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デンマーク国立交響楽団来日公演: 東芝グランドコンサート2019
2019年3月13日(水)19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ニールセン/歌劇「仮面舞踏会」序曲
2) ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番変ホ長調,op.73「皇帝」
3) (アンコール)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」〜第3楽章
4) チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調, op.64
5) (アンコール)ゲーデ/ジェラシー

●演奏
ファビオ・ルイージ指揮デンマーク国立交響楽団*1-2, 4-5
横山幸雄(ピアノ*2-3)



Review by 管理人hs  

石川県立音楽堂コンサートホールで,この時期恒例の東芝グランドコンサートを聞いてきました。毎年,ヨーロッパのオーケストラが登場することが多いのですが,今年のオーケストラは,ファビオ・ルイージ指揮のデンマーク国立交響楽団でした。今年の連休に金沢で行われる,「楽都音楽祭」は,北欧がテーマの一つですので,それを先取りするような感じもありました。



プログラムは,まず,デンマークのオーケストラの挨拶代わりのような感じで,ニルセンの歌劇「仮面舞踏会」序曲が明快に演奏されました。オーケストラの編成は,3管編成ぐらいでしたが,全体に明るく軽やかで,大変明快でした。

続いて,おなじみ横山幸雄さんをソリストに迎えて,ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」が演奏されました。横山さんはいつもどおり,ソムリエ風の衣装でした。

第1楽章冒頭は,予想外に柔らかな音で始まりました。力一杯ではない,余裕のあるたっぷりとした音からは,どこか優雅さを感じました。続く独奏ピアノによるカデンツァの部分は,横山さんのピアノが鮮やかでした。全曲を通じて,高音が大変美しく,どこを取ってもクリアでした。

主部に入ると,オーケストラがしっかりと歌っているのが印象的でした。後半のチャイコフスキーでも同様だったのですが,ルイージさんの作る音楽には,力づくで大きな音を聞かせるようなところはなく,抑制された感じで始まった後,音楽が進むにつれて,どんどん歌が溢れてくるといった感じの音楽になっていると思いました。OEKの演奏で何回も聞いてきた曲ですが,大編成でゆったりと聞くのも良いものだと思いました。

横山さんのピアノの方も表現の引き出しが多く,多彩なニュアンスを持った,スマートな演奏を聞かせてくれました。今回,ステージからかなり遠い席で聞いたので,やや音が遠く,ソツがなさ過ぎる感じに聞こえる部分もあったのですが,さすが横山さんという演奏だったと思います。

第2楽章は,オーケストラによるじっくりとした平静さに満ちた演奏で始まった後,横山さんの,儚げだけれども,しっかりと地に足の着いた演奏が続きました。フルートなどの木管楽器の響きには,どこか素朴で誠実な気分がありました。

第3楽章は,キビキビとした前向きの演奏でした。オーケストラの音に派手すぎるところがないのも良いと思いました。横山さんのピアノは大変軽快でノリの良いものでした。終結部では,オーケストラとバチッと音が揃って,美しい音で締めてくれました。ティンパニは,ニルセンの時よりは小型の楽器を使っていましたが,そのカラッとした音とぴったりのピアノだったと思います。

この演奏の後,アンコールで,ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」の第3楽章が演奏されました。大変スマートな見事な演奏だったのですが,個人的には「ソナタなら全曲じっくり聴きたい」とどうしても思ってしまいます。

後半はチャイコフスキーの交響曲第5番が演奏されました。この曲を聞くのは,この1年間でも3回目でしたので,「これまで実演で聞いたことのない大編成の曲」を聞いてみたかったという思いもありましたが,「必ず楽しめる鉄板プログラム」とも言えます。そして,そのとおりでした。ルイージさんの本領発揮が発揮された,立派な建物のように見事に構築された素晴らしい演奏だったと思います。

まず,第1楽章冒頭の2本のクラリネットの演奏から,暗〜い情感が漂っていました。太い音には大変迫力がありました。しかも非常に遅いテンポ。その徹底した表現が素晴らしいと思いました。主部に入っても慌てることなく,しっかりと抑制され,がっちりと構築された音楽を聞かせてくれました。次第に歌が溢れてくるのは,「皇帝」の時と同様でした。楽章最後の,クリアな不協和音も大変不気味でした。

第2楽章冒頭のホルンにも憂いに満ちた深い味がありました。くぐもった音は大変詩的でした。大変ロマンティックだけれども,どこかリアルなドラマを感じさせる演奏でした。楽章の後半になると,チャイコフスキーならではの,熱く大きな身振りを持ったカンタービレも出てきましたが,しっかりと引き締まっており,すべて「ルイージさんの表現」となっていたのが素晴らしいと思いました。

第3楽章には,熟成された味わいがありました。中間部のキビキビした感じと好対照を成していました。

第4楽章は,まず,威厳の高さを感じさせるような落ち着きのある雰囲気で始まりました。デンマークは「王国」ですが,その国のオーケストラに相応しい格調の高さのようなものを感じました。主部に入ってからもじっくりとしたテンポで進み,各パートがしっかりと絡み合った密度の高い音楽が続きました。この部分では,管楽器の音が抑制気味で独特の精緻さが感じられました。

楽章の後半になると,徐々に音楽に解放感が出てきました。霧が晴れたような爽快さがありました。この曲のチェックポイント(?)の1つである,コーダに入る直前の部分ですが,非常にインターバルは短かったですね。フライングの拍手がかなりの確率で入る部分ですが,その余地がない感じでした。

コーダに部分は,非常に軽快な行進になりました。トランペットの澄んだ音も印象的でした。それでも浮ついた感じはなく,全曲を振り返ってみると,見事に「暗から明へのドラマ」になっていると思いました。全曲を通じて,しっかりと設計された聞き応え十分の音楽になっていると同時に,自然に燃えるようなカンタービレも随所にある,大変魅力的な音楽になっていました。

盛大な拍手に応えて演奏されたアンコールは,コンチネンタルタンゴの名曲「ジェラシー」でした。この曲の作曲家のゲーデは,デンマーク出身ということで,最後はお国ものということになりました。コンサートマスターのソロを交えて始まった後,どこか古いミュージカル映画の1シーンを見るような暖かみのある演奏が続きました。

ルイージさんの演奏を聞くのは初めてでしたが,チャイコフスキー以外でも,きっと構築感のある音楽を聞かせてくれるのではないかと思います。是非,また実演で大曲を
聞いてみたい指揮者です。

(2019/03/20)





公演の案内






この日は,ファビオ・ルイージさんのサイン会がありました。ルイージさん指揮,リーズ・デ・ラ・サールさんのピアノによるラフマニノフのピアノ協奏曲全集のCDにいただきました。

リーズさんは,3月末にOEKと共演するので,この時にはこのCDにサインをいただこうとたくらんでいます。