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オーケストラ・アンサンブル金沢第415回定期公演マイスター・シリーズ
2019年6月8日(土) 14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

オネゲル/夏の牧歌
クラ/子供の心(1918)
フォーレ/劇付随音楽「ペレアスとメリザンド」組曲
ルーセル/バレエ音楽「蜘蛛の饗宴」op.17
(アンコール)ビゼー/「アルルの女」組曲第1番〜前奏曲

●演奏
ピエール・ドゥモソー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:水谷晃)



Review by 管理人hs  

6月のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)定期公演マイスター・シリーズの指揮者は,OEK初...どころか日本初登場となる,フランスの若手,ピエール・ドゥモソーさんでした。ドゥモソーさんは,OEKの芸術監督のマルク・ミンコフスキさんのアシスタント等として経験を積みながら,歌劇場を足掛かりに活動の場を広げている指揮者です。



そのプログラムは,「ドビュッシーとラヴェルを外した」フランス音楽特集という冒険的なものでした。時代的には1902〜21年という,第1次世界大戦前後に初演された作品ばかりで,フォーレ以外には,クラ,ルーセル,オネゲルという,一般的にはあまり知られていないフランスの作曲家の作品が並びました。しかも,最初に演奏されたクラの「子供の心」以外は,静かに終わる曲ばかり,ということで,一見,非常に渋い内容だったのですが,まず,ドゥモソーさんとOEKの作り出す見事にブレンド音が素晴らしく,少々短めのプログラムだったにも関わらず,充実感が後にしっかり残る演奏を楽しませてくれました。

この日演奏された曲は,どの曲も弦楽器のちょっとくすんだような音の上に,管楽器が活躍するような感じのサウンドが中心だったのですが,その音の微妙な溶け合い方が素晴らしく,刺激的に突出するようが部分がありませんでした。管楽器などは,ソリスティックに活躍しているのに,しっかり一つの方向性に音がまとまっており,ホール全体に「フランスの音」のフィルターが掛かったような,素晴らしさを感じました。

クラの「子供の心」は,フォーレの組曲「ドリー」と同様,もともとはピアノ連弾(3人の連弾ですが)用の曲を自身でオーケストレーションした曲で,優しい気分をベースとしつつも,豊かな情感の溢れる音楽を楽しませてくれました。

「純粋」「傷つきやすさ」「神秘的」というタイトルのついた3曲から構成されており,それぞれに微妙に違うテクスチュアがありました。特に終曲の「神秘的」は,「昨年,ミンコフスキさん指揮で聞いた「ペレアス」の中にこんな感じの部分があったかな」と思わせるような魅力的な雰囲気でした。確か最後の方に「アビニヨンの橋で」のメロディが出てきたと思いますが,終盤で光が差してくるような感じになるのも面白いと思いました。

フォーレの「ペレアスとメリザンド」を聞くのは,1年少し前,佐渡裕さん指揮兵庫PACオーケストラで聞いて以来のことです。前奏曲から非常に深い響きで,メランコリックな気分があふれ出てくるようでした。エレガントなゆらぎのようなものがあり,ドラマの幕開けにぴったりでした。終盤,ホルンに印象的なモチーフが出てきますが,その内に篭もったような柔らかな音を聞きながら,「これは何を象徴しているのだろう?(ドビュッシーのオペラはそういう象徴だらけだったので)」などと想像を膨らませました。

2曲目の「糸を紡ぐ女」では加納さんの明晰なオーボエ,3曲目の「シシリエンヌ」では松木さんの伸びやかなフルートを楽しむことができました。特に有名なシシリエンヌでは,なども心地よさの中にフッと憂いが漂う感じで,美しさと悲しさが共存したドラマを感じさせてくれました。こういった雰囲気もオペラに共通すると思いました。

終曲「メリザンドの死」は,暗くなり過ぎることなく,深い悲しみがじわじわと滲んでくるような演奏でした。豊かな音で盛り上がった後,再度静かになって終わるのですが,その余韻も素晴らしいものでした。ドゥモソーさんは,どの曲についても,音が消えてからもなかなか体を動かさなかったので,拍手が入るまで結構間がありました。この辺もドゥモソーさんの特徴といえそうです。

後半はオネゲルの「夏の牧歌」から始まりました。この曲では,まず,波に揺られているような弦楽合奏の響きの上で金星さん演奏する,けだるい感じの柔らかいホルンの音が印象的でした。その後も,のどかだけれども弛緩しない独特のムードが続きました。音による風景画といった気分のある,素晴らしい曲の素晴らしい演奏だったと思いました。

最後に演奏された,ルーセルの「蜘蛛の饗宴」は,蜘蛛がゾロゾロ出てくるわけではなく,ファーブルの「昆虫記」にインスパイアされて作られた曲ということで,蟻,蝶々,カゲロウなどが次々出てくるという設定のバレエ音楽(からの抜粋)でした(正確には「昆虫の饗宴」なのかも。この辺はフランス語の語感も問題でしょうか)。)

プログラムの曲目解説によると7つの部分から成っているとのことでしたが,続けて演奏されたので,例えば,どこで蝶々が出てきて,どこでカゲロウが出てきて,孵化して...といったところまでは正確には分かりませんでしたが(「蟻」や「葬送の音楽」の部分は,「雰囲気」で分かりました),各部分の描写が非常に精緻で,庭の中の虫たちによる静かなドラマを見事に描いているなぁと思いました。絵に例えると,厚く塗った油彩ではなく,細めの筆で描かれた細密画を見るような趣きがあると感じました。

曲の最初はフルートによるゆったりとした印象的なモチーフで始まりました。フランスの管弦楽曲は,本当にフルートの活躍する部分が多いなぁと改めて感じると同時に,この日も松木さんが大活躍でした。

そのうちに小太鼓のキレの良いリズムに乗ってキビキビとした動きが開始。この部分は「蟻の登場」と分かりました。全体は20分ぐらいの長さの曲でしたが,リズムの変化に加え,ダイナミクスや使用楽器の変化もあり,視覚を喚起してくれるような楽しさがありました。途中,ヴァオリンの独奏が入ったり,ハープが静かに演奏する中,イングリッシュホルンの音が入ってきたり,緻密な鮮やかさが随所にあったのがとても良かったと思いました。

最後の部分では,冒頭のフルートが戻ってきて「夜のとばりが降りた寂しい庭」のムードになり,静かに締めくくられました。演奏会全体を締める,充実感を感じさせる終わり方でした。ドゥモソーさんの指揮からは,どの部分からも強い表現意欲が伝わってきました。OEKもしっかりとそれに反応し,生き生きとした表情を作っていたのが素晴らしいと思いました。

演奏会全体としては,90分程度で終わったので,「多分,アンコールがあるだろう」と予想していたのですが,そのとおりでした。「フランス物」の場合,ビゼーがアンコールというパターンが結構多いのですが,今回もそのとおりで,「アルルの女」の中から前奏曲が演奏されました。その演奏がまた,非常にドラマティックでした。プログラムの本編の方が静か目だったので,「プロヴァンス陽光」(勝手に想像しているだけですが)が差してきたようなコントラストの強さを感じました。

「アルルの女」の場合をアンコールで使う場合,熱狂的に終わる終曲の「ファランドール」が使われることが多いのですが,この日は第1組曲の最初の「前奏曲」が使われていました。弦楽器を中心とした強靱な音とオペラ劇場でも活躍されている指揮者らしい音楽の盛り上げ方が強烈なインパクトを残してくれました。この曲は,前半が終わった後,深い苦悩を表すような後半が続くので,2曲演奏されたように感じました。このまま,第1組曲全部演奏してしまいそうなぐらいの勢いを感じました。

ドゥモソーさんの指揮台での動作は,まだ若い指揮者らしく,少々バタバタとした感じがありましたが,是非,ドゥモソーさんの指揮で,フランス・オペラの全曲などを観てみたいものだと思いました。公演プログムで潮博恵さんが書かれていたとおり,日本では知られていない注目の若手が,ミンコフスキさんを通じたネットワークで,全国に先駆けて金沢のステージに登場したののは素晴らしいことだったと思います。これも「ミンコフスキ効果」の一部といえそうですね。

(2019/06/12)





公演の立看板。今回から2回分を1枚に収める形になったようですね。


こちらは公演のポスター


開演前のロビーコンサート。今回は,木管三重奏。トリオ・ダンシュというやつですね。あし笛トリオですね。

ドゥモソーさんのサイン会がありました。

上に書いてある文字は,「ボルドーから」でしょうか。ペンが太過ぎたかも...