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いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2018 レビュー・トップページ
いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2018
2018年4月29日〜5月5日 石川県立音楽堂,金沢市アートホール,JR金沢駅周辺,金沢市内各地

Review by 管理人hs  

2018年4月29日(日)

4月29日のガル祭の開幕日は,ラ・フォル・ジュルネ金沢の頃から,ほとんど毎年晴れていた印象があリます。今年も大変気持ちの良い,少々暑いぐらいの好天になりました。
 
今年は開幕ファンファーレには行かず,午後のオープニング・コンサートから参加しました。演奏会の前に,前田家の当主で音楽祭の実行委員長である利佑氏,谷本石川県知事,山野金沢市長のあいさつが入るのもすっかり恒例です。

 

オープニングコンサートの司会は,NHK朝ドラ「花子とアン」に出演していた,サラ・マクドナルドさんが日本語で担当しました。ヘンリク・シェーファーさん指揮のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)に加え,横山幸雄さん,森麻季さんといったピアニストと歌手が複数登場していましたので,スター奏者の揃ったガラコンサートのような華やかな構成となっていました。いずれにしても,モーツァルトの音楽とOEKの新鮮な響きは春の雰囲気にぴったりでした。


オープニング・コンサート
式典13:45〜,演奏会14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) モーツァルト/歌劇「劇場支配人」K.486 序曲
2) モーツァルト/交響曲第40番ト短調, K.550〜第1楽章
3) モーツァルト/ピアノと管弦楽のためのロンド ニ長調, K.485
4) モーツァルト/ピアノ協奏曲第20番ニ短調, K.466〜第2,3楽章
5) モーツァルト/モテット「踊れ喜べ,汝幸いなる魂よ」K.165〜アレルヤ
6) モーツァルト/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」〜「あの人でなしは私を欺き」
7) モーツァルト/トルコ行進曲
8) モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」, K.492〜「もう飛ぶまいぞこの蝶々」
9) モーツァルト/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」 K.527〜「お手をどうぞ」
10) (アンコール)シュトラウス,J.II/喜歌劇「こうもり」〜シャンパンの歌
●演奏
ヘンリク・シェーファー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)*1-6,8-10
森麻季*5,マリア・サバスターノ*6,9(ソプラノ),三戸大久(バス*8,9),川下新乃*3,横山幸雄*4(ピアノ),神谷紘実,田嶋翠(マリンバ*7)
司会:サラ・マクドナルド

個人的には,昨年のように,大曲を全部演奏するようなプログラムの方が好きだったのですが,音楽祭本公演に向けた「予告ダイジェスト編」として考えれば,とてもバランスの良い内容になっていたと思います。

今回の音楽祭で「最初から最後まで」OEKを指揮するのが,ヘンリク・シェーファーさんでです。プロフィールによると「クラウディオ・アバドの指名でベルリン・フィルのアシスタント・コンダクターを務めたことがある」と言うことで,確かにアバドに通じるものがあるかもと感じました。

最初に演奏されたモーツァルトの「劇場支配人」序曲をはじめとして,すっきりとした透明感をベースに,キビキビとした音楽を聞かせてくれました。古楽奏法という感じではなかったのですが,ティンパニのくっきりとしたアクセントなど,強弱の付け方がとても新鮮だと思いました。

モーツァルトの交響曲第40番は,第1楽章のみの演奏でした。やや速めのテンポで,軽く,柔らかでどこかはかなげない,この曲のイメージどおりの演奏でした。実は,この公演については,1階席のとても良い席で聞けたので,特に各楽器の音がよく聞こえてきました。楽章後半で,木管楽器が対旋律を演奏している辺り,特に良いなぁと感じました。5月3日以降の本公演での演奏に期待を持たせてくれる演奏でした。

続いて登場したのが,川下新乃さんという小学校4年生の女子でした。今回オーディションで選ばれた方で,モーツァルトのピアノと管弦楽のためのロンドを見事に演奏しました。優しく,しっかりと弾かれたピアノも素晴らしかったのですが,それを包み込むOEKの演奏にも愛情が溢れていました。晴れの舞台に,こういう地元のアーティストとの共演を組み込むあたりに,ガル祭の特色があるのだと思います。

ちなみにこのロンドですが,ラ・フォル・ジュルネ金沢でモーツァルトを取り上げた際もオープニングコンサートで演奏されたことを思い出しました。「チャン チャン チャン 休み/チャン チャン チャン 休み/チャン チャン チャン チャン チャン チャン チャン 休み」とういうリズムで始まる曲ということで...見事に三三七拍子の曲です。

続いて「大人のピアニスト」,おなじみ横山幸雄さんが登場し(衣装は,いつもどおりのソムリエ風のチョッキでした),モーツァルトのピアノ協奏曲第20番の第2楽章と第3楽章が演奏されました。何よりも第2楽章の音が美しかったですねぇ。さりげないのにくっきりと磨き上げた,芯のある音でした。ピアノのソロの後,オーケストラが加わり,音楽が広がる辺りは,生演奏ならではだなぁと,いつもと別の場所で聞いたこともあり,強く感じました。第3楽章もお見事だったのですが,この楽章については,もう少し「ひっかかり」のようなものがあって欲しいかなと思いました。

その後は歌手たちが続々と登場しました。最初は,こちらもお馴染みのソプラノの森麻季さんが登場し,「アレルヤ」を歌いました。3楽章からなるモテット全曲ではなかったので,後から考えると,非常に出番は短かったのですが,いつもどおりの天から降ってくるような軽く柔らかな声を聞かせてくれました。以前に比べると,声の質に暖かみが感じられるようになってきた気がします。森さんは,今年の11月には,OEKと「リゴレット」を共演し,ジルダを歌う予定です。そちらへの期待も広がりました。

その後,もう一人のソプラノのマリア・サバスターノさんが登場し,ドン・ジョヴァンニの中の「あの人でなしは私を欺き」が歌われました。森さんとは対照的に,やや暗めの強い声の方で,このアリアの雰囲気にぴったりでした。聞き応えのある声でした。

続いて,プログラムに書かれていない曲が「サプライズ」のような形で演奏されました。登場したのは,マリンバの神谷紘美さんと田嶋翠さんで,お二人の二重奏でトルコ行進曲が客席の真ん中で演奏されました。実は...お二人のすぐ背後で聞いていました。まず,その技がすごいと思いました。筋肉の動きがそのまま音楽になって出ているんだなと,奏者になった気分で楽しむことができました。曲の方は,途中,少しジャズ風になるなど,緩急自在なアレンジで,軽やかさと迫力を兼ね備えた,表現力の豊かな演奏を聞かせてくれました。

そしてそのままマリンバ2曲目(今度は神谷さんの独奏でしたが)に突入...と思わせつつ,「フィガロの結婚」の中の「もう飛ぶまいぞこの蝶々」にするっと切り替わり,客席から三戸大久さんが登場しました。客席からフィガロが登場というのは,キャラクターにぴったりかもしれません。

そして三戸さんの声が素晴らしかったですね。調べてみて思い出したのですが,昨年秋のOEKの「トスカ」公演でスカルピアを歌われていた方です。すべてを包み込むような暖かさと豊かさを持った,惚れ惚れとする声でした。

最後,三戸さんとサバスターノさんの二重唱で,ドン・ジョヴァンニの中の「お手をどうぞ」が歌われてプログラムは終了したのですが,やはり,この曲で締めるのも少々弱い部分がありましたので,やはりアンコールが演奏されました。

演奏されたのは...ヨハン/シュトラウスの「こうもり」の中の「シャンパンの歌」でした。ここまでモーツァルト尽くしで,最後だけ別の作曲家というのは「?」の面もありましたが,ガラ・コンサートの締めにはぴったりの曲でした。この部分では,ガル祭の色々な公演で活躍することになる,石川公美さんをはじめとした,地元でお馴染みの歌手たちがグラスを手にして登場し,一声ずつソロを歌っていました。


この日の夜にも公演が行われました。こちらも「ベートーヴェンの第9の第4楽章」ということで,個人的には「?」だったのですが,この辺の「細かいところは気にしない,コンセプトのアバウトさ」が,ガル祭の特徴と言えるのかもしれません。

PS.あとでガル祭のタイトルを見て了解したのですが,「ウィーンの風に乗って,モーツァルトが金沢に降臨!」ということで,「ウィーン」もテーマの一つだったのですね。

 

PS2.オープニングコンサート前の「セレモニー」ですが,毎年,山野市長の挨拶以外では,音楽そのものについての言及がほとんどないですね。音楽祭自体の新鮮味を維持するためにも,そろそろ見直しても良いのかなという気もします。



まずは音楽祭のグッズをチェック。

 

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