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夜のクラシック:アフターセブンコンサート2018 第1回
2018年11月22日(木)19:15〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ヘンデル/ヴァイオリン・ソナタ第4番ニ長調, HWV.371
2) タルティーニ/ヴァイオリン・ソナタ ト短調「悪魔のトリル」
3)サン=サーンス/序奏とロンド・カプリチョーソ, op.28
4) (アンコール)服部孝之/NHK大河ドラマ「真田丸」メインテーマ(ソロ・バージョン)

●演奏
三浦文彰(ヴァイオリン),小森谷裕子(ピアノ)*1-3
ご案内:加羽沢美濃



Review by 管理人hs  

「夜のクラシック:アフターセブンコンサート2018」と題された,19:15開始の新演奏会が石川県立音楽堂で始まりました。コンセプトとしては,「大人向けの極上の音楽を,トークを交えて休憩なしで楽しむ」というものです。その第1回の主役は,若手ヴァイオリニストの三浦文彰さん。案内役は作曲家の加羽沢美濃さん,ピアノは小森谷裕子さんでした。

開始時間が15分遅くなっただけだったのですが,確かにその効果はあったと思います。右の写真のとおり,19:00少し前にJR金沢駅に居たのですが,余裕で開演に間に合いました。演奏会には,そのコンセプトどおり,オーケストラ・アンサンブル金沢の定期公演の時などとは一味違った,リラックスした空気がありました。これは,加羽沢さんのリラックスした進行の力も大きかったと思います。第1回とは思えない安定感と親しみやすさがありました。そして華やかさもありました。

演奏時間は1時間程度と短めでしたが,演奏会全体の充実感も十分でした。三浦文彰さんが今回演奏した作品は,ヘンデルのヴァイオリン・ソナタ第4番,タルティーニのヴァイオリン・ソナタ「悪魔のトリル」,サン=サーンスの序奏とロンド・カプリチョーソということで,静かな曲から技巧的な曲へと少しずつ盛り上がっていくような構成でした。

三浦さんのヴァイオリンの音について,加羽沢さんは「色気がある」と語っていましたが,最初に演奏されたヘンデルのソナタからそのとおりでした。どの曲についてもしっとりとした香りと大人の落ち着きのようなものを感じました。三浦さんは,白っぽいシャツで登場しましたが,こちらもファッショナブルでした。

ヘンデルのヴァイオリン・ソナタ第4番は,緩-急-緩-急の4つの楽章からなる「教会ソナタ」の形式で書かれた作品でした。随所オペラのアリアを思わせる美しいメロディが登場する,とても聞きやすい作品でした。三浦さんは,しっかりとヴィブラートを効かせていましたが,その温かみのある音を聞くだけで,幸福感を感じました。温かく見守るような小森谷さんのピアノも雰囲気にぴったりでした。途中,小森谷さんの「三浦さんがおむつを付けていた頃から知っている」というトークがありましたが,安心して演奏することができたのではないかと思います。

テンポの速くなる第2楽章,第4楽章でも急速に走り抜けるような感じにはならず,美しく音楽を聞かせてくれたが良かったと思いました。そして,少しメランコリックな気分のある第3楽章も素晴らしいと思いました。どこかロマンティックな気分が漂うような演奏でした。

途中,加羽沢さんと三浦さんとのトークが入りましたが,こちらも,さすが加羽沢さんだと思いました。NHKの「らららクラシック」などでもお馴染みの,リラックスしていながら,しっかりとした内容のあるお話を引き出していました。

タルティーニの演奏前には,ピアノのトリルとヴァイオリンのトリルを聞き比べたり,難しい重音のトリルが「悪魔のトリル」であることを説明されたり,なるほどというお話を楽しむことができました。ちなみに「「悪魔のトリル」というのは,夢の中で悪魔から伝授された」というエピソードに基づくものとのことでした。

タルティーニの「悪魔のトリル」は,最初の楽章はシチリアーノ風ですので,ヘンデル同様にゆったりと楽しめたのですが,その中にグイグイと迫ってくるような強さも感じました。第2楽章はテンポが速くなり,若々しいキレの良い演奏を聞かせてくれました。ただし,こういう部分でも機械的ではなく,「色気がある」のが三浦さんの魅力なのだと思います。

第3楽章は,後半,かなり長いカデンツァがあり,「悪魔の技」が次々出てくるような雰囲気になります。この豪華な雰囲気が聞きもので,堂々たる貫禄を感じさせる,伸びやかさのある音楽を楽しませてくれました。演奏後のトークの中で三浦さんは「けっこうしつこい曲です」と語っていましたが,確かに第3楽章には,そういう面もあると思いました。ただし,格好の良い「しつこさ」だと思いました。

次のトークコーナーでは,石川県立音楽堂のお隣にある,ANAクラウンプラザホテルのバーテンダーの方が登場し,この日の演奏曲をイメージしたオリジナル・カクテル「悪魔のトリル」を紹介するコーナーになりました。赤色系のお酒の中にライムが添えてあるものでした。演奏会終演後は,ホテルのラウンジで「限定50杯」提供します,とのことでした。実は行くだけ行ってみたのですが...やはり少々敷居が高く,今回はパスしました。ホテルに来てもらうのが目的だとは思いますが,音楽堂のカフェコンチェルトあたりで提供してもらった方がありがたかったかなという気はしました(右の写真は,終演後,ステージ上に残っていたカクテルを撮影したものです。)・。

さらには「三浦文彰」さんのイメージをもとに,加羽沢さんが即興的にピアノ小品として演奏。さりげなく「真田丸」のテーマを入れたり(私にも分かりました),トリルを入れたり,色々な隠し味のある演奏でした。加羽沢さんの面目躍如のコーナーでした。

演奏会の最後には,サン=サーンスの序奏とロンド・カプリチョーソが演奏されました。しっとりとした艶っぽさのある序奏部の後,キリッとした主部に入っていきます。崩しすぎることのない,きっちりとした演奏だったと思いますが,単調な感じにならず,しっかりとした味があるのが良いと思いました。急速な部分でも,全くバタバタした感じになることなく,しっかりとした歌と速い音の動きの中から立ち上るロマンの香りのようなものを楽しませてくれました。

アンコールでは,「真田丸」のテーマが演奏されたのですが,大河ドラマのテーマ曲で使われていたバージョンではなく,ヴァイオリン独奏用のバージョンでした。何というか,「もしもパガニーニが真田丸を演奏したら?」といった趣きのある,技巧的で力感のある演奏を楽しませてくれました。タルティーニ同様,悪魔的な要素が加わった「真田丸」でした。

というわけで,この「夜のクラシック(略して「夜クラ」)第1回は,特製カクテルに負けない,「大人の香りと落ち着き」のある演奏を聞かせてくれる,期待どおりの内容でした。末永く続くシリーズになって欲しいと思います。

PS.この日ですが,「大人のカクテル」の雰囲気とはほど遠い,雨合羽+自転車で音楽堂まで来たのですが,今後は「その辺」も意識して来ないといけないでしょうか。それと,飲酒運転にならないように注意が必要ですね。

(2018/11/28)




公演の立看板。第2回はサクソフォンの須川さんが登場します。


音楽堂のお隣のANAホテル




玄関にはクリスマスツリーが出ていました。