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オーケストラ・アンサンブル金沢 第410回定期公演フィルハーモニー・シリーズ
ニューイヤーコンサート2019
2019年1月12日 (土) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) モーツァルト/交響曲第1番 変ホ長調, K.16
2) モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第4番 ニ長調, K.218
3) シュトラウス,J.U世/歌劇「ジプシー男爵」序曲
4) シュトラウス, ヨーゼフ/ポルカ「休暇旅行で」op.133
5) シュトラウス, J.U世/ポルカ「クラップフェンの森にて」op.336
6) シュトラウス, エドゥアルト/ポルカ「人が笑い生きるところ」op.108
7) シュトラウス, J.U世/ワルツ「愛の歌」op.114
8) シュトラウス, J.T世/ギャロップ「ため息」op.9
9) シュトラウス, J.U世/ポルカ「ハンガリー万歳!」op.332
10) シュトラウス, J.U世/ワルツ「皇帝円舞曲」op.437
11) (アンコール) シュトラウス, J.T世/ラデツキー行進曲

●演奏
オーケストラ・アンサンブル金沢(リーダー:フォルクハルト・シュトイデ)
フォルクハルト・シュトイデ(ヴァイオリン*2)



Review by 管理人hs  

2019年最初のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の演奏会は,恒例のニューイヤーコンサートでした。1年前のちょうど今頃は,50cmぐらいの雪が積もっていたのですが,今年は暖冬傾向ということで,音楽堂まで自転車で往復しました。

登場したのは,ウィーン・フィルのコンサートマスターのフォルクハルト・シュトイデさんで,昨年に続いての「弾き振り」を交えての演奏となりました。プログラムの構成もほぼ同様で,前半は序曲的な曲に続いて,シュトイデさんの独奏による協奏曲。後半はウィーン・フィルのニューイヤーコンサートを彷彿とさせるような,シュトラウス・ファミリーの音楽でした。

前半・後半ともに,派手に聞かせるというよりは,音楽そのものを流れよく,すっきりと聞かせるような演奏で,正月の気分に相応しい,清新さと品の良い華やかさが漂う,素晴らしい雰囲気の公演だったと思います。何より「このパターンが,OEKのニューイヤー・コンサートの定番かも」と思わせるような安定感があるのが良かったですね。

前半の最初のモーツァルトの交響曲第1番は,昨年5月の「楽都音楽祭」の時,アシュケナージさん指揮OEKで聞きましたが,その時よりも音にビシッとした芯があり,聞き応えを感じました。2つの主題のコントラストをしっかり聞かせながら,ストレートに演奏し,モダンで清心さのある気分を感じさせてくれました。

第2楽章は淡々とリズムが繰り返される中,例の「ジュピター」音型が浮かび上がって来ます。モーツァルトの最初の交響曲ということを考えると,妙に神秘的な気分になりますね。第3楽章は,「狩」のムードのある楽章です。シュトイデさんとOEKは,安定感と躍動感が共存した,大人の音楽を聞かせてくれました。

シュトイデさんは,曲が始まる前,通常のコンサートマスターの場合とは違い,文字通り「リーダー」といった感じで先頭に立ってステージに登場し,コンサートマスターの席に着席されました。特に指揮の動作をする場面はなく,その存在感だけで,ビシッと音楽を引き締めていました。

続いて,モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第4番がシュトイデさんの弾き振りで演奏されました。考えてみると,シュトイデさんが立って演奏していたのはこの曲だけでした。

この曲は,色々なメロディが次々湧き上がってくるような名曲ですが,その割りには演奏されることの少ない作品です。シュトイデさんのヴァイオリンの音には,切れ味の良い細身の刀を思わせるような艶ときらめきがありました。速めのテンポですっきりと演奏しつつ,次々と湧き出てくる美しい曲想を鮮やかに聞かせてくれました。

昨年演奏したメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲の時もそうだったのですが,曲の最初の部分では,シュトイデさんに速く走りたそうな感じがあり,段々と合ってくるようなところがありました。その辺に「指揮者なし」の協奏曲ならではのスリリングさがあると思いました。シュトイデさんの独奏に呼応するように,アビゲイル・ヤングさんを中心としたOEKの演奏も自発性に富んでおり,幸福感に溢れた音の世界を楽しむことができました。カデンツァの部分は,十分な華やかさを聞かせつつも,張り切りすぎない落ち着きを感じさせてくれました。

第2楽章は,時折,軽妙さを聞かせつつ,じっくり・しっかりと歌われていました。ベトついた感じにならず,垢抜けた感じがするのが素晴らしいと思いました。

第3楽章もくっきりと演奏されていました。上機嫌な鼻歌のような感じで始まった後,途中でギアを切り替えるように,テンポ感が変わるのが面白い楽章です。シュトイデさんの技巧は見事でしたが,見せびらかすような感じにはならず,どこか粋な感じがするのが良いと思いました。曲の最後は,フッと止まるように終わるのですが,年を取るにつれて(?),こういう感じの終わり方も良いなぁと感じるようになってきました。幸福感の余韻のようなものが曲の後にしっかりと残りました。

後半は,お待ちかねのシュトラウス・ファミリーの音楽でした。こちらも昨年と同様で最初にオペレッタの序曲,最後に「皇帝円舞曲」と規模の大きめの曲を配し,その間にポルカ,ギャロップ,軽めのワルツなどが並ぶという構成でした。前半同様,シュトイデさんの作る音楽には,「無理矢理」感がなく,どの曲も大変気持ちよく,流れの良い音楽を楽しむことができました。

「ジプシー男爵」序曲は,「こうもり」序曲に比べると演奏される機会は劣りますが,この日の演奏を聞いて,要所要所で,木管楽器が次々と活躍するのが楽しい曲だなぁと実感しました。ちょっとほの暗いけれども,透明感のある弦楽器による序奏に続き,まず遠藤さんのクラリネットのソロ。ハンガリーだなぁと実感した後,今度はフルートの松木さんのソロ。パッと華やかさが加わった後,オーボエの加納さんがのんびりとした感じのメロディを演奏。OEKファンにとっては,序曲を聞くだけで,「役者が次々登場してくるなぁ」といった楽しさを味わうことができました。曲の後半は,シュトラウスらしいワルツになった後,エキゾティックな気分も加わって,ダイナミックに終了。後半の幕開けにぴったりの演奏でした。

「休暇旅行で」は,「速いポルカ」です。トランペットの藤井さんのマイルドな音を皮切りに,リラックスしたスピード感を心地良く楽しめました。中間部では,ファゴットの音がよく効いているなぁと思いました。

ニューイヤーコンサートでは,途中,お客さんを楽しませるためのパフォーマンスが入るのが「お約束」です。そして今年もまたMVPは,打楽器奏者のグンナー・フラスさんでした。1年前の「鍛冶屋のポルカ」に続き,今年は「クラップフェンの森で」で名役者ぶりを見せてくれました。

グンナーさんは,協奏曲の独奏者のような感じで,巨大かつシンプルな楽譜を手にしてステージ中央に登場。この曲では,何回かカッコウの鳴き声を模した音が出てくるのですが,その音をハンディな「ふいご」のような楽器で出していました。グンナーさんは,ご丁寧にもシュトイデさんの方に向かって,丁寧にチューニング。チューニングのしようのない楽器でチューニング(のふり)をする辺り,じわじわと可笑しさが湧いてきました。

演奏が始まると「ふいご」を手にして,客席に降りていき,お客さんとやりとり。演奏はさらにリラックスした雰囲気になりました。中間部では「ふいご(何という名前の楽器なのでしょうか?)」に加えて,鳥の鳴き声の水笛も演奏。演奏後は盛大な拍手を受けていました。

続くポルカ「人が笑い生きるところ」は,エドゥアルト・シュトラウスの作品。朗らかさと勇ましさが共存する親しみやすい作品でした。ワルツ「愛の歌」は,ヨハン・シュトラウスII世の初期の作品で,後年の豪華な感じのワルツに比べると,どこか控えめな感じがあるのが面白いと思いました。

ギャロップ「ため息」は,どこかブツブツとつぶやくようなちょっと不思議な雰囲気で始まった後,音楽が急に止まって,OEKメンバーが大きな声で「ため息」。バロック音楽や古典派の音楽などでは,「ため息」音型という下降するモチーフが出てくることがありますが,それと同様の下向音型でした。この「ため息」を聞きながら...植木等の歌う「これが男の生きる道」などを思い浮かべたのは...多分私ぐらいでしょう。

「ハンガリー万歳」はキレの良いスピード感のある演奏。タンバリンがバシッと入ったり,ピッコロがピリっと入ったり。最後はOEKメンバーのかけ声入りで,威勢良く締めてくれました。

演奏会の最後は,タイトルからして,シュトラウスのワルツの中でも,特に立派な雰囲気のある皇帝円舞曲でした。シャキッとした行進曲調で始まった後,チェロ(おなじみカンタさんでした)のソロ。その後,ゴージャスに盛り上がり,大らかさのあるワルツになってくる辺りが「たまらない」作品です。その後,シュトイデさんのリードで,品良く流れの良い音楽が続きました。曲の最後の部分,再度チェロのソロが入り,OEKならではの室内楽的な雰囲気になった後,大きく盛り上がって終了。この曲は演奏会のトリにぴったりだと思いました。

アンコールは,お約束どおりの手拍子入りの「ラデツキー行進曲」でした。手拍子しやすい緩めのテンポで,あまりビシビシと仕切らない,のどかな雰囲気が良かったですね。

終演後は,OEKメンバーが音楽堂の入口付近で,恒例の茶菓工房たろう特製のOEKどら焼きを配布していました。こちらの方も「これがないと新年になった気がしない」というぐらい定着しましたね。
 

 

この公演については,毎年,ステージの前方に花が飾られ,音楽堂の職員の皆さんも正装で登場するなど,会場の雰囲気も通常の定期公演と一味違った華やかな感じになります。今回はさらに「和装で来場いただいたお客様には、音楽堂マネー2000円分を進呈!」ということで,例年以上に和服の方が多かった印象です。終演後は、ステージ付近で写真撮影をされている方もいらっしゃいました。


というわけで,華やか,かつ穏やかな気分で新年気分の最後を味わうことのできた演奏会でした。
 
PS. この日のプレコンサートは,アビゲイル・ヤングさんを中心とした弦楽メンバーによる,メンデルスゾーンの弦楽五重奏曲の第1楽章でした。初めて聞く曲でしたが,弦楽八重奏曲を思わせるような熱い迫力のある演奏で,聞き応え十分でした。是非,一度全曲を聞いてみたい曲です。以下の写真のとおり,大盛況でした。

    

(2019/01/17)




公演の立看板


音楽堂入口には,こんな感じで門松が出ていました。


OEKメンバーのサイン入り看板もすっかり恒例ですね。

北陸朝日放送がテレビ収録をしていました。

終演後,シュトイデさんのサイン会がありました。

シュトイデさんによる,シューマンのヴァイオリン・ソナタ集のCDにサインをいただきました。


音楽堂の隣のANAホテルでは,市内の米丸校下の「成人式」をやっていました(この校下という言葉は石川県の方言のようです)。