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グルメ・クラシックス:寒ブリコンサートin宇奈月国際ホテル
2019年2月9日(土) 15:00〜 宇奈月国際ホテル

1) ショパン/ノクターン第8番変ニ長調,op.27-2
2) ショパン/スケツォ第2番変ロ短調, op.31
3) バッハ,J.S./無伴奏チェロ組曲第2番ニ短調, BVW.1008
4) シューベルト/アルペジョーネ・ソナタ イ短調, D.821
5) ショパン/序奏と華麗なるポロネーズ ハ長調, op.3
6)(アンコール) サン=サーンス/白鳥
7)(アンコール) ラフマニノフ/ヴォカリーズ
8)(アンコール) モンティ/チャールダーシュ

●演奏
ルドヴィート・カンタ(チェロ*3-8),高橋多佳子(ピアノ*1-2,4-8)1



Review by 管理人hs  

日本海で獲れる寒ブリの美味しい季節に毎年,宇奈月温泉で行われているグルメ・クラシックス「寒ブリコンサート」に参加してきました。もともとは,私の母親が友人と参加する予定だったのですが,行けなくなってしまい,「それでは私が...」ということで代わりに参加してきました。



このグルメクラシックスのコンセプトは,(1)一流の音楽,(2)一流の料理,(3)一流の温泉の3要素を一泊二日で濃密に楽しんでしまおうというものです。料金の方もディナーショー並みに高額なのですが,上記3要素を兼ね備えていることを考えれば,「リーズナブル」と言えると思います。それと,私にとっては「たまには親孝行でも...」という気持ちもありました。

というわけで,お湯に浸かるように,どっぷりとこのコンセプトに浸かってきました。個人的にはあれこれ想定外の出来事が多く,別の意味で「思い出」が沢山できてしまったのですが,「音楽,料理,温泉を一気に楽しめるのは...最高。年1回ぐらい良いかな」と改めて思いました。

それでは,いつものレビューとは少し趣きを変え,タイムラインに沿って,写真を交えて紹介しましょう。

2月9日(土)12:15 JR金沢駅西口。宇奈月国際ホテルの送迎の車でスタート。


ホテルに到着。部屋に入ると...分不相応(?)に立派な和室。この部屋で執筆活動でもしたくなるような雰囲気がありました。窓の方に行くと...雪景色の山が広がっていました。オーシェン・ビューならぬ,マウンテン・ビューでした。


まずは部屋に置いてあった,甘いお菓子とお茶で一服。「チコちゃん」の説によると,甘いものを温泉に入る前に食べると血糖値が上がるので体に良いとのこと(家族が語っていました)。
 

部屋に荷物を置いた後,「寒ブリコンサート」へ。ホテルのロビーのあるフロアの奥まった場所で行われました。



主催者の方のご挨拶では,「足元の”良い”中」とのことです。宇奈月には金沢よりは沢山雪が積もっていたのですが,大雪だった,昨年に比べれば「大したことない」とのことです。昨年はどれくらい積もっていたのか気になるところです。

このグルメクラシックスのですが,今回で5回目となります。1回目から高橋多佳子さんは出演しており,2回目からカンタさん&高橋さんという形になっています。高橋さんのお話によると,毎年,寒ブリの美味しい時期に行っていることもあり,チラシの方は「だんだんブリの写真が大きくなっている」とのことです(右の写真参照。確かにカンタさんや高橋さんよりも,ブリの方が大きいかも)。

さて,コンサートの内容ですが...充実の内容でした。通常のコンサートホールで行われる内容と変わらない,むしろそれ以上に本格的な内容でした。プログラムは2部構成になっており,前半は,高橋さんとカンタさんがそれぞれ独奏。後半は2人のデュオという形でした。

前半,まず高橋さんが盛大な拍手に迎えられて登場。実は,高橋さんは数日前に足を捻挫されたそうで,大変ゆっくりした足取りで登場されました。そのこともあり,大変長く,暖かい拍手になりました。

高橋さんが演奏したのは,ショパンのノクターンとスケルツォ。この日のピアノは,日常的に演奏会用に使われているものではなかったのですが,第1線で活躍するプロのピアニストの磨かれたタッチと音を至近距離で味わうことができたことに,まず感動しました。聞いているうちに,しっかりとした「形」が見えてくるような存在感を感じました。そして,音のコントロールが素晴らしいと思いました。特に弱音の美しさと,グラデーションの繊細さが素晴らしいと思いました。



ノクターンは,変ニ長調ということで明るい希望のようなものを感じました。高橋さんは演奏後,「ショパンの音楽には,思いをグッと伝えるような部分がある」と語っていました。この曲からは,前向きに生きよういうエネルギーのようなものを感じました。

スケルツォの方は,有名な第2番が演奏されました。ピアノの音については,通常のコンサート用のピアノに比べるとややこもった感じに聞こえたのすが,強い音を出す部分での切れの良さが凄いと思いました。ダイナミックさと精妙さの交錯,詩的な部分と活動的な部分の交錯。色々な要素がしっかり絡み合った,素晴らしい演奏だと思いました。

続いて「役者」が代わり,オーケストラ・アンサンブル金沢の名誉団員でもある,チェロ奏者のルドヴィート・カンタさんが登場しました。今回演奏した曲は,バッハの無伴奏チェロ組曲の中の第2番でした。親しみやすさを考えると,「第1番」辺りを選ぶのが普通だと思いますが,恐らく,この演奏会については「リピーター」が多いのだと思います。無伴奏組曲6曲の中でも,かなり地味目の作品だけれども,味わい深さのある第2番が演奏されました。

あとで「なぜ2番?」か考えてみたのですが...「2月なので2番?」「順番に演奏している?」etc 色々浮かびましたが...カンタさんに機会があればお尋ねしたいものです。

間近で聞くカンタさんの音にも,高橋さん同様,生々しい迫力がありました。つぶやくような冒頭部は,とっつきにくい感じはありましたが,段々と親しみやすさが増していくような不思議な魅力がありました。カンタさんの音には,時々,「ノイズ」がありましたが,それが「枯れた味」や「せつなさ」として感じられました。

いくつかの舞曲から成っていますが,特にサラバンドでのさらっとした味が良いな,と思いました。ホテルのロビーからは,雪が積もった樹木が見えましたが,その光景にインスパイアされたかのように,少しカスレのある水墨画を見るような味がありました。


メヌエットの中間分での「軽み」,最後のジーグでの無骨さ,などベテランの域に達したカンタさんならではの味わい深さのある演奏でした。

ここで10分ほど休憩が入った後,お二人の重奏による後半が始まりました。後半の方は,二人の相乗効果による熱さが加わり,どんどん気分が高まっているような華やかさを感じました。

まず,カンタさんのトークで「アルペジョーネ」という「幻の楽器」についての説明があった後(カンタさんの説明によると,「まだ色々な形で生きている楽器」とのことでした),シューベルトのアルペジョーネ・ソナタが演奏されました。今回,事前にプログラムが発表されていなかったので,「福袋」的な楽しみがあったのですが,大好きなこの曲が入っており,「縁起が良い」」と思いました。

シューベルトならではの美しいメロディにあふれた名曲です,第1楽章の冒頭から,じっくり,しっとりとした「カンタ節(=「カンタービレ」と呼びたいですね)」が息長〜く切々と続きました。輝きのある高音とハートウォーミングな雰囲気が特に魅力的でした。

第2楽章も息の長い歌が続き,心地良い温度の温泉に浸かっているような「幸福感」を感じました。第3楽章へはスムーズに移行。時々,ほの暗く,ちょっとエキゾティックな感じになるのもシューベルトらしいところです。カンタさんと高橋さんによる「音による語らい」の中から,次々と自然な歌が湧き上がり,最後はしっとりと締めてくれました。

この曲が演奏会の最後でも良いかなと思ったのですが,続く,ショパンの序奏と華麗なるポロネーズは,それ以上にトリにぴったりの作品であり演奏でした。カンタさんの説明によると,チェロにとっては「暇」な部分が多い曲だったので,往年の名チェリストのレナード・ローズが「ピアノからメロディを盗んで」,「大変な曲」に編曲した。今回はその版で演奏する,とのことでした。

カンタさんが語ったとおり,チェロにとっても,ピアノにとっても華麗さのある作品になっており,聞き応え十分でした。カンタさんの音は,演奏が進むにつれて,どんどん脂が乗ってきたような感じがしました。この作品を英語で言うと,「ポロネーズ・プリランテ」ということになりますが,「カンタさんによるブリランテ」と言うことで,まさに脂の乗った「寒ブリ」ということになります。演奏を聞きながら,「この曲は,寒ブリコンサートのテーマ曲にピッタリでは?」と思いました。高橋さんの演奏も「キラキラ&キトキト(富山弁)」で,今回の贅沢なプログラムの締めにぴったりの演奏を楽しませてくれました。

その後,カンタさんと高橋さんにプレゼントの贈呈。カンタさんには,能登のお酒・宗玄がプレゼントされていました。私もこのブランドが好きなので,嬉しくなりました。

このプレゼントに応えて,アンコール・タイムになりました。こちらもまた,「福袋」のような感じで,お楽しみの曲が次々出てくる感じでした。高橋さんによると,「拍手が続く限り演奏します」ということで,カンタさんのお得意のアンコールの定番曲が3曲も演奏されました。

静か〜で優雅な「白鳥」(オリジナルはピアノ2台なので「キラッ」という音が入らなかったのがちょっと寂しかったですね),人の声のように聞こえ,しっかりと歌われた「ヴォカリーズ」,余裕たっぷりに盛り上がるチャールダーシュ。曲名の説明なしでも分かるお馴染みの曲がリラックスした雰囲気で演奏され,華やいだ気分の中で演奏会は締めくくられました。

この日の公演はKNB(北日本放送)が撮影をしているようでした。そのせいか,しっかりライトアップをしていました。演奏後は,ロビーの売店を眺めてみました。日本酒も色々売っていました...が,何も買わず。
 

演奏会の後,夕食までに時間があったので,温泉に入ってきました。浴室にもクラシック音楽(ベートーヴェンやモーツァルトのピアノ曲が流れていました)が流れており,夢見心地になってしまいました。


ここで,わが家の方で,「想定外」のことがあり,「どうなることか」と思ったのですが,何とか夕食に間に合いました。夕食の方は,「寒ブリ」コンサートを受けるのに十分の充実した内容でした。

いちばんの「売り」である寒ブリの刺身を中心に沢山の料理を堪能しました。

寒ブリの刺身は「バイキング」のような感じになっていました。


ブリ大根あり,肉あり,タラバガニあり...ということで満腹でした。




今回の企画は,「カンタさんを囲む会」「高橋多佳子さんのピアノとトークを楽しむ会」の共催ということで,この夕食の方も,「昭和の香りの残る町内会の懇親会」的な雰囲気もありましたが,それが2人を強く支えるエネルギーになっていると思いました。最後の方で「お楽しみ抽選会」もありましたが...残念ながらハズレでした。



夕食後,20:30から,10分程度,花火の打ち上げを行っていました。連日この時間帯に行っているとのことですが...こちらもまた本格的な内容。ご近所の方々とベランダに出て,眺めました。




その後,一日の「締め」に再度浴室へ。無事一日目が終了しました。



翌朝の朝食ですが.,ここでもまた「想定外」のこと(寝坊+α)が起こり,何と...食べられませんでした。これは残念だったのですが,結果的に,それを補うような形で良いことがありました。



せっかくなので,朝食を取る意味も込めて,宇奈月温泉の温泉街の中の「有名なお店」である,カフェ・モーツアルトに行くことにしました。

ホテルからは5分ほどだったでしょうか。「おもかげ通り」を通って,温泉街の中心部へ。

こんな感じで雪が降っていました。「北陸」「北日本」という文字を見るだけで寒くなりそう?水中花のようなものを飾っている店もありました。


地面から湯気が出ているところもありました。これも温泉街ならでは。「モーツァルト音楽祭」というイベント関連の饅頭も売っているようでした。


そうこうしているうちに,モーツァルトの横顔の肖像が見えてきました。カフェ・モーツァルトは,温泉街の真ん中にある感じでした。


一度,行ってみたかったお店でしたが,期待どおりでした。音楽好きの精神とアットホームな気分が溢れた,素晴らしい店だと思いました。当初の計画では,コーヒーを飲むだけの予定だったのですが,モーニングセットを食べることにしたので,少々長居をすることになりました。

ご覧のとおり,厚いトースト+卵+サラダという充実の内容。ブレンド・コーヒーもとても飲みやすいものでした。


メニューには,あれこれ試してみたいものが沢山ありました。


店頭にはいろいろなグッズ,写真が多数飾られていました。右側はお土産用の,ヴァイオリン型のクリップ。


窓の外を眺めていると...電車が通過。黒部峡谷のトロッコ電車への乗り換え駅でもあるので,鉄道ファンにも注目の街だと思います。


そのうちに,「新幹線で東京に戻る前に高橋多佳子さんが来られる...」という会話が聞こえてきました。家族が,「コーヒーのおかわりをしたい」と言い,それにつきあっているうちに...本当に高橋さんがお店に入って来られました。

お店の方に「昨晩,国際ホテルで高橋さんの演奏を聞いてきたんですよ.」といった会話をしていたこともあり,「こちらのお客さん,昨日,高橋さんの演奏を聞かれたそうですよ」と紹介をしていただき,「せっかくなので記念撮影しましょう」ということになりました。文字通り,音楽家と聴衆の出会いを演出してくれるような素晴らしいお店だと思いました。こういう出会いがあると,また来てみたくなりますね。

 
宇奈月は山間の街。ザルツブルクと似ているようですね(行ったことないので,想像です)。

その後,再度ホテルに戻り,私たちもホテルの送迎用の車で金沢まで戻りました。

宇奈月にいた時は小雪まじりでしたが,だんだんと天候がよくなってきました。


我が家としては,いろいろと想定外の出来事があったのですが,それも含めて,忘れられない2日間となりました。 宇奈月での演奏会。機会があれば,是非また来たいと思います。


↑帰宅後,自宅へのお土産用にかった,饅頭(部屋にあったものと同じものです)をコーヒーと一緒に食べました。ヴァイオリン型のクリップは,実は,前回,母親が宇奈月に行った時に,買ってきたものです。ボールペンとしても使えることに始めて気づきました。母親はチェロだと思って買ってきたのですが,どうみてもヴァイオリンですね。

(2019/02/10)





公演のリーフレット(表)


公演のリーフレット(裏)


ホテル全景



演奏会後,ホテルのスタンプを押してみました。