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石川県ジュニアオーケストラ 第25回 定期演奏会
2019年3月24日(日) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) アンダーソン/馬と馬車
2) シベリウス/アンダンテ・フェスティーヴォ
3) ハイドン/ピアノ協奏曲ニ長調,Hob.XVIII:11
4) グノー/歌劇「ファウスト」〜バレエ音楽
5) シャブリエ/狂詩曲「スペイン」
6) (アンコール)チャイコフスキー/組曲「くるみ割り人形」〜行進曲

●演奏
鈴木織衛指揮石川県ジュニアオーケストラ,矢崎紫(ピアノ*3)



Review by 管理人hs  

年度末恒例の石川県ジュニアオーケストラの定期演奏会を聞いてきました。この公演も,今回で25回目。四半世紀ということになります。指揮はお馴染みの鈴木織衛さんでした。ジュニアオーケストラの定期演奏会のプログラムについては,過去,色々な趣向が凝らされて来ましたが,今回はオーソドックスにオーケストラの音をたっぷりと楽しませてくれるような曲が中心でした。


これまでになかった趣向は,金沢市の中学生ピアニスト,矢崎紫(しき)さんとの共演でした。矢崎さんはピティナ・コンペティションの優秀者で,今回はアンサンブルのオーディションで合格して共演することになったとのことです。

演奏されたのは,ハイドンのピアノ協奏曲ニ長調でした。OEKが演奏するとぴったり来るような古典派の作品で,矢崎さんは,第1楽章からクリアで明快な音の世界を楽しませてくれました。ジュニアオーケストラの演奏ともども,大変瑞々しい演奏でした。第2楽章も,くっきりとした美しさの演奏で,いつの間にか夢の世界に運んでくれるようでした。

第3楽章はテンポが速くなりますが,慌て過ぎる部分はなく,次々出てくる色々なフレーズがしっかり描き分けられていました。どこか,せせらぎの音に身を浸しているような,心地よさを感じました。中間部ではハンガリー風の気分になるのですが,この部分で音楽に”濃さ”が感じられたのが良かったと思いました。

その他の曲は,ジュニアオーケストラ単独の演奏でした。鈴木織衛さんのお話にあったとおり,プログラムの趣旨は,「世界の色々な国の音楽を楽しむ」ということで,西部開拓時代の気分を持ったリロイ・アンダーソンの「馬と馬車」,楽都音楽祭のテーマに合わせたようなシベリウスのアンダンテ・フェスティーヴォ。そして後半は,グノーの「ファウスト」のバレエ音楽,シャブリエの狂詩曲「スペイン」が演奏されました。後半の2曲はフランスの作品なのですが,内容的にはエジプトとスペインですので,文字通り,世界各国の音楽を楽しんだ感じです。

最初に演奏された「馬と馬車」は,ウッドブロックとムチの音が効果的に使われていました。速すぎない快適なテンポだったこともあり,ちょっとレトロな西部劇の映画を観るような味があると思いました。

「アンダンテ・フェスティーヴォ」は,2月には新田ユリさん指揮オーケストラ・アンサンブル金沢の演奏で聞いたばかりです。その時の演奏は,ピリッと身が引き締まるような感じでしたが,ジュニアの演奏の方は,どこか早春の気分を思わせるような淡い情感が漂っているなぁと思いました。鈴木さんは「音楽に羽が生えて飛んでいくよう」という表現をされていましたが,のびのびとした気分にさせてくれる作品ですね。

「ファウスト」のバレエ音楽は,個人的に大好きな作品です。短い7曲からなる組曲ですが,オーケストラの色々な楽器が活躍し,多彩な表情を持っているので,ジュニア・オーケストラのレパートリーにぴったりだと思います(演奏するのは難しいと思いますが)。

今回,トロンボーンやテューバには,「大人」のメンバーも加わっていましたが,冒頭からその充実した音に支えられて,親しみやすい音楽が次々と出てきました。ダイナミックな部分でのパーカッションの音を聞いていると,石川県立音楽堂コンサートホールのホールトーンの素晴らしさを実感できました。

「トロイの娘たちの踊り」などの滑らかなワルツでの弦楽器の滑らかさ,「鏡の踊り」での軽快なリズム感など,鈴木さんの滑らかな指揮の下で,心地良い音楽を楽しませてくれました。この演奏ではハープを3台使っていましたが,フルートの数もものすごく多く,9人も居ました。そのこともあって,独特の豪華さがあると思いました。

最後の「スペイン」も大編成を活かした充実感のある演奏でした。フル編成の響きも気持ち良かったのですが,途中に出てくる管楽器のソロなども聞きものでした。特に日頃地味な印象のあるファゴットが,スペイン旅行の気分を盛り上げるような感じで,上機嫌に活躍していたのが良かったと思いました。全体にじっくりとしたテンポだったので,めくるめくような楽しさと色彩感を感じることができました。

最後に「くるみ割り人形」の「行進曲」がアンコールで演奏されて,演奏会は終了しました。ジュニア・オーケストラは,年度末ギリギリの「オーケストラの日」コンサートに出演した後,「楽都音楽祭」にも登場します。もちろんプロのオーケストラの演奏と比べれば,アラの見える部分はありましたが,”押し”の強すぎない素直な音楽は,それぞれの曲の魅力を十分に伝えてくれました。今回の演奏会は,今後の活動に向けて,大きな自信になったのではないかと思います。

(2019/03/28)



公演のチラシ



公演の案内板


終演後,音楽堂のエレベータ上にあるステンドグラスを撮影。白い壁に映った光と合わせて,不思議な雰囲気の写真になりました。