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石川県立音楽堂室内楽シリーズVol.4:チェロ・アンサンブル・スペシャル
2019年1月29日(火)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホールル

グリーグ(トーマス=ミフネ編曲)/組曲「ホルベアの時代から」(6本のチェロのための),op.40
シュトラウス,J.II(トーマス=ミフネ編曲)/喜歌劇「こうもり」序曲(6本のチェロのための)
ビゼー(トーマス=ミフネ編曲)/カルメン幻想曲(6本のチェロのための)
バンディング/ベートーヴェンの主題による6本のチェロのためのフーガ
ポッパー/6本のチェロのためのレクイエム
ヴィラ=ロボス(大澤明編曲)/ブラジル風バッハ第1番
(アンコール)バッハ,J.S./G線上のアリア

●演奏
I Cellisti di Kanazawa(ルドヴィート・カンタ,大澤明,早川寛,ソンジュン・キム),福野桂子,佐古健一(以上チェロ)



Review by 管理人hs  

この日は,今年度第4回目の石川県立音楽堂室内楽シリーズとして行われた「チェロ・アンサンブル・スペシャル」を聞いてきました。登場したのは,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のチェロ・セクションの大澤明さん,早川寛さん,ソンジュン・キムさん。名誉団員のルドヴィート・カンタさん。さらに福野桂子さん,佐古健一さんを加えた6人のチェリストでした。グループ名としては,I Cellisti di Kanazawaということになります。「金沢のいいチェリストたち」といったところですね。

# チラシをよくよく見ると,OEK関係の4人が「I Cellisti...」で,その他のお2人はゲストという形になっていました。

数年前,OEKメンバー4人によるアンサンブルを聞いたことはありますが,今回は6名編成ということで,より充実感のある響きを楽しむことができた気がします。6人のうち,カンタさんだけは常に最高音を担当し,それ以外のメンバーは曲によって低音部に移ったり,中音部に移ったり,「席替え」をしていました。

前半はグリーグの「ホルベアの時代から」,ヨハン・シュトラウスの「こうもり」序曲,ビゼーの「カルメン幻想曲」ということで,もともとはチェロ・アンサンブル用ではない曲が演奏されました。

最初に演奏された「ホルベアの時代から」は弦楽合奏でお馴染みの曲ですが,第1曲「前奏曲」から,テンポはかなり遅めで,予想していた雰囲気とかなり違いました。個人的には,もっと元気な感じが好みなので,ちょっと違和感を感じたのですが,その後に続く楽章でのゆったりとまどろむような感じはチェロの音にぴったりだと思いました。第4曲「アリア」での少し内向的な気分のある甘さも魅力的でした。

「こうもり」序曲も編曲版ということで,一つのメロディを複数で分担して演奏したり,時には伴奏になったり,時には主役になったり...「6人が分担して取り組んでいるなぁ」と感じさせてくれるようなアレンジでした。テンポアップするコーダの部分など,演奏がかなり大変そうでしたが,オリジナルどおりの楽しさに溢れた演奏でした。

ちなみに,プログラムの前半の曲は,すべてウェルナー・トーマス・ミフネさんの編曲によるものでした。この方のお名前は,チェリストとして聞いたことがありますが,チェロ・アンサンブル用のアレンジャーとしても活躍されていることを知りました。

前半最後は,カルメン幻想曲でした。この曲を聞きながら,やはりテノールの音域がいちばんチェロらしい美しさがあるなぁと感じました。最後が「ジプシーの踊り」というのは,ヴァイオリン版のカルメン幻想曲と同様でした。ただし,今回の場合,あまりテンポアップせず,すぐにエンディングになっていました。この辺が少々物足りないかなと感じました。

前半の3曲は,親しみやすい名曲ばかりだったこともあり,チェロだけでどれだけにオリジナルに迫れるかという面白さを感じました。改めて,チェロという楽器の広い音域と表現力の多彩さを実感できました。ただし,演奏の充実感としては,もともとチェロ・アンサンブルのための曲である後半の3曲の方があったと思いました。

後半最初は,バンディング作曲の「ベートーヴェンの主題による6本のチェロのためのフーガ」が演奏されました。この曲は,ベートーヴェンのチェロ・ソナタ第3番の冒頭部の主題を基にしたフーガで,じっくりと音が組み合いながら進んでいきました。まず,いかにもチェロらしい主題自体が美しいのですが,それがどんどん変奏されていき,時には別の時代に行ってしまうような感じになるのが面白かったですね(作曲者のバンディングは,20世紀の作曲家です)。最後の部分での輝かしさも印象的でした。

ポッパーのレクイエムは,レクイエムというタイトルから想像するほどには暗い作品ではなく,演奏時間的にも,むしろ「アヴェ・マリア」といった趣きのある癒やし系の気分が溢れていました(心なしか,「アヴェ・マリア」という歌詞がぴったりはまりそうなメロディに思えました)。大澤さんによるプログラム解説によると,この曲については,「OEKにゆかりのある,上石薫(OEKの元フルート奏者)さんとオリバー・ナッセン(作曲家)に捧げる」とのことでした。痛切さよりも優しい気分が感じられ,ホール全体にしみじみとした情感が染み渡るような充実感がありました。

最後に演奏された,ヴィラ=ローボスのブラジル風バッハ第1番は,今回演奏された曲の中でも特に聞き応えがありました。もともとは8本のチェロのための作品なのですが,大澤さんが,6本用にアレンジしたものです(演奏前にその辺の説明をされていたのですが,声がよく聞こえず残念でした)。

3つの楽章からなる曲で,それぞれラテン的なリズムや気分を感じさせつつ,ストレートに曲の美しさが伝わってくるような演奏でした。演奏を通して,ところどころ,ユニゾンのような感じで美しい歌が聞こえてくるのが新鮮でした。若々しいエネルギーのようなものが伝わってきました。

第2楽章では,高音部を担当していたカンタさんによる美しいソロが耳にしみました。最後の楽章はフーガでしたが,どこか軽妙で粋な雰囲気もあり(そこがブラジル風なのかも),最後は不思議な壮麗さの中で締められました。

アンコールでは,「本家」バッハのG線上のアリアが演奏されました。並べて聞くと,ヴィラ=ローボスとの対比がとても面白く感じられました。こちらも大変美しい演奏でした。

恐らく,オーケストラのパートの中で,同一楽器だけでオーケストラ的な響きを作ることができるのはチェロ・パートだけだと思います。その面白さと充実感を実感できた公演でした。

(2019/02/02)




公演の立看板

公演のポスター