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カレッジコンサート2019
2019年3月3日(日)14:00〜 石川県立音楽堂 コンサートホール

1) ドヴォルザーク/序曲「謝肉祭」作品92(合同)
2) シューベルト/交響曲 第1番 ニ長調 D82(OEKのみ)
3) ブラームス/交響曲 第2番 ニ長調 作品73(合同)

●演奏
太田弦指揮石川県学生オーケストラ(金沢大学フィルハーモニー管弦楽団,金沢工業大学室内管弦楽団)*1,3;オーケストラ・アンサンブル金沢


Review by 管理人hs  

3月3日の午後,この時期恒例のカレッジコンサートを石川県立音楽堂コンサートホールで聞いてきました。石川県内の大学オーケストラメンバーとオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の共演ということで,例年通りステージに乗っていたメンバーは若い人中心でしたが,今回は指揮者の太田弦さんも25歳ということで,過去のカレッジコンサート史上,最も平均年齢の若いメンバーによる公演になったのではないかと思います。


開演前は,例年通り,練習風景の写真のスライドショーでした。

この太田弦さんですが,4月から大阪交響楽団の正指揮者に就任します。異例の若さと言えると思います。ただし,この日の指揮ぶりは非常に冷静で落ち着きがあり,ステージいっぱいに乗った大オーケストラを見事にドライブしていました。若手指揮者といえば,「速いテンポで情熱的に聞かせる」という先入観を持ってしまいますが,熟練の指揮ぶりでした。プログラムは,ドヴォルザーク,シューベルト,ブラームスとカレッジ・コンサーとにしては渋めでしたが,2曲の交響曲を中心に,大変聞き応えのある音楽を楽しませてくれました。

学生オーケストラとOEKの合同演奏については,前半最初に演奏されたドヴォルザークの「謝肉祭」の方がOEKメンバーが首席,後半メインで演奏されたブラームスの交響曲第2番の方は学生が首席という形になっていました。このパターンも例年どおりでした。

ドヴォルザークの方は,OEKの管楽器の名手たちの闊達な演奏をちりばめた華やかさがありましたが,上述のとおりテンポに落ち着きがあり,華やかに盛り上がる終結部でも,浮ついた感じになっていないのが特徴だったと思います。冒頭から音楽全体がきっちりと整理されており,どちらかというと端正でクリアな音楽だった思います。中間部で出てくる,ゆっくりとした楽想での念の入った表情付けなども印象的でした。

タイトルどおり「お祭り」でも面白い曲ですが,まだ1曲目ということで,他の曲とのバランスの良さを感じさせるような演奏だったと思います。コーダの部分をはじめ,常に冷静さを保ちながらしっかりと鳴らすあたり,どこか職人的な巧さを感じさせるような指揮ぶりでした。

後半の合同演奏のブラームスの交響曲第2番は,さすがに管楽器の安定感の点では「謝肉祭」に及ばない部分はありましたが,弦楽器の音に威力があり,ドイツの交響曲らしさがしっかりと感じられるような,見事な演奏だったと思います。第1楽章冒頭のコントラバスの音の深さ,各楽章で出てくる息の長いカンタービレなど,全曲を通じて,ゆったりとしたテンポ設定を取っていたので,大交響曲を聞いた充実感が残りました。

第1楽章は,牧歌的なホルンの音に続いて出てくる,ヴァイオリン・パートの音が素晴らしいと思いました。静かで上質な時間がしっとりと流れていくような心地良さがありました。楽章を通じて,しみじみとした情感がある一方で,軽快な部分については,しっかりと弾んでおり,若々しさも感じられました。第2楽章も,第1楽章同様,じっくりと味を噛みしめるような落ち着きがありました。平穏な日常の美しさを丁寧に描いたような充実感が感じられました。最後の部分のハーモニーがとても美しいと思いました。

第3楽章は,まず,最初に出てくるオーボエが「肝」です。学生オーケストラの首席奏者の演奏は,大変立派な演奏だったと思います。可憐さと芯の強さを感じました。中間部も木管楽器が活躍しますが,この部分もほぼ学生のみで演奏していたと思います。ちょっと朴訥な雰囲気があったのが,この曲には合っていると思いました。

第4楽章は,静かに始まった後しばらくして,爆発するように音が広がります。第3楽章の時と対照的に,4管編成によるスケール感たっぷりの演奏でした。コーダでは見事な盛り上がりを作っていましたが,いきなり吠えるような唐突感はなく,少しずつ音楽を耕していくように,音楽の威力を増していっていたのが素晴らしいと思いました。煽らず壮麗に聞かせる,納得のフィナーレでした。太田さんのテンポ設定にはブレがなく,全曲を通じて悠揚迫らない音楽をゆったりと楽しませてくれました。

そして,この日のプログラムで特に素晴らしかったのが,真ん中で演奏されたシューベルトの交響曲第1番でした。過去,この曲を実演で聞いた記憶はないのですが,両端の大編成の曲の演奏に負けない充実感がありました。

編成はOEKのデフォルトの2管編成で,バロック・ティンパニを使っていました。そのせいもあるのか,第1楽章の序奏部などには祝祭的な気分が漂っていました。OEK単独だと,かえって音のクリアな強靱さが明確に感じられたのも面白いと思いました。CDで聞いた感じだと,やや冗長な曲かなと思っていたのですが,第1楽章の序奏部を始めとして,全体がすっきりとまとまっており,端正さを感じました。彩りを加えるような管楽器の響きも大変魅力的でした。

第2楽章は,モーツァルトの「ハフナー」交響曲の第2楽章をシチリアーノ風にアレンジしたような楽章でした。安定感と同時に流動感があり,心地良く音楽が流れながらも時折,憂いが漂っていました。第3楽章は,キリッと速めのテンポの演奏で清々しい若々しさを感じました。中間部のレントラー風の部分も軽快で,田舎臭い感じがないのが太田さんらしさかなと思いました。

第4楽章には緻密で清潔さが感じられました。この楽章ではトランペットのハイトーンが大活躍していました。この点もCDで聞いた印象とは一味違っていました。ティンパニの強打も加わって,しっかりと音楽が盛り上がって全曲が締められました。

今回の公演では,どの曲についても,磨かれた緻密さと新鮮な歌があり,全く退屈しませんでした。真面目に曲に向きあった演奏の良さが,ストレートに伝わってくるような素晴らしい演奏ばかりだったと思いました。

それにしても太田さんは,まだ25歳。若いですねぇ。今後もOEKとの共演の機会があると思いますが,今回の安定感と精緻さのある演奏を聞いて,今後の活躍が非常に楽しみになりました。「あのカレッジコンサートが記念すべき初顔合わせだったなぁ」と後から振り返ることができるような,素晴らしい演奏会になったのではないかと思いました。


終演後,鼓門前の「いいね金沢」の時計を眺めてみたのですが...どうも物足りません。背景にあるはずの,金沢都ホテルが消えていました。

(2019/03/08)




公演の立看


その隣にあった,3月と4月のコンサートガイドの立看板。色合いが桜餅のようですね。