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いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2018 レビュー・トップページ
いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2018
2018年4月29日〜5月5日 石川県立音楽堂,金沢市アートホール,JR金沢駅周辺,金沢市内各地

Review by 管理人hs  

2018年5月2日(水)

ガル祭本公演前のエリアイベントも盛りだくさんでしたが,今年は,5月2日に北國新聞赤羽ホールで行われた「作曲家たちのモーツァルトひらめき大会」にのみ参加してきました。


作曲家たちのモーツァルトひらめき大会
19:00〜 北國新聞赤羽ホール

第1部 モーツァルトはお好き?
第2部 モーツァルトひらめき大会

出演:池辺晋一郎,新実徳英,新垣 隆,加羽沢美濃,ピアノ:平野加奈
司会:響敏也,

ガル祭の,本公演前のイベントして現代日本を代表する作曲家4人が登場し,即興演奏などをおこなう「ひらめき大会」が今年も行われました。今年で3回目になります。

昨年までは,青島広志さんも参加していましたが,今年は青島さんに代わって,加羽沢美濃さんが登場しました。モーツァルトの音楽について違った見方をして欲しい,という趣旨の企画ですが,個人的には,これまで生で接したことのなかった,加羽沢さん,新垣さんを目当てに参加することにしました。
 

まず,モーツァルトレクイエムの中の「ラクリモーサ(涙の日)」の音楽に乗って,4人の作曲家が一人ずつ登場しました。ちなみに,今回集まった4人は,池辺さんのお話によると「同門(三善晃,野田暉行が師匠)とのことです。


その後,司会の響さんから,4人の作曲家に対して,5つの質問がされました。以下,そのやりとりを紹介しましょう。各作曲者の「原点」や「個性」のような部分が分かり,興味深い内容になっていました。「#行」は,私のコメントです。

●質問1 好きな作曲家ベスト3を教えてください。

池辺:時代ごとに上げる
  • モーツァルト:プロフェッショナルな天才。ただし謙虚。アマです=アマデウス
  • シューマン:隠れたところで新しいことをやっている人
  • ドビュッシー:色々と画期的なことをやった人。音楽だけにとどまらない 
#「ペレアスとメリザンド」もその一種かもしれませんね。

加羽沢:影響を受けた人という観点から
  • ラフマニノフ:きっかけはピアノ協奏曲第1番(第2番ではなく第1番とのこと)。4歳でピアノを習い始め,きれいな曲だと思った。そして,作曲家になりたいと思った。
  • ジョン・ウィリアムズ:小学校4年生の時映画「E.T」を観て映画音楽を作りたいと思った。
  • チャゲ&飛鳥の飛鳥:高2の時はまっていた。今は私の青春を返して...という気分。

新垣:小さいときの思い出から
  • ドビュッシー:子どもの領分の最初のハ長調のアルペジオを聞いてびっくりした
  • ストラヴィンスキー:生誕100年の年に虜になった
  • 武満徹:中学1年の頃,隣の県から西武劇場にミュージック・トゥデイを聞きに行っていた。半ズボンをはいていた。

新美:まずは新垣さんの話題を受けて,ドビュッシーの話題から。
ドビュッシーは,前奏曲集第1集をカサドシュの演奏で聞いてすごいと思った。モーツァルトは天才過ぎ。もっと努力した人が好き。努力・工夫・発見をし,すごい成果を残した人が好き。

  • バッハ
  • ベートーヴェン
  • バルトーク:西欧以外出身の作曲家で新しいことをしないといけなかった点で,日本人作曲家と通じるものがある。先鞭をつけた作曲家である。民謡収集のために,重い録音機器を持ち歩いていた。民謡を抽象化してハンガリー音楽を作った人である。その後,響さんから,バルトークはダイレクトにレコードに録音していたと補足説明あり。

●質問2:モーツァルトの中で好きな曲1曲を紹介してください。

池辺:ピアノ協奏曲第21番〜第2楽章

まず,ピアニストの平野加奈さんと2台で演奏

なぜ好きか?―多くの曲は2,4小節単位で作られているが,この曲は3小節単位で作られている。それでいて足りない感じがない。完璧なメロディになっているから。最近放送されないけれども,スウェーデン映画の映画音楽としても使われている。

加羽沢:交響曲第40番
モーツァルトには苦手意識があったが,段々と好きになってきた。特に短調の曲が好きである。交響曲は当時,開幕ベル的な扱いだったが,それとは全く違う野心作である。

平野さんとピアノ連弾で演奏

第1楽章は,冒頭に出てくる「タララン」(ほぼ2つの音,ため息のモチーフ)だけで作られている。数えてみたら200回もあった。開幕ベルのように「ジャン」と始まるのではなく,ヴィオラがささやくように出てくるのがよい

新垣:ピアノ協奏曲第9番
理由は...明日弾くから。
どこが良いですか?―楽想が次々とあふれ出てくる点。それが自由自在に組み合わさっている。20歳の頃の曲だが,すでに円熟味がある。

ここで第3楽章の一部を演奏

ちょっとミスがありましたが,明日は大丈夫です。

新美:交響曲第41番「ジュピター」

新垣+新美で連弾

第1主題は男性的なテーマと優美なテーマの対比が素晴らしい。第2主題は本当にきれいなメロディである。K331の冒頭は,たった5音でメロディができている。オクターブを出ない!社歌を作るとき苦労しているが...

# 響さんの豆知識 「551豚まん」の店長さんはクラシック音楽好き

●質問3:モーツァルトが今生きていたらどんな曲を書いていたでしょうか?

新美:メロディアスな曲。ただし,そういう時代でないので,ちょっといじけた感じになっているかも。いずれにしても最先端を行く曲だろう。

新垣:どんな依頼も受け,どんなスタイルにも対応でき,冗談ばかり入っている作曲家,つまり池辺さん。池辺さんはモーツァルトの生まれ変わり!
# 持ち上げすぎ(?)

加羽沢:流行に敏感で,依頼に応じて書く人だったので,ダンス・ミュージックとかを書いていたかも。きれいな女性のための歌とかも書いていたかも。スタバのBGMなど,生活に根ざした曲があると良い

池辺:好奇心旺盛で,流行に敏感(オスマントルコ→トルコ行進曲)だった。ウィーンにいながら日本風,中国風の曲を書いていたら面白い。

●質問4:モーツァルトと同時代に生きていたらどういうつきあい方をしていたでしょうか?

池辺:子ども時代からの友人のようなつきあい方。遊び相手として良さそう。新しいもの好きなので,新幹線に乗って一緒に金沢に来ていたかも

加羽沢:ピアノ連弾をしてみたい。手が重なりあったりするのも良い。

新垣:池辺さんとどう付き合うか?と同じ意味になってしまうので...まあ仲良くやりたいです。
# 答えになっていない という突っ込みあり

新美:ストラヴィンスキーとドビュッシーは20歳ぐらい違うが,離れると悪口を言い合っていたらしい。同じぐらいの作曲能力があるかどうか,年上か年下かでつきあい方で変わる。モーツァルトは,バクチで作った借金をオペラを書いて取り戻していたらしい。崇拝者のようになるかサリエリのようになるか?

●質問5:歌劇「フィガロの結婚」の中の「恋とはどんなものかしら」「もう飛ぶまいぞこの蝶々」のどちらかの曲と金沢と結びつけて演奏してください。

休憩前に課題が出され,休憩後に順に解説付きで演奏開始

新美:シューマンや自作の「白いうた,青いうた」など,いろいろな曲をつないで演奏(途中,新美さんの歌入り)。ただし,金沢には無関係でした。

新垣:明日演奏する 「ジュノム」の第1楽章第2主題は「恋とは」と同じ和音進行である。ただし...沖縄風になってしまいました。

加羽沢:もしもモーツァルトがタンゴを踊ったら というテーマで「恋とはどんなものかしら」をアレンジ=ダンゴ3兄弟風に。曲としてまとまっていましたが,やはり「金沢」とは関係なし。

池辺:以上のとおり,ここまで誰も「金沢」に結びつけられなかったので,最後の池辺さんに期待が集まる状況に...。池辺さんは,休憩時間中は打ち合わせをしたので考えられなかったのですがと言いつつ,「もう飛ぶまいぞ」をモチーフに演奏を開始。同音キーを6回連打するモチーフを多用=キー(鍵)×6=ケンロク ということで,なんとか金沢に結びつきました。

●フィナーレ
昨年に続き,8手連弾での演奏。今回は,モーツァルトのトルコ行進曲を演奏したのですが,かなり「はちゃめちゃ」な感じでした。新垣/新美は普通に演奏し,加羽沢/池辺がオブリガードを加えるといった形だったと思います。正直,ごちゃごちゃして,しつこい演奏でしたが,時々ジャズ風になるのが面白買ったですね。前夜祭ならではの,「何でもあり」といった感じで締めてくれました。

今回の「ひらめき大会」については,その名のとおり,ほとんど「出たとこ勝負」的な雰囲気がありました。特に,最後の即興演奏については,もう少し「金沢風味」を出してほしかったかな...と思いましたが,何よりも,一癖も二癖もある作曲家4人に当時に接することができた貴重な機会でした。