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PFUクリスマス・チャリティコンサート:ラッパが鳴り響くところ
2018年12月8日(土)15:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ヘンデル/「水上の音楽」第2組曲ニ長調,HWV.349
2) バッハ,J.S./ブランデンブルク協奏曲第3番ト長調, BWV.1048
3) ハイドン/トランペット協奏曲変ホ長調,Hob.VIIe:1
4) (アンコール)エリントン/イン・ア・センチメンタル・ムード
5) ハイドン/交響曲第104番ニ長調,Hob。I:104「ロンドン」
6) (アンコール)きよしこの夜

●演奏
松井慶太指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:江口有香)*1-3,5-6
ルシエンヌ・ルノダン=ヴァリ(トランペット*3-4)



Review by 管理人hs  

毎年恒例のPFUクリスマス・チャリティコンサートを聞いてきました。今年のテーマは,「ラッパが鳴り響くところ」ということで,ハイドンのトランペット協奏曲,ヘンデルの「水上の音楽」第2組曲などトランペットの活躍する曲を中心に,バロック音楽から古典派音楽が演奏されました。演奏は,松井慶太さん指揮OEKで,ハイドンの独奏者として,若手トランペット奏者のルシエンヌ・ルノダン=ヴァリさんが登場しました。

演奏会は,ヘンデルの「水上の音楽」第2組曲で始まりました。この組曲は,ラッパ特にトランペットとホルンが活躍する曲集です。今回は古楽奏法という感じではなく,弦楽器などは,ほぼ通常の人数でした(第1ヴァイオリンは8人でした)。松井さん指揮OEKの演奏にも大らかさがありました。全体に安定感のあるテンポで,優雅に聞かせてくれました。時折,チェンバロの音がしっかりと聞こえてくるの良かったですね。

次の曲は,この日唯一管楽器の入らない,バッハのブランデンブルク協奏曲第3番でした。ヘンデルの「水上の音楽」第2番は,特にトランペットの負担が大きい曲なので,「中休み」といったところでしょうか。

この曲を実演で聞く機会は,以外に少ないと思います。CDなどで聞くより,実演で聞く方がずっと楽しめる作品だと思いました。編成が,ヴァイオリン3人,ヴィオラ3人,チェロ3人+コントラバス1人という独特の編成で,ノリの良いリズムに乗って,合奏する部分と,ソロを取っていく部分とが次々と交錯していきます。この立体感が実演だとよく分かります。特にヴィオラのダニイル・グリシンさん。その演奏の迫力が際立っていました。

第2楽章は,楽譜的には「2つの和音だけ」のはずですが,この日はチェンバロの辰巳美納子さん(プログラムには記載が無かったのですが,メンバー表が欲しかったですね)が,センスの良い見事なソロを聞かせてくれました。「水上の音楽」の時もそうでしたが,チェンバロの音もしっかりと聞こえてくるのが,石川県立音楽堂コンサートホールの良さだと思います。

ちなみにこの曲ですが,3つの弦楽器のパートが3人ずつ。番号も第3番ということで,3へのこだわりを感じさせる作品ですね。バッハの生誕333年の年に最後に聞くのにぴったりの作品といえます。

前半の最後は,この日のハイライトといってもよい,ルシエンヌさんの独奏によるハイドンのトランペット協奏曲でした。ルシエンヌさんは,まだ10代の女性トランペット奏者で,来年の7月のOEKの定期公演に出演し,辻井伸行さんとともにショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番を演奏する予定の注目のアーティストです。

とても小柄な方で(指揮者の松井さんが非常に長身だったので,そう見えたのかもしれませんが),ステージでの動作も,長い髪を掻き上げたり,音楽に乗って足を動かしたり,「今どきの若者」という感じでしたが,その音は大変柔らかく,演奏のスタイルもセンスの良さを感じさせるものでした。

「ハイドン×トランペット=明るく健康的」という印象を持ってしまうのですが,ルノシエンヌさんの演奏には,少し憂いを含んだような抑制した感じがあると思いました。しっかりと「ルシエンヌさんらしさ」を持っている奏者だと思いました。もちろん伸びやかさもあるのですが,所々で,フッと陰りを見せるようなサラリとした感触を見せるのが大変威力でした。

演奏全体について,バリバリと吹きまくる感じはなく,常に「余裕がありますよ」といった感じの,良い意味でのちょっと気取ったようなムードを漂わせていました。カデンツァにもスマートな雰囲気がありました。

シチリアーノ風の第2楽章は,とてもマイルドな音でリラックスした気分で聞かせてくれました。第3楽章はいちばん技巧的な楽章だと思いますが,サラリとクリア。基本的にマイルドな雰囲気で時折,伸びやかな高音を聞かせてくれるような感じで,全曲を美しく聞かせてくれました。

アンコールでは,デューク・エリントンの「イン・あ・センチメンタル・ムード」をブルーなムードたっぷりに演奏してくれました。何というか,ジャズとクラシックの区分をするのは意味のないことなのかもしれない,と思わせるような演奏でした。考えてみると,ハイドンの方も,ちょっとブルーさのあるクールなハイドンだったと思います。来年7月のショスタコーヴィチも大変楽しみです。

休憩時間はPFUの宣伝タイム。女子バレーのブルーキャッツでは...江畑選手しか知らないのですが,徐々にリーグの上位に定着しつつあるようですね。
 

後半はハイドンの交響曲第104番「ロンドン」が演奏されました。この曲については,特にトランペットが大活躍...というわけではありませんが,OEKの編成にピッタリのお得意の曲です。松井さんの作る音楽は,第1楽章の序奏部からコンパクトに引き締まっており,古典派音楽にぴったりの雰囲気がありました。演奏全体に透明感もあり,バロック・ティンパニのからっとした音と相俟って,くっきりとした清潔感ある音楽を作っていたと思います。展開部になって,主要なモチーフが飛び交い,弦楽器がしっかりと歌う華やかさも良いと思いました。

第2楽章は短調の部分が時々挟まる,ハイドンのお得意のパターンですが,軽やかさの中に落ち着きと深さがあり,大変聞き応えがありました。第3楽章は,中庸のテンポで力み無く始まった後,トリオでスッと気分が変わりました。とても新鮮さのある演奏でした。

第4楽章は,一貫してキビキビと音楽が展開し,最後は堂々と締めてくれました。毎回思うのですが,OEKのハイドンは良いですねぇ。今回の演奏も,OEKの良さがしっかり引き出された,とても気持ちの良いハイドンでした。

アンコールではオーケストラとチェンバロのために編曲された,「きよしこの夜」が演奏されました。まるでOEKのためにアレンジされたような素晴らしい編曲だと思いました。..途中,「みなさんご一緒に」と松井さんが客席に向かって指示を出されましたが,それにしては「美しすぎる」演奏だったかも知れません。

演奏会の時間的な長さはやや短めでしたが,とても気持ちよくOEKの得意なレパートリーを楽しめた演奏会でした。

 
JR金沢駅のクリスマス飾りです

(2018/12/15)




公演の立看


公演の案内と音楽堂入口のツリー

音楽堂のコンサートガイド,12月と1月を合わせるとクリスマス色です。




今回の公演はチャリティコンサート。金沢市文化人づくり募金のために1000円程度の募金をお願いしますということでした。

本日の座席は抽選でここ。斜めの角度からにステージを観るのは少々苦手...昨年もサイドだったので,一人だとサイドに行きやすいのかも?