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きらめきコンサート 魅惑のチェロ&コントラバス
2019年5月25日(土)14:00〜 金沢市立安江金箔工芸館

1) ベンダ/ソナタ へ長調
2) テレマン/カノンもしくはソナタ第1番
3) ペーターソン/コントラバスソロのためのグラウンド
4) 朝鮮古謡/アリラン
5) ヴァーレン/異端審問が盛んに行われた頃,トスカナの乙女たちがスペイン広場で踊る夜のダンス
6) パガニーニ(バウマン,シュトル編曲)/ファンタジア
7) カイパー/ロンド・ソロ
8) ロッシーニ/チェロとコントラバスのための二重奏
9) (アンコール)コレルリ/サラバンド

●演奏
ソンジュン・キム(チェロ1-2,4-9),ダニエリス・ルビナス(コントラバス*1-3,5-9))



Review by 管理人hs  

この日は全国的に夏のような暑さになりました。金沢も快晴で恐らく30度ぐらいあったのではないかと思います。5月としては異例のことです(ただし,それほど湿気は高くなかったですね)。その中,金沢市立安江金箔工芸館で行われた,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のチェロ奏者,ソンジュン・キムさんとコントラバス奏者,ダニエリス・ルビナスさんの二重奏の演奏会を聞いてきました。



内容は,予想を上回る充実度でした。予定時間の1時間,ぎっしりとチェロとコントラバスの音が詰まった,素晴らしい内容でした。会場は,工芸館の入口入ってすぐ横の多目的展示ホールでした。非常に間近で聞けたこともあり,お二人の素晴らしい音の迫力に包み込まれました。




↑終演後間近で撮影。金箔館らしく黄金の椅子。コントラバスの椅子には「ルビナスの椅子」と名札が付いていました。ご愛用の椅子のようでした。

もともと,チェロとコントラバスのための作品というのはほとんどないので,大半は別の編成からの編曲だったのですが,テレマンなどのバロック時代の作品から,20世紀の音楽まで。各楽器の超絶技巧を聞かせる曲。各楽器の独奏...という感じで多彩な作品が選ばれていました。

最初にベンダというボヘミアの作曲家の作品が演奏されました。オリジナルはヴィオラ・ダ・ガンバとバスのための二重奏とのことでした。チェロの優雅な雰囲気とコントラバスのズシッと響く音の迫力とが,絶妙のバランスでした。中間楽章の哀愁に満ちたハモりも魅力的でした。

テレマンの作品は,もともとは,「2本のドイツフルートと2本のヴァイオリンのための6つのカノンもしくはソナタ」ということで,2つの低音楽器が「追いかけっこ」をします。かっちりと絡み合う両端楽章とのんびりとした気分の中間楽章の対比を楽しむことが出来ました。

次のコーナーは,コントラバスとチェロがそれぞれソロで演奏しました。

ペーターソンという作曲家は,ラトヴィア出身の現代の作曲家です。今回演奏された曲は,パーセルのチェンバロ曲にインスパイアされて作られた曲とのことです。ここでは,ルビナスさんのコントラバスの音の深さに圧倒されました。ボンとピツィカートを演奏するだけでも多彩なニュアンスがあることが分かりました。心臓の鼓動のように響いたり,ジャズのベースのような雰囲気になったり,コントラバスの表現力の豊かさを実感出来ました。

続いて,キムさんが朝鮮古謡のアリランを演奏しました。キムさんのチェロは,非常に伸びやかで,特にテノールのような高音が美しいと思いました。

その後の曲はすべて二重奏に戻りました。

ヴァーレンの作品は,「ルネサンスの有名な舞曲4曲による組曲」とのことでした。ただし,雰囲気はかなり現代的で,最初の曲などは,ピアソラのタンゴ辺りを思わせるちょっと不気味な迫力がありました。その他の曲には,じっくりとハモリを聞かせるような曲があったり,複雑なリズムの曲があったり,変化に富んでいました。最後の曲は,バチンと強く弾くような音で終わるなど,特に迫力がありました。

次の2曲は,それぞれの楽器の名人芸を聞かせてくれるような作品でした。

パガニーニのファンタジアは,ヴァイオリン用の変奏曲を,イエルク・バウマン&クラウス・シュトールによる「ベルリンフィル・デュオ」が編曲したもので,特にチェロが大活躍でした。キムさんの音色は,プログラムの後半の曲に行くほど音の輝きが増し,歌が熱くあふれ出てくるようでした。会場の「金箔」のイメージに重なるような「黄金のチェロ」を聞かせてくれました。

カイパーのロンド・ソロは,コントラバスとチェロもしくはヴィオラのための作品で,コントラバスの方が高音部を演奏することがあるような,意表を突く面白さのある作品でした。コントラバスとは思えない軽快さやキレの良さもある「魅せてくれる作品」だと思いました。

最後にこの編成の曲ではいちばん有名な曲である,ロッシーニのチェロとコントラバスのための二重奏が演奏されました。静かに始まった後,熱く盛り上がったり,緩急自在の音楽を楽しませてくれました。第2楽章では,コントラバスの上にキムさんのチェロの歌が続き,第3楽章では重いけれどもしっかり弾むリズムの上に楽しげな音楽が続きました。最後の曲らしく,特にダイナミックな動きを楽しむことができました。

アンコールでは,コレルリのサラバンドがしみじみと演奏されました。

実演で,この編成を聞くのは久しぶりのことでしたが,この2つの楽器で,こんなに多彩で迫力のある音楽を作れるのだなぁと感激しました。内容のぎっしりと詰まった充実の1時間でした。


↑入場料500円のお得な演奏会でした。

(2019/06/01)





公演の案内



多目的展示スペースの窓の外には国道159号線


トイレの洗面台にも金色の遊び心がありました。