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いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2018 レビュー・トップページ
いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2018
2018年4月29日〜5月5日 石川県立音楽堂,金沢市アートホール,JR金沢駅周辺,金沢市内各地

Review by 管理人hs  

2018年5月3日(木・祝)

ガル祭本公演1日目は,アシュケナージさん指揮のモーツァルトの交響曲集でスタート。朝10時開始という,常識的な感覚からすると,「ものすごく早い」開演時間でしたが,お客さんは大入りという感じでした。やはりアシュケナージさんの人気の力が大きかったと思います。
 



C11 10:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

モーツァルト/交響曲第1番変ホ長調,K.16
モーツァルト/第41番ハ長調,K.551「ジュピター」

●演奏
ウラディーミル・アシュケナージ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)

演奏された曲は,音楽祭のテーマにふさわしく,モーツァルトの最初と最後の交響曲の組み合わせでした。交響曲第1番で始めるのが特に良かったですね。アルファベットでいうと,AとZを一緒に組み合わせたような感じでした。



最初と最後の交響曲については,まず,両者にいわゆる「ジュピター音型(「ジュピター」第4楽章の主題)」が出てくる点が注目です。第1番の第2楽章にもホルンに確かに出てきていましたが,結構控えめにひっそりと演奏していたと思います。

今回聞いてみて,それ以外にも主題の作り方にも共通する面があると感じました。「ジュピター」の第1楽章第1主題は,力強く始まった後,優しいモチーフが続きます。このコントラストが素晴らしいのですが,交響曲第1番の第1楽章の第1主題も前半が強く,後半が弱くという2つの部分から成っています。スケールの大きさでは「ジュピター」に及びませんが,モーツァルトの原型が表れている点がとても面白いと思いました。

アシュケナージさん指揮OEKの演奏は,大変ニュアンスが豊かでした。こういった主題内でのモチーフの対比などをとても丁寧かつ自然に演奏していました。第1番については,美しさがしっかりと染み渡るような演奏でした。

「ジュピター」については,昨年9月以降,OEKはたびたび演奏しています(井上道義さんとシュテファン・ヴラダーさん指揮)。井上さん指揮の流麗で華麗さのある演奏,ヴラダーさん指揮の非常に引き締まった筋肉質の演奏に比較すると,素朴な暖かさを感じさせるような演奏だったと思います。

全体的に曲の運びに余裕があり,考えてみるとアシュケナージさんも80歳。ベテランの味があるなぁ,と思わせるような演奏でした。ただし,アシュケナージさんは大変お元気です。指揮台に登場するとき,いつもどおり,ちょっと小走りで出てくる辺り,つい微笑ましさを感じてしまいました。

OEKの音色も素晴らしいと思いました。弦楽器のしっとりとした歌の上に木管楽器が鮮やかな彩りを加え,心地よいモーツァルトの世界に浸らせてくれました。



H11 11:20〜 石川県立音楽堂邦楽ホール

1) モーツァルト/ピアノ協奏曲第9番変ホ長調, K.271「ジュノム」
2) モーツァルト/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」K.527〜恋人よ,私を不親切な女と思わないで
3) モーツァルト/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」K.527〜シャンパンの歌
4) モーツァルト/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」K.527〜恋人よ,さあこの薬で
5) (アンコール)モーツァルト/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」K.527〜お手をどうぞ
●演奏
リッカルド・ミナーシ指揮ザルツブルク・モーツアルテウム管弦楽団
新垣隆(ピアノ*1)
マリア・サバスターノ*4-5,森麻季*2(ソプラノ)森 雅史(バス*3,5)


今回の音楽祭の目玉の一つ,リッカルド・ミナーシさん指揮のザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団が登場しました。オーケストラの編成は,OEKよりも一回り大きく,邦楽ホールで聞くには大きめの編成でした。弦楽器は対向配置で,下手側からヴァイオリン,チェロ,ヴィオラ,第2ヴァイオリンの順に並び,コントラバス3本が下手奥に配置していました。ホールの響きは,かなりデッドでしたが,次第に慣れてきました。



ピアノ協奏曲第9番は,作曲家の新垣隆さんが独奏ピアノを担当しました。前日夜のトークイベントで「それどころではない...」と落ち着かない風を見せていましたが,新垣さんの才能の豊かさをしっかり感じさせてくれるような,くっきりとした軽やかさのある,大変センスの良い演奏を聞かせてくれました。細かいところで,少々ミスタッチがあったかもしれませんが(モーツァルトの曲自体ごまかしにくい上,ホールの響き自体もごまかしが効かないところがありますね),まさに「アマデウスが弾いている」ような流れの良い演奏を聞かせてくれました。カデンツァはモーツァルト自身によるものでした(楽譜を見て演奏)。

前日のトークで,新垣さんは,第1楽章の第2主題は,「「フィガロの結婚」の「恋とはどんなものかしら」とそっくりのコード進行。間違えないか不安です」と語っていましたが,もちろん間違えていませんでした。ただし,ここはアドリブで故意に入れ替えてもらっても面白かったかも,と思ったりしました。

第2楽章は,速めのテンポによる,音の純度高い演奏でした。哀しみが透けて見えるようような硬質な感じが印象的でした。新垣さんの演奏の,まじめで誠実で一途な感じが,自然な味となって出ていました。

第3楽章は,弾むようなノリの良い演奏でした。華麗さと内向的な感じとが合体したような雰囲気があり,モーツァルトの雰囲気にぴったりだと思いました。中間部で,弦のピチカートの上に優雅にメヌエットを演奏する部分での「ロココな感じ」などは,この曲ならではの魅力もしっかり伝えてくれました。

その後,このコーナーの司会者として,作曲家の加羽沢美濃さんが登場しました。まったくリーフレットにクレジットされていなかったので,妙に得した(?)気分になりました。音楽番組での司会の経験も豊富な方ですので,しっかりと言葉で演奏会を盛り上げてくれました。「ガル祭」の場合,特に加羽沢さんのような方は大切なのではないかと思いました。

その後,歌劇「ドン・ジョヴァンニ」の中のアリアが3曲歌われました。

森麻季さんが歌ったのは,ドンナ・アンナの「揺れ動く女心」を歌った聞き応えのあるアリアでした。磨かれた声としっとりとしたしなやかさ。曲想に応じたニュアンスの変化が,コンサートホールよりもさらに生々しく伝わってきました。終盤のコロラトゥーラも見事でした。演奏後,加羽沢さんは,弱音がホール全体に広がる感を絶賛されていましたが,モーツァルトも草葉の陰から喜んでいたのではないかと思います。

その後,歌唱順がいつの間にか,プログラムに書かれていたものから変更になっており,森雅史さんが登場。加羽沢さんも「思っていた人と違う方が出てきてびっくり!」とリアルに驚いていました。森さんが歌ったのは,大変勢いのある「シャンパンの歌」。真面目にストレートに歌われ,色男というよりは,二枚目感がしっかりと出ていました。それにしても...この曲は短い曲でした。

最後は,サバスターノさんによるアリア「恋人よ,さあこの薬で」が強い声で迫力たっぷりに歌われました。声がダイレクトに富んでくる邦楽ホールならではの歌唱の連続を楽しむことが出来ました。

アンコールでは,「順番を間違ったお詫び」という訳ではないのですが,サバスターノさんと森雅史さんのデュオで「お手をどうぞ」が歌われました。森さんの甘い声がさらにアップしていたように思いました。この曲の場合,個人的には「森森コンビ」で聞きたかったのですが,これは今年の秋の「リゴレット」での共演に期待したいと思います。

終演後のサイン会も大盛況でした。


 

昼食は,音楽堂正面で売っていたANAクラウンホテルのサンドイッチ。


続いてコンサートホールに移動し,広上淳一指揮紀尾井ホール室内管弦楽団の公演へ。

C12 12:40〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1) モーツァルト/交響曲 第29番イ長調,K.201
2) モーツァルト/フルートとハープのための協奏曲ハ長調,K.299

●演奏
広上淳一指揮紀尾井ホール室内管弦楽団
高木綾子(フルート*2),吉野直子(ハープ*2)

この紀尾井ホール室内管弦楽団を聞くのは初めてのことです。人数的にはOEKとほぼ同じサイズだったと思います。楽器の配置は,下手側から,第1,第2ヴァイオリン,チェロ,ヴィオラの順だったと思います。

最初に交響曲第29番が演奏されました。個人的に大好きな作品です。第1楽章の最初から,たっぷりとした豊かさが感じられる演奏でした。広上さんの指揮は,あまり拍を刻むことはなく,常に大らかで太い線を感じさせるものでした。低音が豊かに聞こえたり,大変聞き応えのある音楽になっていました。楽章の後半などでは,対旋律がしっかり聞こえてきて「こういうメロディもあったんだ」という発見もありました。

第2楽章は,弦楽器に弱音器が付けられ,別世界に入った気分になります。弦楽器の中で,オーボエの音が印象的に聞こえてくるのですが,攻撃的でなく,大変まろやかな音をしっかり楽しませてくれました。楽章最後での印象的な「オーボエの一声」の後,霧が晴れるように音楽の気分が変わったのも鮮やかでした。

しっとりとした響きの第3楽章のメヌエットに続き,第1楽章同様,しっかりとしたテンポ感が安定していて気持ちよい第4楽章へ。弦楽器を中心とした生き生きとした表情も印象的でした。

交響曲第29番の演奏では,曲全体に広上さんの持つエネルギーと「しあわせオーラ」が充満していましたが,続く,フルートとハープのための協奏曲では,女性ソリスト2人を加え,冒頭うの1音から,そのオーラがさらに大きく広がっていました。フルートの高木綾子さんと,ハープの吉野直子さんは,2人とも明るい紫系のドレスで揃えており,会場の雰囲気が一気に華やかになりました。

演奏は,遅過ぎることも,速過ぎることもな快適なテンポでした。すっきりとのびやかなフルート,繊細かつ優雅,大らかさとスマートさが同居したようなハープ。古典美の極地のような世界が広がっていました。カデンツァでは,大船に乗ったような包容力のあるハープの響きの上でフルートが大きく羽ばたくような,見事な高揚感がありました。

第2楽章は,たっぷりと夢のような時が静かに流れていきました。「極楽の蓮池の縁をお釈迦様はゆっくりと歩いておりました」(芥川龍之介「蜘蛛の糸」)といった感じでした。最高のコンビによる,平和そのものの世界でした。

第3楽章では,第2楽章の夢のような世界から目が覚めて,生き生きとした現実へ戻るような感覚がありました。エネルギーに満ちた躍動感が洗練された形で盛り上がるようでした。フルートとハープの軽快で清潔な雰囲気が,広上さんの作り出す大らかな空気の中でしっかりと一致した見事の演奏でした。

終演後のサイン会。高木綾子さんには,一ノ瀬トニカさんの作品の入ったOEKのCDにいただきました。高木さんが演奏している録音です。
 



その後,再度邦楽ホールへ。今回のガル祭の注目のアーティストの一人である,ヴァイオリン奏者のライナー・キュッヒルさんが登場しました。
 

H12 14:10〜 石川県立音楽堂邦楽ホール

モーツァルト/ディヴェルティメント ニ長調, K.136
モーツァルト/アダージョとフーガ ハ短調,K.546
レハール/喜歌劇「メリー・ウィドウ」〜行こうマキシムへ
レハール/喜歌劇「メリー・ウィドウ」〜ヴィリアの唄
シュトラウス,J.II/ワルツ「南国のバラ」
シュトラウス,J.II/ワルツ「美しく青きドナウ」

●演奏
ライナー・キュッヒル(ヴァイオリン),OEK弦楽アンサンブル

プログラムは,前半がモーツァルトの作品,後半がウィーンの音楽ということで,今回のテーマどおりの内容でした。前半の編成は,弦楽器のみで,通常のOEKの編成よりも一回り小さくなっていました。ちなみに第1ヴァイオリンでは,キュッヒルさんの隣に,アビゲイル・ヤングさんが座っていました。大変豪華な配置だったと思います。

最初に演奏されたK.136 はすっきりとした疾走感と緊密さのある演奏でした。キュッヒルさんは,指揮らしい動作はしていませんでしたが,「統率されているなぁ」という感覚がしっかりと伝わってくるような演奏でした。

第2楽章も速めの演奏で,メリハリが効いていました。第3楽章も速目のテンポでしたが,演奏全体に安定感ありました。各楽章とも繰り返しをしっかりと行っていましたが,そのこともあるのか,全曲を通じて一本筋が通っているような,統一感を感じさせてくれるような演奏だったと思います。

アダージョとフーガは,モーツァルトのイメージらしからぬ重い曲でした。前に演奏されたディヴェルティメントが天を駆ける感じだとすれば,地を這うような重苦しい雰囲気がありました。

しかし,リズムはしっかりと弾んでおり,弦楽合奏だったこともあり,演奏全体の雰囲気が,どこかモダンで格好良く感じられました。ピアソラのタンゴを演奏しているようにも感じられました。特にダニイル・グリシンさんを中心としたヴィオラ・パートがしっかりと主張しているのが分かり,音楽全体に立体感がありました。

後半は,キュッヒルさんも参加している,「ウィーン・リング・アンサンブル」と全く同じ編成で演奏されました。オリジナルのオーケストラ版での演奏の雰囲気を残しつつも,最小限の編成でウィーンの音楽の気分伝えるようなスタイルで,ガル祭のキャッチフレーズどおり「ウィーンの風」を伝えてくれるような音楽を聴かせてくれました。

編成は,弦楽5部,クラリネット2,フルート1,ホルン1でした。演奏開始前,木管楽器奏者の用のヤマ台が見る見るせり上がりました。こういう動きが見られるのも邦楽ホールならではです。

演奏の方は,前半のモーツァルトの時以上に,リラックスした雰囲気がありました。透明感のある響きの中から,キュッヒルさんの高音がグッと浮かび上がり,ロマンティックなムードが高まる辺りが最高でした。弦楽合奏に,2本のクラリネットの音が絡む辺りが「愛想らし」(金沢弁)かったですね。「メリーウィドウ」の「ヴィリアの歌」などでは,しかりロマンティックに聞かせてくれましたが,甘過ぎないのも良かったですね。

シュトラウスのワルツの方は,ウィーン・フィルの元コンサートマスターのリードによるワルツということで,親しみやすさに加え,品格の高さのようなものを感じました。フル編成のエッセンスをそのまま残し,9人編成に落とし込んだような,言ってみれば非常にCPの高い(?)アレンジでした。例えば,「南国のバラ」の途中で,クラリネットのアルペジオが出てきましたが,こういうツボをしっかり残してくれているのが嬉しかったですね。

「美しく青きドナウ」の方は,弦の刻みの後,ホルンがゆったりと登場...というオリジナルどおりの序奏で始まりました。室内楽編成だと,チェロのソロがしみじみ響いていました。全体に軽快さがあり,サクサクと進むけれども,随所で味わい深いニュアンスを聞かせてくれたのがとても良いと思いました。

その後,再度コンサートホールへ。この日は,両ホールを往復していました。
 

C13 15:30〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1) モーツァルト/セレナード第13番ト長調, K.525「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」
2) モーツァルト/ピアノ協奏曲第22番変ホ長調, K.482

●演奏
リッカルド・ミナーシ指揮ザルツブルク・モーツアルテウム管弦楽団
菊池洋子(ピアノ*2)


まず,おなじみのアイネ・クライネ・ナハトムジークが演奏されました。この曲をオーケストラの演奏で聞くのは,近年は意外に珍しいことです。とても引き締まった演奏でした。

第1楽章は,精気に溢れ,細かいニュアンスの変化が豊かな素晴らしい演奏でした。ミナーシさんの指揮の動作は,とても大きく,どこか井上道義さんを思い出させるところがあるなぁと思いながら聞いていました。瑞々しく新鮮な演奏だったこともあり,第1楽章が終わったところで盛大な拍手。しかもブラボー入り。これには,ミナーシさんびっくりしていました。「拍手は後からね」といった感じの「身ぶり」が入りました。

第2楽章は,軽くしっとり歌われていました。フレージングが短めで,どこかはかなげな雰囲気が漂っていました。最後の方の名残惜しさも印象的でした。透明感のある新鮮なメヌエット楽章の後,繊細な第4楽章に。テンポは速すぎず,カラス細工のようなデリケートさのある音楽を聞かせてくれました。

この曲の後,ピアノのセッティングが行われたのですが,ステージマネージャーさんが登場したところで,会場からは,なぜか盛大な拍手。先ほどの第1楽章の後の拍手同様,演奏会に慣れていない人多い印象がありました。が,これもまたガル祭ならではだと思います。ステマネさんは退場する際に,客席に向かって挨拶をして,再度,盛大な拍手をもらっていましたが,こういうやりとりも粋でした。

ピアノ協奏曲第22番は,金沢ではお馴染みのピアニスト,菊池洋子さんをソリストに加えての演奏でした。第1楽章の冒頭から,堂々とした構えで,たっぷり聞かせてくれました。木管の彩りもとても美しい演奏でした。トランペットはオリジナル楽器のような感じで,全曲を通じてティンパニと共同で祝祭感を付加する役を担当していました。

菊池さんは,白いドレスで登場。ニュアンス豊かな演奏で,かなりテンポを揺らして演奏していましたが,全体を通じてみると,いつもどおりの安定感がありました。余裕があってしっかりとオケと対話をし,柔軟さ深遠さを聞かせてくれました。

第2楽章には,じっくりと静かに夜が更けていくような趣きがありました。「フィガロの結婚」の第4幕あたりの夜のムードと通じる気分があると思いました。ピアノのくぐもったような感じの音が絶妙でした。クラリネット,フルート,ファゴットなども大活躍し(この曲はオーボエ抜きの曲ですね)協奏交響曲のような世界が広がっていました。

第3楽章は,朝のような軽快な気分になります。ここでも木管が雄弁に活躍していました。ピアノの音は,珠を転がすような歌わせ方が絶妙でした。大きな間を取った後,テンポを落として,クラリネットとピアノが対話をするような部分をはじめ,全体的な雰囲気がとても良いと思いました。カデンツアは,ピアニストの技を見せるというよりは,回想シーンのような味わい深さを感じました。

オーケストラ,ピアニストともに,モーツァルトのオーソリティ同志ということで,最高の組み合わせによる,素晴らしい演奏を聴かせてくれました。

本公演1日目の最後は,今回が音楽祭初登場となる,田中泯さんの踊りを加えたモーツァルトの室内楽公演で締めました。
 

H13 16:50〜 石川県立音楽堂邦楽ホール
田中泯、モーツァルトを踊る

1) モーツァルト/弦楽四重奏曲第13番ニ短調, K.
2) モーツァルト/ピアノ四重奏曲第1番ト短調, K.

●演奏
踊り:田中 泯
いしかわミュージック・アカデミー弦楽四重奏団(吉江美桜,島方瞭*1(ヴァイオリン),鈴村大樹(ヴィオラ),水野優也(チェロ)),鶴見 彩(ピアノ*2)

邦楽ホールのステージ奥の部分はかなり起伏のある立体的な台になっていました。この辺の舞台のセッティングは,やはり演劇用ホールならではです。いしかわミュージック・アカデミーで学んだ経験のある若手奏者たちによる弦楽四重奏がステージ中央に配置する中,田中さんがダンス...というよりは,様々な動きを見せてくれました。

田中さんは,とても地味な「作業用つなぎ」のような衣装を着て,帽子(キャップ)をかぶっていました。役者のキャラクターを表現しようというよりは,動きそのものを見せようという意図を感じました。正直なところ,どういう意図で作られた舞踊か分からなかったのですが,音楽にインスパイアされて,それを即興的に動きにしている印象を持ちました。

動作は速くなく,ゆったりとした動きが多かったのですが,まずそのエネルギーに驚きました。田中さんは,かなり高齢のはずですが,姿勢はとてもきれいで,時に優雅に見えたり,時に感情を表現しているように見えたり,狂気を感じさせたり,不思議な説得力を持った舞踊を見せてくれました。

ステージの照明の方も,楽章ごとの曲想に応じて変化していました。ただし色が変化するのではなく,明るさが変わったり,植物をイメージした模様が入ったりといった,比較的地味な変化でした。

前半の弦楽四重奏曲,後半のピアノ四重奏曲第1番はともに短調の作品でした。さらに,両曲間の無音の状態でも田中さんは舞踊を続けていました。これらの曲がどういうプロセスで選ばれたのかも気になるところです。そういう点では,プレトークがあっても良かったかなと思いました。

ガル祭の公式ガイドに書かれていた,田中さんへのインタビューによると,「人間の骨格は変えられません。しかし身体のポジションの取り方で,舞踊は無限に変わっていくんです。多くの人は「私」というものにしがみついてしまいますが,僕はスッとポジションを変えて,全く違う身体になれる。僕は「私」を出したいのではなく,踊りが持っている根源的な可能性の全てを試し,いわば「ダンスそのもの」になりたいんです」とのことでした。

IMA卒業生と鶴見彩さんによる演奏はとても立派な演奏だったと思うのですが,やはり,どうしても田中さんの方が主役になってしまいます。機会があれば,是非,彼らによる室内楽を集中して聞いてみたいものだと思いました。

本公演1日目は,その後,アシュケナージ指揮OEKと人気ピアニストの辻井伸行さんが共演する公演がコンサートホールで行われたのですが,この公演についてはチケットを入手できなかったので,この日はここで帰宅。まだまだ1日目ということで体力を温存しておくことにしました。



交流ホールをのぞき込むたびに,色々な公演を行っていました。音は聞こえませんが,これもまた楽しいですね。