OEKfan > 演奏会レビュー

いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2018 レビュー・トップページ
いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2018
2018年4月29日〜5月5日 石川県立音楽堂,金沢市アートホール,JR金沢駅周辺,金沢市内各地

Review by 管理人hs  

2018年5月5日(土・祝)

本公演3日目。最終日です。張り切って,朝10:00からの公演に行こうと受付に向かったのですが,何とチケットを買い忘れていました。開演5分前だったので,どうしようかな?と迷ったのですが,「まだ間に合いますよ」の言葉に押され,1階の当日券売り場に戻って,をチケットをゲット。ギリギリで開演に間に合いました。こういうことが可能なのも,東京ほどは大規模なイベントではない,金沢だからこそのような気がしました。

ちなみに最終日に撮影した写真ですが...うっかり全部削除してしまったようです。残念。サインの写真だけです。

C31 10:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
1) モーツァルト/ピアノ協奏曲第24番ハ短調, K.491
2) モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」〜楽しい思い出はどこへ
3) モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」〜恋とはどんなものかしら
4) モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」〜もう飛ぶまいぞこの蝶々
5) モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」〜手紙の二重唱
●演奏
リッカルド・ミナーシ指揮ザルツブルク・モーツアルテウム管弦楽団
田島睦子(ピアノ*1),山口安紀子(ソプラノ*2,5)鳥木弥生(アルト*3,5)高橋洋介(バリトン*4)

さて,「朝一」の公演ですが,まず,リッカルド・ミナーシ指揮ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団と金沢在住のピアニスト,田島睦子さんとの共演でピアノ協奏曲第24番が演奏されました。その堂々とした演奏を聞いて,田島さんの実力を再認識できました。田島さんは,明るい緑と青のドレスで登場。まさに「風と緑」のドレスという感じで◎でした。いかにも写真写りがよさそうだなぁと思いながら聞いていました。

上述のとおり,到着がギリギリになったせいでいつもの3階ではなく,中央よる少し後方の1階席で聞くことになりました。お陰でその音響の素晴らしさを認識できました。低音がしっかりと伝わり,各楽器の音が心地よくホールに満ちるのを聞きながら,開演に間に合った安堵感に浸ってしまいした。

すべてが鮮やかに聞こえ,音は宙を飛ぶようでした。ラ・フォル・ジュルネ金沢の時には,各ホールに愛称をつけていましたが,コンサートホールについては,「神に愛されたホール=アマデウス」で決まりですね。

ピアノ協奏曲第24番ですが,まず,オーケストラの音に渋さと同時に底光りするような輝きがあるのが良いと思いました。田島さんのピアノは,しっとり,ねっとりとした感じがありました。田島さんにとっては,今回のステージは大舞台だったと思うのですが,全く動じるところなく,自在にリラックスして演奏しているようでした。カデンツァはベートーヴェンの曲のようで,スケールが大きくのびやかでした。

第2楽章は,ピアノにちょっと粘った感じがあるのが特徴でした。この時期のピアノ協奏曲は,どの曲も木管が活躍しますが,この楽章でも,「木管の花」が次々と咲いていくように,ソリスティックな部分が続き,じわりと幸福感が沸いてくるようでした。

第3楽章もほの暗く美しい演奏でした。ピアノの音には,少し装飾音が入っていましたが,剛毅さもあり,木管とピアノが対話を続けながらも,暗い雰囲気のまま,しかし,伸びやかに全曲が終了しました。田島さんの天衣無縫なキャラクターによく合った曲だと思いました。

後半は3人の歌手との共演で,歌劇「フィガロの結婚」のアリア集となりました。登場下のは,山口安紀子さん,鳥木弥生さん,高橋洋介さんの3人で,司会者として木村綾子さんが登場しました。

山口さんは,とても立派な声だったのですが,伯爵夫人にして若々しいかなと感じました。個人的には「はかなげな人妻(?)」的な感じが好みだったりします。

鳥木さんの歌ったケルビーノも,堂々とした歌い振りで,大人の歌としての落ち着きを感じました。

高橋さんの歌った「もう飛ぶまいぞこの蝶々」は,ガル祭中に聞くのは3回目です。昨日の「魔笛」公演に続いて,申し分のない声を聞かせてくれましたが,良識のあるフィガロといった感じで真面目すぎるかなと感じました。ちなみに,モーツァルテウム管弦楽団のトランペットは,バルブなしでしたので,この曲の後半に出てくるラッパの音は,本物の進軍ラッパのようでとても面白いと思いました。

最後は,スザンナと伯爵夫人による「手紙の歌」で締められました。本来はソプラノ×2の曲なので,少し雰囲気が違う気がしましたが,演奏会全体を美しく締めてくれました。

その後,サイン会へ。登場したばかりのアーティストたちに次々に会えるというのは,この音楽祭ならではですね。今回のオフィシャルガイドブックは完全にサイン帳化してしまいました。
 
 

続いて金沢市アートホールに移動。「日本画とモーツァルトの融合」というタイトルで,日本画を展示する中,フォルテピアノでモーツァルトを演奏するという,今回初めて行う「コラボ企画」でした。この相乗効果はとても面白かったと思います。

A31 11:20〜 金沢市アートホール
日本画とモーツァルトの融合

モーツァルト/ピアノ・ソナタ第2番へ長調, K.280
モーツァルト/幻想曲 ニ短調, K.397
モーツァルト/ロンド ニ長調, K.485
モーツァルト/きらきら星変奏曲, K.265
(アンコール)モーツァルト/トルコ行進曲
●出演
菊池洋子(フォルテピアノ)
日本画家:古澤洋子


まずステージ上には,金沢出身の日本画家,古澤洋子さんの作品が展示されていました。ピアニストの方は菊池洋子さんということで,「ダブル洋子」ということになります。

最初にピアノソナタ第2番が演奏されまた後,潮博恵さんが聞き手となって,二人の洋子さんのお話を交えて演奏会は進みました。

最初に演奏された第2番ですが,菊池さんのお話によると,第2楽章がシチリアーノで古澤さんの絵の船出の雰囲気に合うから,とのことでした。フォルテピアノは,明らかに音量が小さく,菊池さんも少々弾きにくそうなところもありましたが,その軽やかで古雅な響きは,色々なイメージを膨らますのにぴったりだと思いました。

トークの中では,今回の演奏に使われたフォルテピアノについての説明もありました。1784年のモーツァルトが生きていた時代のモデルのレプリカとのことで,音域は4オクターブ程度。ペダルは膝で操作するタイプということで,演奏中,バタバタと音がしていました。

この楽器について,菊池さんは次のとおりとても興味深いことを語っていました。
  • 一つ一つの鍵盤が音色を持っている感じ。音域によって音色が変わる点で人の声と似ている。
  • 鍵盤は軽く,幅も狭いので,コントロールが必要。現代ピアノと違った音楽づくりが必要である
  • 例えば,十六分音符の長さを変えるなど,フレージングの工夫をしている。
  • ただし,考えて演奏するというよりは,楽器が自然に奏法を提案してくれるようなところもある
  • フォルテピアノには,得意な調性(へ・ニ・ハなど)がある。今回もそのことを意識して選曲した

その後,演奏会が進むにつれて,絵が1枚ずつ絵が追加されいき,ステージの雰囲気がだんだんとアーティスティックな気分になっていきました。これは楽しかったですね。

次に演奏されたのは,幻想曲K.397でした。以前から好きな曲だったのですが(グレン・グールドの,夜聞いたらトイレに行けなくなるような演奏を聞いて以来好きな曲です),フォルテピアノの音で聞くと,どこが弦楽器のように響き,とてもはかなげな雰囲気に成ります。後半は長調に転調して,一気に駆け抜けていくのですが,ピアノで聞く時以上に軽やかな浮遊感が感じられる気がしました。

こちらもまた,軽快で快速なロンド に続き,最後は,「きらきら星」変奏曲に。フォルテピアノの音色のことを菊池さんは説明されていましたが,変奏ごとに音色の違いがしっかりと感じられ,控えめだけれどもとても華麗に響く演奏だったと思いました。

終演後はステージの近くまで行って,古澤さんの絵をじっくりと眺めることができたのですが,聴いて良し,観て良しという公演というのはとても良いと思いました。

この日は,古澤洋子さんも来場しており,途中,古澤さんの日本画の製作プロセスについてのお話も伺うことができました。美術作品の多くは,完成した後の姿を観るのが普通なのですが,菊池さんのピアノのCDを聞きながら作品を描いていた,といったお話を聞くと,急に絵画作品についても動的なものに感じられてきました。そして,古澤さんの作品に対する関心もさらに強くなりました。

会場では,古澤洋子さんの画集を販売していたので購入し(500円でした),終演後サインをいただくことができました。
 


一度,この画集を観ながら,菊池さんのCDなどを聴いてみたいと思います。この際,菊池洋子さんのCDのジャケット写真に古澤さんの作品を使うといったコラボがあっても面白いかもしれません。絵と音楽のコラボについては,ガル祭に限らず,定期的に石川県立美術館あたりでやってみても良さそうな気もしました。

その後,コンサートホールに移動。すっかりお馴染みとなって,ヘンリク・シェーファーさんとライナー・キュッヒルさんが共演する公演へ。

C32 12:40〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第5番イ長調,K.219「トルコ風」
2) シューベルト/交響曲第7番ロ短調「未完成」
●演奏
ヘンリク・シェーファー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
ライナー・キュッヒル(ヴァイオリン*1)

最初に,モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番が演奏されました。リーフレット等では,「弾き振り」という形になっていましたが,キュッヒルさんが指揮の動作をするような場面はなく(多分),むしろ,OEKのコンサート・ミストレスのアビゲイル・ヤングさんがリードしていたようにも見えました。キュッヒルさんの存在自体で(ぐっとにらみを効かすという感じでしょうか),演奏が引き締まっていた印象もありました。モーツァルトの場合,「本番では指揮者は不要」といったことを井上道義さんはよく語っていましたが,長年ウィーンフィルのコンサートマスターを務めてきた,キュッヒルさんもこの辺のことはよく分かっているんだなぁという印象を持ちました。

演奏の方ですが,まず,キュッヒルさんのよく通る音色が印象的でした。音程は意外に甘い感じもしましたが,透き通るような,細身の音が凜と響き,曲全体に一本筋が通っている印象を持ちました。

独奏ヴァイオリンがちょっとしたパッセージを弾き始めるアインガンクの部分では,結構即興的に音を加えており,自在さを感じました。カデンツァはちょっとモダンな気分もあり(誰のカデンツァだったのでしょうか?),ハッとさせるような効果を出して居ました。
第2楽章は,やや速めのテンポで演奏されていましたが,浅い雰囲気ではなく,たっぷりと聞かせてくれました。甘い気分はあったけれども,陶酔的にはならず,しっかりと現実を見ているような感じのある演奏だったと思いました。

第3楽章は「トルコ風」になる部分がいちばんの聞きものですが,全体に中庸のテンポであまり熱くなりすぎず,古典的均整のある演奏になっていました。トルコ風の部分では,変わった演出を行うこともありますが,すっきりと「普通のコルレーニョ」で折り目正しく,紳士的にトルコ風の雰囲気を出していました。

後半は,ヘンリク・シェーファー指揮OEKで,シューベルトの「未完成」が演奏されました。第1楽章冒頭の,コントラバスの音から意味深で,ほの暗いけれどもまろやかな世界が広がりました。オーケストラの各楽器の音のブレンドが素晴らしく,堂々たる演奏で,大曲を聞いたような印象が残りました。シェーファーさんとOEKとの相性はとても良いのでは,と思いました。第1楽章の展開部の不気味なゾクゾク感も良かったですね。トロンボーン3本がまとまり良く出てくるのを聞きながら,この部分は「怒りの日」に通じるものがあるのではと感じました。

第2楽章は,中庸のテンポによる,安定した歩みで始まりました。オーボエ,クラリネット,フルートによるフレーズの受け渡しの部分は,いつもどおり素晴らしかったですね。この楽章でも,オーケストラがしっかりと鳴っており,誠実で理にかなった音がの世界が広がっていました。楽章の最後で,ホルンの音が加わって,別世界へと旅立つ感じを聞きながら,「これで完成。何も加えなくても良い」という実感を持ちました。

終演後のサイン会では,持参した弦楽四重奏のCDにサインをいただきました
 

続いて,アグニエシュカ・ドゥチマル指揮アマデウス室内オーケストラの演奏会へ。ライナー・キュッヒルさんに続いて,シン・ヒョンスさんとの共演で,ヴァイオリン協奏曲第3番が演奏されましたが,最後に演奏された,キラールのオラヴァというミニマル音楽風の作品に圧倒されました(モーツァルトの気分が吹っ飛んでしまったところもありましたが)。

H32 14:10〜 石川県立音楽堂邦楽ホール

1) モーツァルト/ディヴェルティメント 変ロ長調, K.137
2) モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第3番ト長調, K.216
3) キラール/オラヴァ
4) (アンコール)ロッシーニ(ドゥチマル編曲)/歌劇「ウィリアム・テル」序曲〜フィナーレ
5) (アンコール)リロイ・アンダーソン/プリンク・プランク・プルンク
●演奏
アグニエシュカ・ドゥチマル指揮アマデウス室内オーケストラ
シン・ヒョンス(ヴァイオリン*2)

最初にディヴェルティメント K.137が演奏されました。これで,K.136〜138のセットを全部聴いたことになります。この曲は楽章を追うごとにテンポが速くなる独特の構成の曲で,前日に続いて,ドゥチマル指揮アマデウス室内オーケストラによる,乱れのないキビキビとした音楽の運びを楽しむことができました。

続いて,シン・ヒョンスさんが登場し,モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番が演奏されました。シンさんは,金沢で毎年8月に行っている「いしかわミュージック・アカデミー(IMA)」に長年参加していた「卒業生」ですのでに,この日の会場の提灯の並ぶ邦楽ホールはきっと思い出深かったと思います。

これまで,このオーケストラは弦楽器だけで演奏してきたのですが,この曲にはホルンとオーボエが加わります。恐らく,今回の公演のためのエキストラだったのではないかと思います。

第1楽章は,速めのテンポで始まった後,シンさんのクリーミーで憂いのヴァイオリンが入ってきました。ちょっとくすんだ感じのある音色による,しっとりとした演奏でしたが,全体的に抑え気味だった印象でした。カデンツァでも,技巧だけではなく,しみじみとした情感を聞かせてくれました,

控えめだけれども,重さと暗さを持った第2楽章でも独特の音が印象的でした。第3楽章も,どこかほの暗く,妖艶な雰囲気がありました。技巧は安定していましたが,もう少しニュアンスの変化が欲しいかなと感じました。

最後に,キラールのオラヴァというミニマル音楽風の作品(OEKも演奏したことあります)が演奏されました。これは,モーツァルトともウィーンとも関係ない曲で,恐らく,この団体の十八番の曲だと思います。単純なリズムの繰り返しが延々と続くような曲なのですが,全く退屈しませんでした。だんだんと音量が増していったり,違う楽器に引き継がれたり,リズムパターンが変わったり...ちょっとミステリアスな気分を持った音楽の波動が豊かに広がり,波のように引いたり寄せたりしていました。

変拍子が出てくるのでバルトークのように感じられるような部分もありました。また,ショスタコーヴィチが21世紀まで生きていたら,こんな感じの曲を書いたかも,と勝手に想像を広げながら聴いていました。この「いかにも難曲」といった感じの作品を,アマデウス室内オーケストラは,平然と演奏していました。最後は「ヘイ」とかけ声が入っておしまい。モーツァルトの気分はは吹っ飛んだのですが,非常に演奏効果のある作品で,エンターテインメントとしても楽しむことができました。

盛大な拍手に応えて,アンコールが2曲演奏された。前日も聞いた,切れ良く快適に飛ばずウィリアム序曲に加え,各種小技満載のリロイ・アンダーソンの「プリンク,プランク,プルンク」。現代曲も色モノ(?)系もできる凄い弦楽オーケストラだということが実感できました。

オラヴァの迫力に吊られて,終演後,この曲の収録されたCDを購入しました。サイン会での物静かで優しげなドゥチマルさんの雰囲気からは,創設50年の迫力と自信のようなものが伝わってきました。


コンサートホールに移動し,リッカルド・ミナーシさん指揮,ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団による公演へ。ミナーシさんの指揮に接するのは,これで最後でしたが,特に金沢ではお馴染みの「ハフナー」交響曲が,OEKファンもびっくり(多分)の目の覚めるような素晴らしい演奏でした。バロックティンパニの強打と豪快なクレッシェンドなど,祝祭的な響きを存分に楽しませてくれました

C33 15:50〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) モーツァルト/交響曲第35番ニ長調, K.385「ハフナー」
2) モーツァルト/クラリネット協奏曲イ長調, K.622
3) (アンコール)プッチーニ/星はきらめき(クラリネット独奏)
●演奏
リッカルド・ミナーシ指揮ザルツブルク・モーツアルテウム管弦楽団*1-3
ヴェンツェル・フックス(クラリネット*2-3)


「ハフナー」の第1楽章,まずは音量が大きいのに驚きました。バロック・ティンパニの響きがダイナミックで,冬の金沢名物の「ブリ起こし」の雷のような豪快さで,祝祭的な気分が一気に盛り上がりました。「ハフナー」の第1楽章では,楽器が一斉に音階を駆け上がるような部分が好きなのですが,この部分も大変鮮やかでした。その一方,全曲を通じてみると,ゆがんだ感じはせず,伸びやかに音楽が流れていたのも素晴らしいと思いました。

第2楽章は,速すぎるぐらいのテンポで,さらさらと流れるアンダンテといった感じでした。装飾音の感じもいつも聴いているのとはちょっと違っていたので,とても新鮮に響きました。

第3楽章は,野趣たっぷりのメヌエットでした。アクセントが強く,念を押すような感じでした。トリオの部分では,しっかりと間をとって,リラックスした優雅な気分を出して居ました。

第4楽章も速いテンポで,強いアタックが印象的で,トランペットやティンパニの強打がここでも華やかでした。速い動きが生き生きと続く演奏を聴きながら,ミナーシさんの指揮には,ラテン系のパッションあるなぁと感じました。

余談ですが,日本でいちばん「ハフナー」(それと古典交響曲)を聞いているのは金沢のお客さんのような気がします。その金沢のお客さんもびっくりの素晴らしい「ハフナー」だったと思います。

後半は,クラリネットのヴェンツェル・フックスさんとの共演による雄弁で美しいクラリネット協奏曲でした。フックスさんは,通常はオーケストラのみの序奏部から参加していましたが,音のバランスを最終チェックしていたのかもしれませんね。余裕たっぷりのステージでした。

第1楽章は速めのテンポによる,あたたかく,まろやかな雰囲気のある演奏でした。フックスさんのクラリネットの音の精妙な美しさは相変わらずでした。基本的にインテンポで進みつつ,時々じっくりとフックスさんの弱音が際立つような演奏でした。

第2楽章は,じっくりと聴かせてくれました。オーケストラもしっかりと共感し,透き通るクラリネットの音がホールの空間に染み渡るようでした。明るいさと悲しさが同居した雰囲気は晩年のモーツァルトならではで,どんどん佳境に入っていきました。フックスさんは,即興的な装飾音を結構入れていましたが,深い世界,あの世に入っていくような趣きのある演奏でした。

第3楽章は闊達な演奏で,天衣無縫な生命力を感じました。少し羽目を外したと思ったら,急に落ち込んだり。だけどすぐに立ち直ったり...。元気のあるオーケストラの演奏と相俟って,歌劇「魔笛」の世界に近いような,表情の豊かさのある演奏だと思いました。

サイン会に参加した後,17:00過に演奏途中でしたが交流ホールで行っていたピアノ・ソナタ全曲演奏シリーズに参入。最後の三曲に間に合いました。



16:00〜 石川県立音楽堂交流ホール
ピアノ・ソナタ全曲 演奏 第3夜

尾田奈々帆さんによるK.545,木米真理恵さんによるK.570,菊池洋子さんによるK.576。今回は最後の3曲しか聞けませんでしたが,連続して聞くとモーツァルトの作曲スタイルの変遷を感じるなど,色々な発見があったようですね。

音楽祭の最後のクロージングコンサートは,コンサートホールでの,レクイエム。昨年のクロージングコンサートは,何となく中途半端な印象が残ったのですが,今年の場合は,大曲1曲。しっかり締めてくれました。

C34 19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール
クロージング・コンサート

モーツァルト/レクイエム ニ短調,K.626

●演奏
ヘンリク・シェーファー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)
マリア・サバスターノ(ソプラノ),武部薫(アルト),高柳圭(テノール),森雅史(バス)
金沢レクイエム合唱団

登場したのは,ヘンリク・シェーファー指揮OEKとオーディション選抜による合唱団でした。全体として,速めのテンポによる引き締まった演奏で,音楽祭のトリを盛り上げようという気分が結晶した,大変ダイナミックレンジの広い熱気のある合唱でした。生き生きとした躍動感を感じました。

最初の曲には,ガル祭の前半からずっと出演している,ソプラノのサバスターノさんが登場。力強く前向きなよく通る声は,ガル祭声楽部門のMVPだったかもしれませんね。合唱も壮麗で躍動感がありました。

「怒りの日」も推進力のあるストレートで,力強い演奏。恐怖感が伝わってきました。「トゥーバ・ミルム」では,各ソリストが活躍。特に艶のあるメゾソプラノの声が良いと思いました。

「コンフターティス」では,力強く,血気盛んな合唱が素晴らしいと思いました。映画「アマデウス」のクライマックスを思わせるような,弱音との対比も印象的でした。

「涙の日」では透明でしっとりとした弦に続き,大きく盛り上がるクレッシェンドが素晴らしかったですね。最後のアーメンも大変しっかりと聞かせてくれました。

後半の曲でも,痛切さや切迫感のある合唱が特に素晴らしいと思いました。独唱者については,宗教音楽として考えると,全体的にもう少し端正さ欲しい気がしましたが,多様な思いが溢れ出るようなところがあり,ガル祭を振り返るには,良いのかなと感じました。

最後は大きな間を取って,長く音を伸ばし,音楽祭全体をしっかりと締めてくれました。

*

今年のガル祭は,体感的には,音楽面・集客面ともに成功だったと思います。特にOEKを含む地元アーティストを多数活用する形は良かったと思います。多くの聴衆を前に,色々な形で存在感をアピールできており,年々レベルが上がっているように感じます。

今後継続していくならば,音楽祭全体のテーマをどうしていくかがポイントでしょうか。現在,特定作曲家の名曲中心路線ですが,作曲家しばり以外のテーマにトライする等,新しい視点も必要な気がします。こういった新しい視点を入れるとなると,やはり新しいプロデューサーが必要が気がします。

いずれにしても関係者の皆様には感謝をしたいと思います。連休期間中の3日間を,石川県立音楽堂中心とした非日常的な時空間に変貌させていることは,本当に素晴らしいことだと思います。