話などが特に興味深く感じました。

というわけで,これで2回連続で小松定期公演を聞いたことになります。こまつ芸術劇場は,石川県立音楽堂コンサートホールよりもコンパクトなホールで,演奏者が身近に感じられますので,金沢での定期公演とはまた違った魅力があると思います。都合がつけば,是非,また聞きに期待と思います。

PS.辰巳さんが小松生まれということは知っていたのですが,お母さんが実家に帰って出産ということだったようですね。ローカルな産婦人科医院の名前が登場して,大いに受けていました。

(2018/10/08)





公演のポスター



今回は,「うらら」のすぐ隣の駐車場が満車で,焦りました。駅の反対側にも駐車場があることに気づき,何とかなりましたが,夕食を取る時間がなくなってしました。


終演後,辰巳琢郎さんのサイン会がありました。


[「道草のすすめ」という50歳の頃書かれた著作にサインをいただきました。
最新刊の「くいしん坊」関係の著作も面白そうでした。


JR小松駅


駅のすぐ近くには,いつの間にか「公立小松大学」が出来ていました。