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かほく市クリスマスコンサート2018
2018年12月20日(木)19:00〜 石川県西田幾多郎記念哲学館 |
モーツァルト/弦楽四重奏曲第16番変ホ長調,K.428
ヤナーチェク/弦楽四重奏曲第2番「ないしょの手紙」
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第1番ヘ長調,op.18
(アンコール)バッハ,J.S./主よ人の望みの喜びよ
●演奏
松井直,上島淳子(ヴァイオリン),石黒靖典(ヴィオラ),大澤明(チェロ)
この日は石川県立音楽堂コンサートホールで行われた「夜クラ」第2回目に行くという選択肢もあったのですが,プログラムの素晴らしさに惹かれ,石川県西田幾多郎記念哲学館で行われた,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)メンバーによる「かほく市クリスマスコンサート2018」を聞いてきました。
この演奏会も恒例イベントになっているのですが,「クリスマスコンサート」という楽しげな名称とは関係なく(?),30分程度の,それほど有名ではないけれども,充実した内容の弦楽四重奏曲3曲をたっぷりと聞かせてくれる,大変マニアックな内容の演奏会でした。登場したのは,OEKメンバーによる室内楽ではおなじみの,ヴァイオリンの松井直さん,上島淳子さん,ヴィオラの石黒靖典さん,そして,著エロの大澤明さんでした。
演奏された曲は,モーツァルトの弦楽四重奏曲第16番変ホ長調,K.428,ヤナーチェクの弦楽四重奏曲第2番「ないしょの手紙」,ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第1番ヘ長調,op.18でした。今回も,大澤さんのトークを交えての内容でしたが,どの曲の選曲にもこだわりが感じられました。
大澤さんのお話によると,モーツァルトの弦楽四重奏曲は,有名な「ハイドンセット」の中の1曲だけれども「その中でも演奏される頻度の少ない曲」。ヤナーチェクについては,タイトルとは裏腹に結構支離滅裂な部分もあるが,とても素晴らしい作品。ベートーヴェンについては,「遠くからだと子猫に見えるが,実は虎」といった品,ということで,超有名作はなかったのですが,各楽器の音が生々しく聞こえるホールで聞いたこともあり,どの曲からも迫力が伝わってきました。
モーツァルトとベートーヴェンについては,古典派音楽の到達点といった趣きのある作品で,両曲の各楽章とも主要な主題が,きっちりと展開し,絡み合うような緻密さがありました。
モーツァルトの方は,第1楽章の最初,ユニゾンで始まった後,その後,各声部がしっかりと掛け合いをしながら進みました。内声部の音もよく聞こえ,音楽全体に立体感がありました。第2楽章は穏やかで平和な気分のある楽章で,4人の絶妙のハーモニーによる地に足に着いた歌を楽しむことが出来ました。
第3楽章は,音の動きに独特なところがあり,前半の楽章とは違い,どこか野性的な味がありました。第4楽章は,ハイドン的な明快な音楽でした。慌てすぎることなく,上機嫌な気分がしっかりと伝わってきました。
この曲は,ハイドン・セットの中では演奏頻度は低いとのことですが,音の動きに半音階的な動きを感じさせる部分が多く,どこか古典派音楽を超えるような,少々ミステリアスな部分もあるのが魅力だと思いました。
最後に「トリ」で演奏された,ベートーヴェンの方は,まさに大澤さんの言葉どおりの作品で,第1楽章の冒頭,清澄な感じのユニゾンで始まった後,中期の作品を思わせるようなモチーフの積み重ねが続きました。クライマックスでは,切実な声を上げるように感情が爆発するような部分もあり,やはりベートーヴェンだなぁと思いました。
この曲についても,モーツァルト同様,第2楽章での深い情感や第3楽章スケルツォでの「一癖あるような」メロディが印象的でした。第4楽章は,爽やかな雰囲気の楽章でしたが,演奏会全体を締めるのに相応しく,軽く流れるよりも,じっくりと各楽想を聞かせてくれるような演奏でした。
前述のとおり各楽器の音が生々しく聞こえるホールだったので,少々疲れる部分はあったのですが,第2ヴァイオリンとヴィオラの内声部の音の動きがしっかり聞こえ,第1ヴァイオリンがしっかりと歌い上げ,チェロがビシッと引き締め...という感じで臨場感たっぷりの演奏を楽しむことができました。
真ん中で演奏された,ヤナーチェクの弦楽四重奏曲第2番の方は,かっちりとまとまった古典派音楽とは対照的に,どの楽章についても狂気に満ちた,この世から一歩踏み外したような世界が広がっていました。ヤナーチェクの音楽は,モーツァルト,ベートーヴェンに比べると,確かにとっつきにくかったのですが,音楽というよりは,常に何かのストーリーを語っているような表現力の多彩さを感じました。
第1楽章は,始まってすぐ,ヴィオラやチェロに変な音(ハーモニクス?)が出てきたり,そのすぐ後に輝きに満ちた響きが出てきたり,色々な気分が交錯しながら進んでいく感じでした。第2楽章は,不安げな気分の中に美しさが潜んでいるような楽章でした。
第3楽章は3拍子系の楽章で,第1ヴァイオリンの松井さんの滴るような美音や,最後の部分での叫ぶような痛切さのある音が印象的でした。全体にほの暗く,夢の中にいるような雰囲気もありました。第4楽章は民族的なリズム感のある楽章でした。その中に狂気にとりつかれたようなドラマが感じられました。
この曲は,最晩年のヤナーチェクの恋愛(40歳年下の人妻(!)に片思い)がモチーフになった作品で,技巧面でも一筋縄では行かない難曲であることも実感しましたが,OEKメンバーの演奏には,その難曲に正面から挑むような迫力がありました。聞いているうちに,クリスマス気分も吹っ飛びそうでしたが,こういう「色々な曲に挑戦して行こう」というスタンスは大歓迎です。
ただし,今回の演奏会のプレコンサートでは,賛美歌が演奏され,さらにアンコールではバッハの「主よ人の望みの喜びよ」が演奏され,しっかりとクリスマス直前であることを感じさせてくれました。4声部がしっかりと絡み合うハモりは至福の世界でした。プレコンサートは,ホールの 外の,吹き抜け下のような場所で演奏されましたが(下の写真),教会を思わせるような残響があり,賛美歌のムードにぴったりでした。そういえば,西田哲学館を設計した安藤忠雄さんは,「光の教会」で有名な方でしたね。
この演奏会も恒例になっているようですが,是非,今後も「マニアック路線」で,色々な弦楽四重奏を楽しませて欲しいと思います。

(2018/12/15)
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公演のポスター
今回は,少し離れたところにある駐車場から哲学館まで歩きました。「思索の道」という名前でした。

その後,エレベータで上の方まで行った後,さらに細い通路を通って,哲学館へ。


哲学館からの夜景です。イオンかほくSC辺りが明るくなっています。
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