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石川県立音楽堂室内楽シリーズVol.3 木管アンサンブルの響き
2018年10月9日(火) 19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール |
1) ハイドン(ペリー編曲)/木管五重奏のためのディヴェルティメント変ロ長調
Hob.II-46
2) メンデルスゾーン/クラリネットとバセットホルンのための協奏的小品第1番ヘ短調,op.113
3) ドビュッシー(松永彩子編曲)/牧神の午後への前奏曲
4) ピアソラ(蹄鵬編曲)/木管五重奏とピアノのための「アディオス・ノニーノ」
5) ヤナーチェク/木管六重奏曲「青春」
6) リムスキー=コルサコフ/木管七重奏とピアノのための「スペイン奇想曲」
op.34
7) (アンコール)ガーシュイン(編曲者不明)/アイ・ガット・リズム
●演奏
松木さや(フルート*1,3-7),加納律子(オーボエ*1,3-7),遠藤文江(クラリネット*1-3,5-7),柳浦慎史(ファゴット*1,3-7),金星眞(ホルン*1,3-7),松永彩子(バセット・ホルン*2;バス・クラリネット*3-7;クラリネット*4),角口圭都(アルト・サクソフォーン*3,6),倉戸テル(ピアノ*2,4,6-7)
石川県立音楽堂室内楽シリーズ「木管アンサンブルの響き」を聞いてきました。昨年度までの室内楽シリーズは,交流ホールで行われることが多かったのですが,今年度は,原則としてコンサートホールで行う方針になったようで,ホールいっぱいに広がる木管楽器の響きをゆったりと楽しんで来ました。つくづく,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の木管パートの音色は美しいなぁと思いました。交流ホールの方がステージが近いメリットはありますたが,やはり,響きの美しさの点では,コンサートホールが上回っていますね。
今回の編成は,OEKの松木さん,加納さん,遠藤さん,柳浦さん,金星さんによる「木管五重奏」がベースで,そこに,クラリネット(各種)担当の松永彩子さん,アルト・サックスの角口圭都さん,ピアノの倉戸テルさんが加わっていました。
今回のプログラムで素晴らしかったのが,7曲全部,楽器編成が違っていた点です。最初のハイドンのディヴェルティメントは,基本メンバー5人。その後,クラリネットを中心としたメンデルスゾーンの曲,フルートのソロで始まるドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」の編曲版,オーボエを中心としたピアソラの「アディオス・ノニーノ」。そして後半は,ヤナーチェクの木管六重奏曲「青春」,最後に全員勢揃いのリムスキー=コルサコフの「スペイン奇想曲」の編曲版。曲目の傾向もバラエティに富んでおり,木管アンサンブルの多彩な魅力を味わうのに絶好の演奏会だったと思います。
最初に演奏された,ハイドンのディベルティメントは,ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」の主題としてよく知られているメロディが第2楽章に出てくる曲です。もともとはもう少し大きな編成の曲なのですが,柳浦さんによる解説によると,ペリー編曲による木管五重奏版も「定番」とのことでした。
上述のとおりホールの響きが素晴らしく,くっきりとしていながら,夢のような気分にさせてくれるバランスの良い響きを楽しむことができした。第1楽章はシンコペーションのリズムが何回か出てくるのですが(聞き覚えがありました),そのちょっと微笑むような快活さが魅力的でした。第2楽章の「主題」もとても滑らかで,ブラームスが気に入ったのも当然と思いました。
次のメンデルスゾーンの作品は,ハイドンに比べると「主張しているなぁ」という雰囲気の曲です。クラリネットの遠藤さんの表情豊かな演奏は,オペラのアリアのようでした。松永さんのバセット・クラリネットとのハモりも美しく,別世界に連れて行ってくれました。楽章間の区切りはほとんどなく,大変ノリのよい第3楽章につながって,華やかに締めてくれました。遠藤さんの解説によると,ウェーバーの協奏曲なども初演しているベールマンのために書かれた作品ということで,この方は,クラリネット界(?)では重要な役割を果たしていたんだなと思いました。
3曲目に演奏されたのは,今回の編成のために,松永彩子さんが編曲した「牧神の午後への前奏曲」でした。通常の木管五重奏にアルト・サックスやバス・クラリネット。さらにはパーカッションも加わり,オリジナルのオーケストラ版とは一味違った,柔らかな響きを楽しませてくれました。
冒頭のフルートソロは,オリジナル版と同様だと思いますが,間近で聞く松木さんの音は美しいだけでなくとても密度が高く,その締まった音を聞くだけで充実感を味わうことができました。その後,金星さんのホルンなどが受けるのですが,このホルンの音もとても柔らかく「フランスだ」という気分になりました。
やはりこの曲については,オーケストラ版で聞いてみたいのですが(金沢だと滅多に演奏されないですね),今回の編曲版だと各楽器の音の精緻な積み重ねを実感でき,バス・クラリネットなどを含め,音がうごめいている感じが面白いと思いました。編曲者の松永さんへのインタビューでは,管楽器は弦楽器のようなロングトーンは苦手なので,いくつかの楽器に分担させた,といったことを語っていました。その色々な音の積み重ねや切り替わりも面白いと思いました。ちなみに,曲の最後,オリジナルではアンティーク・シンバルというのがチーンとなるのが印象的なのですが,今回はピアノの倉戸さんがグロッケンを叩いているように見えました。
前半最後は,ピアソラの「アディオス・ノニーノ」でした。蹄鵬さんの編曲によるもので,ピアソラならではのドスの効いたリズムを持った序奏の後,加納さんのオーボエが主役となって,息の長いソロを効かせてくれました。木管五重奏+ピアノという編成でしたが(やはりタンゴ系の曲については,ピアノが入っていると良いですね),実質は,オーボエ独奏を他の5人が支える「協奏曲の2楽章」的なアレンジでした。その加納さんのオーボエですが,曲想にぴったりの哀愁と強さを兼ね備えた音がお見事でした。最後の方は,全員で歌う感じになっていましたが,これも良いなぁと思いました。
後半は,ヤナーチェクの「青春」で始まりました。木管五重奏にバス・クラリネットが加わる独特の編成でしたが,曲の雰囲気も少々つかみ所のないところがありました。
鼻歌のような軽妙さのある第1楽章に続き,ミステリアスなムードを持った第2楽章へ。この何かを物語る「ワケあり」感がヤナーチェクらしいと思います。第3楽章はピッコロが加わり,軽妙な雰囲気になった後,しっとりとしたオーボエの歌に。色々な楽器が組み合わさることで,独特の輝きが出ているような曲だと思いました。最終楽章は第1楽章と振り返るような感じで,叫ぶような感じで終了。
この曲は,70歳を超えたヤナーチェクが「青春」時代を回顧して作った曲で,加納さんのお話では「非常に難曲」とのことでした。この「何を考えているのだろう?」というムードは,聞く方からしても少々難曲だったかもしれません。
プログラムの最後は,リムスキー=コルサコフの管弦楽曲を松永さんが管楽アンサンブル版に編曲した「スペイン奇想曲」でした。オーケストラ版とは違った鮮やかさとまろやかさがあり,演奏会全体を楽しく締めてくれました。
もともと曲の最初の部分はクラリネット・ソロで始まるので,「牧神の午後」同様に,違和感なく曲の中に入っていくことができました。遠藤さんの輝きのある音で,スペインに誘われた後,ホルンの朗々とした響きが続き(これもオリジナルと同様ですね),角口さんのアルト・サックスによる哀愁に満ちた夜のムードになります。光と影の対比を感じさせてくれました。
曲の後半ではトライアングルが入ったり,シンバルが入ったり,色々な楽器の組み合わせで,スペイン色を盛り上げていました。オーケストラ版よりはのどかだったと思いますが,しっかりと音楽が沸き立って行くのが快感でした。

この曲の後,アンコールとして,ちょっとビッグ・バンド風の趣きのある,「アイ・ガット・リズム」が演奏されてました。この曲では,ソロを演奏した,角口圭都さんのアルト・サックスの柔らかく艶のある音が印象的でした。ホルンの金星さんが,結構ハードにシンバルでリズムを刻んでいたのも「拍手!」という感じでした。
この室内楽シリーズでは,メンバーのトークが入るのも楽しみですが,今回は「入れ替わり立ち替わり」だったのも,OEKファンには嬉しかったですね。そういったことも含め,「OEK木管祭り」といった明るい雰囲気に包まれ,会場全体にリラックスした空気があったのがとても良かったと思います。この木管シリーズについては,是非,続編を期待したいと思います。コンサートホールで実施するならば,金管アンサンブルというのも是非聞いてみたいものです。
(2018/10/14)
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外にある公演の立看板

公演のポスター
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