OEKfan > 演奏会レビュー
小松シティ・フィルハーモニック第20回定期演奏会
2019年2月3日(日)14:00〜 こまつ芸術劇場うらら大ホール

1) シュトラウス,J.II/祝典行進曲, op.452
2) チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番変ロ短調, op.23
3) (アンコール)ショパン/ノクターン第20番嬰ハ短調遺作
4) ベルリオーズ/幻想交響曲, op.14
5) (アンコール)ベルリオーズ/幻想交響曲, op.14〜第2楽章

●演奏
野村幸夫指揮小松シティ・フィルハーモニック*1-2,4-5,鶴見彩(ピアノ*2-3)



Review by 管理人hs  

この日の午後,石川県立音楽堂コンサートホールでは,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のファンタスティック・オーケストラ・コンサートで,「殺陣」とオーケストラが共演する大変興味深い企画の演奏会が行われたのですが...小松シティ・フィルハーモニックの第20回定期演奏会が行われるということで,こちらの方を聞いてきました。OEKファンとしては申し訳なかったのですが,幻想交響曲とチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を聞けるという選曲の魅力に負けてしまいました。

特に幻想交響曲の方は,OEKの編成で演奏するのは難しい曲であることに加え,独特の楽器編成なので,実演で「見て・聞いて楽しい」曲の代表作です。今回の演奏も,全般にじっくりとしたテンポで,オーケストラをしっかりと鳴らした演奏で,気持ちよくこの曲を魅力を味わうことができました。

前半まず,ヨハン・シュトラウス2世の祝典行進曲が,「これぞドイツの行進曲」というオーソドックスな感じで演奏されました。行進するのに丁度よいテンポ感で,サウンドもバランス良く整っているのが良いと思いました。

続いて,金沢出身のピアニスト・鶴見彩さんのピアノを加えて,チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番が演奏されました。昨年の6月,同じホールで平野加奈さんと川瀬賢太郎さん指揮OEKの演奏で同じ曲を聞いたばかりですが,今回の鶴見さんの演奏も見事でした。

第1楽章冒頭の有名な序奏部は,ホルンの力強い音がバシッと決まった後,ゆったりと流れるようなテンポ感で始まりました。鶴見さんのピアノは,十分に華麗でありながら,かっちりとまとまっていました。テンポの速くなる主部では,少々弾きにくそうに感じられる部分もありましたが,所々で出てくるオクターブのパッセージが連続する部分など,決め所での力強さが印象的でした。

第2楽章は,最初に出てくるフルートのソロがソリスティックに鮮やかに演奏され,見事でした。メンバー表を見ると,「楽都」音楽祭などでも活躍されている,金沢出身のフルート奏者・多田由美子さんが担当ということで,「さすが」と思いました。途中出てくる,チェロのソロにも透明感があり,印象的でした。楽章最後は,落ち着いた気分で静かに締められました。

第3楽章は野性味のあるオーケストラの音で始まりました。鶴見さんのピアノは,パーフェクトではなかったと思いますが,クライマックスに向かって,ストレートに前進する感じが気持ち良かったですね。オーケストラの音がじわじわと盛り上がった頂点で,ティンパニがバンと入り,ピアノが迫力たっぷりに技を聞かせる部分が大好きなのですが,今回の演奏は,そのイメージどおりの演奏でした。

その後は,オーケストラとピアノのテンポを合わせるのが難しい部分だと思います。ピアノとオーケストラがしっかり主張し合いながら,テンポを合わせる辺りがスリリングで,迫力十分のライブならではの緊迫感のある音楽を聞かせてくれました。最後の部分での上向していくピアノのパッセージの迫力も十分でした。「さすが,鶴見さん」という演奏だったと思います。

演奏後,「素敵やったねぇ」と感想を話し合っている奥様方がいらっしゃいましたが,会場が大いに盛り上がった演奏でした。

アンコールで演奏されたショパンの遺作のノクターンは,「大曲の後で,鶴見さんもお客さんもすっかり夢見心地」といった感じの,別世界に遊ぶような演奏でした。

後半では,お待ちかねのベルリオーズの幻想交響曲が演奏されました。ハープ2台,ファゴット4本,テューバ2本,ティンパニ2台,打楽器各種...という増強された編成でしたので,ステージ上はギッシリという感じでした。

↑この写真は...開演前の写真だったかもしれません。

第1楽章の最初の部分は,「夢の始まり」を印象づけるフルートに続いて,じっくりと弦楽器が登場。その表情豊かな演奏が見事でした。この辺で活躍するホルンについては,弱音で演奏するのが難しそうだなぁと思いました。「うらら」は楽器の音が特にクリアに聞こえてくるホールなので,特に管楽器奏者には怖いホールかもしれません。

演奏全体として,無理のないテンポ設定で,オーケストラの各楽器の音が一体になってひとつの有機体を作ろうとしているような充実感を感じました。長年このオーケストラを指導されている野村さんとの結びつきの強さを実感しました。コーダ付近での,壮麗でキラキラした感じは,フランスの交響曲ならではでした。

第2楽章は,まずハープ2台が入るのが「見所・聞き所」です。今回はこちらも金沢を中心に活躍されている,稗島律子さんと平尾祐紀子さんが参加しており,見事な「掛け合い」を聞かせてくれました。優雅に踊れるようなテンポで丁寧に演奏されていました。

今回の演奏では,トランペット(コルネットでしょうか?)が華やかにオブリガードのメロディを演奏する版で演奏していたのも特徴的でした。目立ちすぎないけれども,しっかりと演奏しており,個人的に「ブラーヴォ」と思って聞いていました。クラリネットによる「固定楽想」もじっくりと演奏されおり,大変存在感がありました。

第3楽章は,CDだと長く感じることもありますが,実演だと「とても面白いシアターピース」になります。まず,この楽章の「肝」であるコールアングレの音がくっきりと聞こえてきたのが素晴らしいと思いました。それに応える「舞台裏のオーボエ」の遠近感の効果も面白いかったですね。よくよく見ると,舞台上手のコントラバスの辺りにバックステージ用カメラがセットされていました。その他の楽器にも,「意味深なムード」や「深い思い」がこもっていました。とても美しい演奏だったと思います。

楽章後半では,「舞台裏オーボエ」の回答がなくなってしまい,代わりに「4人で叩くティンパニ」が出てきます。この辺の「ちょっとホラーのような感じ」も実は好きだったりします。

第4楽章以降は,満を持して待っていた金管楽器群が大活躍という感じでした。この日の4楽章の演奏を聞きながら,「ファゴット4本,テューバ2本の効果が出てるなぁ」と思いました。妙に生々しく,通常とは違ったグロテスクさのようなものを感じました。その後出てくる,トランペット4本を始めとした明るい響きとのコントラストが素晴らしいと思いました。考えてみると,小松市の高校の吹奏楽部は大変レベルの高いバンドばかり。その伝統もあるのかなと思いました。ティンパニも活躍する楽章ですが,「音階のようになる部分」が聞き取りにくかったのが少々残念でした。楽章最後の「断頭台で処刑」の部分には,非常に厳格な気分があり,身が引き締まる感じでした。

第5楽章も聞き所満載ですね。フルートとピッコロが音を滑らせたり,小型のEsクラリネットが活躍したり(この音を聞くとゾクゾクしますね。ガンバレーという感じで聞いていました),ベルリオーズの本領発揮という楽章です。注目の「舞台裏の鐘」は,かなり明るめの音でハッとさせてくれました。「怒りの日」の部分では,第4楽章同様,低音楽器の威力がしっかり発揮されていました。

この楽章も堂々としたテンポでしたので,終結部は大変壮麗でした。オーケストラが全開になる開放感が素晴らしかったですね。上述のとおり,各パートの音がしっかりと聞き分けられるので,各楽器の音の動きが非常に明快に感じられ,聞き応え十分でした。大太鼓2台を中心に「打楽器乱れ打ち」みたくなるのは見ていても実に格好良かったと思います。

この曲の場合,上記のとおり独特の編成なのですが,この日の演奏は,そういった楽器の効果をはっきりと聞き取ることがでる演奏でした。この曲が石川県内で実演で演奏されるときは,ほとんど毎回聞きに行っているのですが,本当に楽しめる曲だなぁと再認識できました。

アンコールでは,「せっかくハープが2台あるので」ということで,第2楽章が再度演奏されました。調べてみると,今年はベルリオーズ没後150年の年。今年は,全国的に幻想交響曲が演奏される機会が多いのかもしれませんね。そのスタートに相応しい演奏会だったと思います。

(2019/02/09)




公演のチラシ


この日はJR小松駅の「ホールと反対側」の駐車場に留めました。


JR小松駅前の「勧進帳」の像。よく見ると義経はいないですね。


うららの外観


小松に来ると,白山方面を眺めたくなります。白い山並みが見えていました。