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吉井健太郎チェロコンサート
2018年11月17日(土) 11:00〜 石川県立歴史博物館エントランス

バッハ,J.S./無伴奏チェロ組曲第1番
バッハ,J.S./無伴奏チェロ組曲の「プレリュード」のさわり集

●演奏
吉井健太郎(チェロ)



Review by 管理人hs  

元ウィーン交響楽団の首席チェロ奏者,吉井健太郎さんによる無料のミニリサイタル(チラシでは「コンサート」となっていましたが,正確には「リサイタル」だと思います)が,石川県立歴史博物館(歴博)で行われたので聞いてきました。実は,この日の朝までは行く予定ではなかったのですが,ツイッターで流れてきた演奏会情報を見た後,「どうしようかな?」と少し思案をし,10:30頃に出かけることに決めました。開演11:00の少し前に会場に到着したのですが,こういうことができるのも,市街地がコンパクトな金沢ならではですね。それと自転車ならではです。この日は,天候が段々と良くなってきたので,歴博まで自転車で出かけてきました。

今回の公演については,バッハの無伴奏チェロ組曲が演奏されるのは分かっていたのですが,どの曲が演奏されるのかについては,よく知らずに出かけました。会場は,歴博のエントランス付近でした。右の写真のような雰囲気の場所でした。

大学の教授を思わせる(貧困な発想ですが...),落ち着いた雰囲気で吉井さんが登場した後,無伴奏チェロ組曲第1番の「プレリュード」がさり気なく始まりました。

速すぎず,遅すぎず,平常心そのものの雰囲気でした。間近で聞く吉井さんのチェロの音には温かみがあり,じっくりとバッハの世界に浸ることができました。まさにベテランの味といった感じでした。プレリュードの後,一旦,軽くトークが入るかな,と思い私も拍手をしたのですが,ここではトークはなし。そのまま,組曲第1番の全曲が演奏されました。

お客さんの方は,チェロ組曲に慣れていなかった人が多かったのか,アルマンド,クーラントと1曲ごとに拍手が入りました。この辺は致し方がなかったかもしれません。やはり,事前に何の曲を演奏するかアナウンスがあった方が良かったですね。「プレリュード」以下の曲も,声高に騒ぐことなく,じっくりとバッハの音楽の美しさを吉井さん自身が味わうように聞かせてくれました。

近距離で聞いたので,多少ギシギシとした感じに聞こえる部分もありましたが,どの曲にも落ち着いた味がありました。サラバンドでのさらりと澄んだ空気。ジーグでのはしゃぎすぎない躍動感も印象的でした。メヌエットでは,途中トリルの部分で短調に変わるのですが(調性が変わるのはこの部分だけだと思います),その少し暗転する感じが,人生の妙味のように感じられました。

第1番の演奏後,吉井さんのトークが入りました。バッハの無伴奏チェロ組曲集について,「何のために書かれたか分からない。もしかしたら自分のためののかもしれない」という説明があった後,1曲ごとに性格が違うことを,各曲のプレリュードの「さわり」を演奏しながら紹介されました。バッハの「無伴奏」については,ルドヴィート・カンタさんの演奏で全曲演奏を何回か聞いたことはあるのですが,「プレリュードばかり」を聞き比べるのは,始めてのことです。吉井さんの説明では次のとおりでした。
第1番 皆さんご存じの曲
第2番 いちばん寂しい気分の曲
第3番 ハ長調です
第4番 メロディがあるのかないのか分からないユニークな曲
第5番 途中からフガートに。作曲家はフーガが好きだけれども,奏者の方はハラハラ。
第6番 幾何学的な雰囲気のある曲

ヨコに流れているものを,タテに切ったような感じで,各曲の性格の違いを鮮やかに感じ取ることができました。複数学年を1組,2組...とクラス単位でまとめるのを「縦割り」と読んだりしますが,無伴奏チェロ組曲は「縦割り」にしても面白いと感じました。

逆に言うと,「プレリュードが肝」と言えそうです。吉井さんは,「バッハについては難しい印象をもたれますが,とても簡単です。きれいな水を見ていると思えば良い」とおっしゃっていましたが,「なるほど!」と思いました。バッハの魅力がコンパクトに伝わってきました。チェロ1本による無伴奏は,確かに「1本の川の流れ」のようなものです。各曲の性格については,浅野川と犀川の違いのようなものなのかもしれませんね。

プレリュード聞き比べコーナーは,どの曲も途中まで演奏して終了しましたので,「もう少し聞きたい」という気分になりました。というわけで...会場で販売していた,吉井さんの無伴奏全曲のCDを購入してしまいました。さらにはサイン会も行っていたので,サインもいただきました。欲をいえば...「さわり集」の後,あと1楽章演奏しておしまいにして欲しかったかなと思いました。

吉井さんの演奏会は,11月17日は午後から石川県立伝統産業館で同様の公演があった後,18日は日中湯涌自然音楽祭2019で,19:30からはクラシックカフェ ヤギヤで公演が行われました。その後,全国いくつかで公演を行うようです。「チェロを持った渡り鳥」といったところでしょうか。

PS.帰宅後,入手したCDを聞いてみました。今回の会場とは違い,教会で収録されたものでホールトーンがしっかりと入っていました。全部聞くのが楽しみです。

(2018/11/21)








公演のチラシ


秋が深まりつつある本多の森の中にある歴博


金沢市街の立体模型がありました。


こちらは古い時代の金沢市の地図。吉井さんは,この前で演奏しました。


終演後は,邦楽ホール側か今回の公演のチラシ3種類です。