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ふだん着ティータイムコンサート Vol.22
2019年5月26日(日)14:00〜 金沢市民芸術村

14:00〜子供のためのコンサート(オープンスペース)
1) ミッキ−マウスマーチ
2) モーツァルト/ディヴェルティメント K.136〜第1楽章
シュトラウス,ヨハン&ヨゼフ/ピツィカート・ポルカ
シュトラウス,J.II/常動曲
シュトラウス,J.II/雷鳴と稲妻
シュトラウス,ヨーゼフ/鍛冶屋のポルカ
指揮者コーナー(運命,ラデツキー行進曲,ハンガリー舞曲第5番)
久石譲/さんぽ

●演奏
オーケストラ・アンサンブル金沢
司会:加納律子

15:10〜室内楽コンサート (ミュージック工房)

1) コレルリ/ヴァイオリン・ソナタ へ長調, op.5-4
2) モーツァルト/オーボエ四重奏曲
3) ヴィトマン/ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲
4) フンパーディンク/ヘンゼルとグレーテル:木管五重奏とナレーターのための
5) ソッリマ/嘆き歌
6) ドヴォルザーク/テルツェット〜第1楽章,第2楽章
7) ドッツァウアー/6つの小品,op.104
8) シュターミッツ/ファゴット四重奏曲, op.19-5
9) ジャンゴ・ライハルト/ヌアージュ
10) サム・リバーズ/ベアトリス
11) ハービー・ハンコック/ドルフィンダンス
12) ウェイン・ショーター/ビューティー・アンド・ザ・ビースト

●演奏
加納律子*4,水谷元*2(オーボエ), 松木さや(フルート*4,11-12),遠藤文江(クラリネット*4,10-12),渡邉聖子(ファゴット*4,8), 金星眞(ホルン*4), 青木恵音*1, 若松みなみ*2,9-12, 坂本久仁雄*3, 上島淳子*6,8, 大隈容子*6, 松井直*9-12(ヴァイオリン),ヴォーン・ヒューズ(ヴァイオリン*9;ギター*10-12), 古宮山由里*2,9-12 石黒泰典*6,8(ヴィオラ), 大澤明*1,3,5,7,8 キム・ソンジュン*2,7,9-12,早川寛*7(チェロ), ダニエリス・ルビナス*10-12,今野淳*9-12(コントラバス), 渡邉昭夫(ドラムス*9-12)



Review by 管理人hs  

5月にしては異例の暑さの中,日曜日の午後,金沢市民芸術村で行われた,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)メンバーによる「ふだん着ティータイムコンサート」に参加してきました。全体の構成は例年どおりで,14:00からオープンスペースで「子どものためのコンサート」が行われた後,15:10から18:00まで,休憩2回を入れて,室内楽コンサートが行われました。

 開演前のオープンスペース

子どものためのコンサートは,今年も沢山の子ども連れのお客さんが入っていました。毎回司会は,昨年度までOEKのファゴット奏者だった柳浦さんが担当されていましたが,今年はオーボエの加納律子さんの担当でした。明るい雰囲気で,ゆったりとした感じで進行しており,とても良かったと思いました。
 開演が近づくと,一気に満席になりました。

オーケストラの各パートを紹介するのはお決まりですが,今回,全メンバーのお名前を紹介していました。こういったことが可能なのも,OEKが室内オーケストラだからですね。

まず弦楽セクションが紹介され,モーツァルトのディヴェルティメントK.1361の第1楽章がすっきりと演奏された後,シュトラウスのピツィカート・ポルカが演奏されました。弦楽器は弓を使うだけでなく,弦をはじいて演奏することもあるという実例の紹介でした。加納さんは「ピチピチやったねぇ」と演奏後おっしゃっていましたが...なるほどその音の感じがピチカートという語の由来なのかも,と一瞬思ってしまいました。

続いて管楽器と打楽器のメンバーの紹介があった後,シュトラウスの常動曲が演奏されました。この曲は,ある世代より上の音楽ファンにとっては,山本直純さんが司会をされていた伝説の音楽番組「オーケストラがやってきた」のテーマ曲としての印象の強い曲です。管楽器それぞれにソロがあるので,楽器紹介にぴったりですね。演奏の方は,タイトルどおり永遠に繰り返される仕掛けになっていますので,2回目が始まったところで,加納さんが笛を吹いて中断する,という趣向になっていました。

ちなみに,本職はチェロの早川寛さんが,このステージではトロンボーンを担当していました(もしかしたら,チェロと結構音域が近い?)。こういう副業を楽しませてくれるのもこの演奏会ならではですね。

続く曲もヨハン・シュトラウスの「雷鳴と稲妻」,ヨゼフ・シュトラウスの「鍛冶屋のポルカ」でしたので,前半はシュトラウス・ファミリーの音楽が中心だったことになります。どちらも打楽器の伊藤拓也さんが大活躍されていました。

恒例の「指揮者体験コーナー」では,今年は2歳の指揮者が登場していましたね。課題曲の中に,ハンガリー舞曲第5番が入っていましたが,曲のコンセプトどおりの(?)緩急自在のテンポで楽しませてくれました。最後は,「さんぽ」の演奏+合唱でおしまい。この曲は,本当に息長く歌い継がれている作品ですね。



その後,休憩が入った後,ミュージック工房の方に会場を移し,室内楽コンサートとなりました。

バロック時代の曲から現代曲まで,さらにはジャズの曲も加え,例年にも増して,多彩な曲を楽しませてくれました。

最初のコレッリのヴァイオリン・ソナタは,チェロの大澤さんの好きな曲とのことです。先輩からのお誘いに応えて,OEKのいちばん新しいメンバーであるヴァイオリンの青木恵音さんとの共演で演奏されました。大澤さんのコメントにあった通り,「ピュアな曲」のピュアな演奏だったと思います。

続くオーボエ四重奏曲の方は,ヴァイオリンの若松さんが,「水谷さんと一緒に演奏したことがないので」と後輩の方からの提案によるアンサンブルでした。第1楽章のおっとりとしているけれどもクリアな雰囲気。高音の切なさが魅力的だった第2楽章の後の第3楽章では,中間部のリズムにモーツァルトならではの仕掛けがあり,自在に動き回るジャズっぽい気分があると思いました。古典派のかっちりとした様式を守りながら,気分としてはゆったりと自在に演奏するような,「演奏家の休日」といった感じの演奏だったと思いました。

ヴィットマンの作品は,2年前にも聞いたことがあるような...作品でした。「007」のテーマなど,イギリス風のメロディを折り込みながら,ヴァイオリンとチェロが軽く掛け合いをするような才気走った作品でした。

室内楽コンサートの第1部の最後は,フンパーディンクの歌劇「ヘンゼルとグレーテル」の木管五重奏編曲版でした。ストーリーに沿って,5人の奏者が持ち回りでナレーションを入れながら演奏するという大変面白いものでした。恐らく,演奏よりもナレーションの方が緊張されたのではないかと...色々の声色と使っており,楽しげでしたね。

もともとは英語版だったのをヴァイオリンのトロイさんが日本語に訳してくれたものとのことでしたが,このオペラの雰囲気がしっかり伝わってきました。夕べの祈りの音楽はいちばん有名だと思いますが,最初の方に出てきた「トントントン...」といった歌詞の入る童謡風の曲も聞き覚えがありました。その他,ヤマハ音楽教室のCMに使われている曲(「ドレミファソーラファ・ミ・レ・ド」)もありましたね。曲の雰囲気どおり,演奏が本当に生き生きとしていました。

第2部は,チェロの大澤さんの独奏による,ソッリマの「嘆き歌」から始まりました。この曲は,全体に無骨な雰囲気があったのですが,驚いたのは,途中,大澤さんが「ワワワー」と歌いながら演奏する部分があったことです。世の中には,まだまだ,不思議で面白い曲があるものです。この選曲もまた,「ふだん着」ならではの選曲ですね。

ドヴォルザークのテツルェットは,かなり前のこのコンサートで聞いた覚えがありますが,弦楽四重奏からチェロが抜けた編成による陶酔的な心地よさのある作品です。控えめでデリケートな美しさが非常に魅力的でした。

第2部の最後は,チェロ・パート3人による,穏やかな重厚さのあるドッツァウアーという作曲家の小品集でした。チェロの音域などを知り抜いた作曲家の作品ということで,どの楽章にもチェロの魅力が現れていたと思いました。

第3部は,シュターミッツのファゴット四重奏曲から始まりました。渡邉聖子さんが演奏前に「砂糖のたっぷり入ったカフェオレのような音楽」という素晴らしい解説をしていただいたのですが,まさにその通りの曲でした。モーツァルトの音楽にも通じるような,公式どおりの音楽なのですが,その「典型的な典雅さ」という雰囲気が素晴らしいと思いました。毎年,シュターミッツの曲を聞いてもよいかも,と思うぐらい「究極の快適音楽」だと思いました。

そして最後のコーナーで演奏された,ヴォーン・ヒューズさんのエレキギター(ヴァイオリンも演奏していましたが)を中心とした,小編成オーケストラによる,ジャズコーナー。この編成で聞くのは初めてだったのですが,「最高」だったと思います。ゆったりとリラックスしたムードが溢れる,晴れた日曜の午後に聞くのにぴったりの演奏だったと思います。
 ”特別編成ジャズオーケストラ”の配置です

渡邊さんのドラム,今野さんのベース,ヒューズさんのギターの音に弦楽セクションの音が重なるサウンドは,ジャズとクラシック音楽とが見事に融合した「癖になりそうな快適サウンド」でした。4曲演奏されましたが,だんだんと編成が大きくなり,松木さんのフルート,遠藤さんのクラリネットが活躍する部分があったり,各楽器の見せ場があるもの良かったですね。どなたのアレンジなのでしょうか?この際,グループ名を付けて,時々,金沢市民芸術村で定期演奏会をして欲しいぐらいでした。

# Jazz Orchestra Ensemble Kanazawa でどうか?と思ったのですが...略すると JOEKでNHKのコールサインのようになってしまいますね。ちなみにNHK金沢放送局はJOJKです。

というわけで,今年もまた,日曜日の午後ゆったりと(長時間なので少々腰が痛くなるのですが)OEKメンバーによる手作りの音楽を楽しませていただきました。知名度の高い曲は少ないのに,選曲したメンバーの思い,意図,そしてチャレンジ精神がしっかりと伝わってくるような演奏ばかりだったのも良かったと思います。皆様,お疲れ様でした。





(2019/06/02)




公演のポスター。昨年までとは少し変わりましたね。


OEKのメンバーの名前を知ってもらうのがねらいの一つですね。


今年もOEMメンバーと楽友会メンバーによる,ドリンクサービスをオープンスペースの上部で行っていました(写真が遠く,失礼しました)。


同じ敷地になる,金沢職人大学校が「オープンキャンパス」のようなことを行っていました。