OEKfan > 演奏会レビュー
オーケストラ・アンサンブル金沢 ランチタイムコンサート スペシャル: 北欧とロシアの音楽
2019年2月19日(火) 12:15〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) グリーグ/ホルベルク組曲,op.40〜前奏曲
2) グリーグ/「ペール・ギュント」第1組曲, op.46〜朝の気分
3) シベリウス/悲しきワルツ
4) ゲーゼ/「田舎の夏の日」〜嵐の気配、ユモレスク
5) ステンハンマル/カンツォネッタ
6) エブラハムセン/木管五重奏曲第2番〜第3, 4楽章
7) チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲〜第3楽章
8) (アンコール)チャイコフスキー/弦楽セレナード〜ワルツ
9) (アンコール)シベリウス/アンダンテ・フェスティーヴォ

●演奏
新田ユリ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:水谷晃)
水谷晃(ヴァイオリン*7)



Review by 管理人hs  

平日のお昼休みの時間帯に石川県立音楽堂コンサートホールで定期的に行われている「ランチタイムコンサート」にオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)がフル編成で登場するということで,休みを取って聞きに行くことにしました。指揮は新田ユリさんでした。

演奏された曲は,北欧とロシアの音楽。今年の春の大型連休に行われる「楽都音楽祭」のテーマと全く同じです。そのプレイベントとなるようなプログラムでした。「知る人ぞ知る」作曲家の作品も含め,北欧各国の作曲家とロシア代表のチャイコフスキーの作品がずらっと演奏されました。約1時間の演奏会でしたが,聞き応え十分でした。

今回とても良かったのは,1曲ごとに,北欧の音楽のスペシャリストである,新田さんのトークが入ったことです。そのお陰で,初めて聞く不思議な音だらけの作品についても,「なるほど」という感じで,しっかりと楽しむことができました。

まず,ご挨拶代わりのような感じで,グリーグ(ノルウェイ出身)のホルベルク組曲の前奏曲が弦楽合奏で演奏されました。今回は定期公演の時とは違い,2階バルコニー席の前の方から見下ろす感じで聞きました。そのこともあり,オーケストラの中に入って聞いているような音の迫力と臨場感を感じることができました。


演奏を聞いているうちに,思わず乗り出したくなるような場所でした

まず,最初の「ズン」という音が良かったですね。コントラバスの近くで聞いていたせいか,低弦の迫力を感じました。この曲は,最初のこの音が「肝」ですね。その後,生き生きと音楽が前に力強く進んでいくのが快感でした。

続いて,管・打楽器のメンバーが加わり,同じくグリーグの「ペール・ギュント」組曲の中の「朝の気分」が演奏されました。松木さんのフルート,続いて,加納さんのオーボエでくっきりと主旋律が演奏された後,爽やかに音楽が流れて行きました。

ノルウェイの後はフィンランド。フィンランドといえば,シベリウスですね。今回は,「クオレマ(死)」の中の1曲,「悲しきワルツ」が演奏されました。優しく癒やすような感じで悲しげなワルツが始まった後,少し明るくなったり,テンポが速くなったり...冬の金沢の空のように,表情が変わるのが面白かったですね。最後の部分で,死の恐怖におびえるようにテンポが速くなるのが印象的でした。

続いて,デンマークへ。デンマークは国土がほぼ平地ということで,非常に風が強い国とのことです。その「風」をイメージさせる曲として,ゲーゼの「田舎の夏の日」という曲の中から,「嵐の気配」「ユモレスク」の2曲が演奏されました。新田さんのお話によると,「ゲーゼはメンデルスゾーンの弟子だった人」とのことで,作風にも少し似たところがあると思いました。

「嵐の気配」の方は,リアルな嵐というよりは,洗練された心地良さを感じました。「ユモレスク」の方は,メンデルスゾーン得意の「スケルツォ」的な雰囲気を感じました。どこか暖かみのあるサウンドが良いなぁと思いました。

次はスウェーデンのステンハンマル。新田さんによると「北欧の中では親分肌の国」とのことです。デンマーク,スウェーデンは王国なのですが,その辺も国民性に影響している部分があるのかもしれません。ステンハンマルは,シベリウスと同時代の作曲家で,シベリウスを尊敬していたそうです。今回演奏されたセレナードの中のカンツォネッタも,どこか「悲しきワルツ」に似た雰囲気があると思いました。メランコリックでロマンティックな雰囲気の後,最後の方で,ゲスト・コンサートマスターの水谷晃さんによる甘く滴るようなソロが入りました。

ここで一旦,オーケストラのメンバーの大半が袖に引っ込み,フルートの松木さん,クラリネットのブルックス・トーンさん,オーボエの加納さん,ファゴットの柳浦さん,ホルンの金星さんの5人だけが残りました。演奏されたのは,現代デンマークの作曲家,エブラハムセンの木管五重奏曲第2番「森の生活」の第3楽章,第4楽章でした。

この日演奏された曲の中ではいちばん現代的な曲で,楽器の配置も変わっていました。木管五重奏の場合,ステージ中央付近に集まるのが普通ですが,この演奏では,通常のオーケストラ内での位置以上にゆったりと配置していました。

曲のタイトルにあるとおり,ソローの『森の生活』の影響を受けて作った曲ということで,5つの管楽器で,風の音,鳥の声,葉っぱの音...などの自然の音を表現しようとした作品でした。3楽章の方は,一瞬,スメタナの「モルダウ」かなと思わせるムードで始まった後,各楽器がバラバラに動くような曲でした。ホルンが吠えるようなフレーズを演奏したり,独特の雰囲気を持っていました。第4楽章の方は,もう少し普通の曲っぽい感じで,所々で古典的なメロディが漏れ聞こえてきましたが,各楽器が独立して動き,それぞれ独自の世界を作っているのが面白いと思いました。

演奏会の最後は,コンサートマスターの水谷晃さんの独奏による,チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の第3楽章でした。こちらもまた,楽都音楽祭に合わせての選曲ということになります。

まず,楽章最初の鋭いアタックが「すごい」と思いました。OEKの演奏の集中力の高さを実感できました。水谷さんの音はバランスの取れた素晴らしい音で,間然とするところのない完成度の高い演奏を聞かせてくれました。演奏には常に余裕があり,楽しんで弾いているような自在さも感じました。この楽章では,合いの手を入れるように出てくるオーボエのフレーズも好きです。加納さんの艶やかな音が,水谷さんの演奏に華を添えていました。

楽章の後半,重音奏法になる部分がありますが,この辺りから「牙をむいた」ような野性味が出てきて,生き生きとした勢いのまま全曲を締めてくれました。この作品は,独奏ヴァイオリンとオーケストラが丁々発止とやり取りをするように書かれているところがあり,ヴァイオリンの音が埋もれてしまわないのが良いですね。その辺の「巧さ」を堪能できる演奏でした。

アンコールは,ロシア代表・北欧代表として,2曲演奏されました。約45分の演奏会で2曲のアンコールというのも贅沢です。1曲目はチャイコフスキーの弦楽セレナードの中のワルツがリラックスしたムードで演奏されました。キリッとしたヴァイオリン協奏曲と好対照の演奏でした。2曲目は,シベリウスのアンダンテ・フェスティーヴォが演奏されました。冒頭の弦楽器の鮮烈な音を聞くだけで,キリッと冷えた北欧の空気を感じました。最後にティンパニが入り,演奏会全体がどこか高貴な雰囲気の中で締められました。

今回のプログラムは,弦楽合奏,管弦楽フル編成,木管五重奏,協奏曲...と考えてみると色々な編成の曲が並んでいました。しかも北欧4曲とロシアの曲がバランスよく配置。間にはさまれた新田さんのトークも実体験に基づいた大変分かりやすいもので,オーケストラと一緒に1時間で各国を一巡りしたような楽しさがありました。楽都音楽祭のチケットは,2月22日から一般発売が始まるようですが,その絶好のプレイベントとなる演奏会でした。

唯一の後悔は...「演奏会の後,仕事に戻る」ことにしたことです。余裕をもって,そのまま休暇を取る形にしておけば良かったなぁと反省しています。

PS. プログラム・リーフレットの裏面に,次のような予告のお知らせを発見。どこで演奏?何を演奏?桜は咲いている?散っている?...色々気になる演奏会ですね。


(2019/02/22)




公演の立看