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オーケストラ・アンサンブル金沢第416回定期公演フィルハーモニーシリーズ
2019年6月19日(水) 19:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ブリテン/フランク・ブリッジの主題による変奏曲, op.10
2) ブラームス/ヴァイオリン協奏曲ニ長調, op.77
3) ベートーヴェン/交響曲第4番変ロ長調, op.60

●演奏
オーケストラ・アンサンブル金沢(リーダー:コリヤ・ブラッハー,コンサートマスター:水谷晃)
コリア・ブラッハー(ヴァイオリン)



Review by 管理人hs  

この日は,6月2回目となるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演フィルハーモニー・シリーズを聞いて来ました。リーダー&ヴァイオリンは,元ベルリン・フィルのコンサートマスター,コリヤ・ブラッハーさんということで,OEK名物といっても良い,弾き振りによるコンサートでした。



6月の定期公演では,10日ほど前に,フランス音楽特集を聴いたばかりですが,今回はブラッハーさんのリードの下,同じオーケストラとは思えないほど強靱な響きのドイツ音楽を聴かせてくれました。この適応力の高さがOEKの素晴らしさだと思います。

この日はブラッハーさんの隣に,ゲスト・コンサートマスターの水谷晃さんも座っていらっしゃいましたが,この2人を中心に,弦楽器の各パートのボウイングの動きが,いつもよりかなり大きく,演奏された3曲とも,非常にパワフルで伸びやかな音を聴かせてくれました。聴いたことがないので推測なのですが,ベルリン・フィルが室内オーケストラ編成で演奏したらこんな感じなのかも,と思いながら聞いていました。

演奏会の最初は,弦楽合奏のみで演奏された,ブリテンの「フランク・ブリッジの主題による変奏曲」で始まりました。これがまた,素晴らしい曲の素晴らしい演奏でした。最初,プログラムの並びを見た時,「それほど長い曲ではないかな?」と思ったのですが,実際には30分近くある変化に富んだ作品で,その後に演奏されたドイツ音楽同様,OEKの弦楽セクションのゴージャスさにしっかり浸ることができました。

まず「変奏曲」と言いながら,「主題」が結構わかりにくいのが,英国的かもと思いました。パンと強靱な低音で始まった後,結構複雑なハーモニーが続き,どこか幻想的な雰囲気で始まりました。続いて10個の変奏が続きます。きびきびとした行進曲調の曲,極上の弦がしたたるような美しさを聞かせる曲,第2ヴァイオリンやヴィオラなどがギターのように伴奏をかき鳴らすイタリア風アリア,ウィンナワルツのパロディのような曲...プログラムの解説には,「ブリテンの出世作」的なことが書かれていましたが,そのとおりと思いました。

第7変奏「無窮動」では,各パートが競い合うように演奏し,高音から低音へと音が動いていくのが面白かったですね。この日の弦楽器の配置は,対向配置でなかったので,音が舞台左側から右側にスムーズに流れていくようでした。そして最後の「フーガとフィナーレ」の第10変奏となります。この変奏がいちばん長く,雰囲気的にも全体のクライマックスとなっていました。この部分で初めて,主題がはじめてくっきり出てくるようで,しっっかりとメロディが出た後,最後はしみじみとした感じで終了しました。

ブラッハーさんのリードの下,弦楽器の色々な奏法や多彩な表情を味わうことができました。最初から大変聞き応えのある演奏でした。

2曲目に演奏された,ブラームスのヴァイオリン協奏曲は,OEKの定期公演に登場する機会の少ない作品です。この曲が弾き振りで演奏される機会は,さらに少ないと思います。この曲では,さすがにブラッハーさんは立って演奏しており,オーケストラのみの部分では,しっかり指揮をしていました。

まず,独奏ヴァイオリンが登場するまでのオーケストラの響きが素晴らしいと思いました。室内オーケストラとは思えないような厚みのある音がしっかり鳴っていました。渋くガッチリとした雰囲気のある,地に足の着いた音楽は,ブラームスにぴったりでした。

思索にふけるような気分に続いて,ブラッハーさんの気負い過ぎずにしっかりと聞かせるソロが始まりました。渋すぎず,甘すぎず,端正でもあり,力感もあり...ということで大変バランスの良い演奏だったと思います。指揮者なしということで,ブラッハーさんの凜とした音を中心とした求心力が素晴らしく,ソロとオーケストラが一丸となって,堂々とした密度の高い音楽を聞かせてくれました。ブラームスの曲自体の立派さがストレートに伝わってくるような演奏だったと思います。カデンツァの部分などもケレン味や大げさな身振りはなく,全曲の中で目立ち過ぎることがありませんでした。第1楽章最後の,深く沈潜していくような気分も素晴らしいと思いました。

第2楽章は,水谷さんによるくっきりとしたオーボエで始まった後,ブラッハーさんの落ち着きのあるしっとりとした音へと引き継がれて行きました。途中,独奏ヴァイオリンとオーケストラが掛け合いをしながら演奏する部分がありましたが,こういう部分では,ブラッハーさんと各首席奏者とが表情を確認し合いながら演奏しているような感じで,ジャズのセッション風の感じがあると思いました。その中でどんどん音楽が深まっていくのが印象的でした。

第3楽章は堂々とした力強い音楽で,イメージどおりの「ドイツ風」の音楽になっていたと思いました。音楽に勢いがあり,自由自在に演奏している感じでしたが,浮かれた感じにはならず,音楽のまとまりが継続していました。最後の部分も,速めのテンポで力強く締めてくれました。

後半は,ベートーヴェンの交響曲の中では「軽め」の印象のある第4番だけだったので,前半(1時間以上ありました)の重さに太刀打ちできるだろうか,と聞く前は少し思っていたのですが,心配は不要でした。惚れ惚れするような立派な演奏でした。

第1楽章の序奏部は,非常に深い音で始まりました。ホルンとか低弦の響きが非常によく効いており,独特の凄みをもった迫力を感じました。いつも聞くのとは少し違った,対旋律が聞こえてきたり(多分),何が始まるのだろうという期待に満ちた導入部でした。

序奏から主部に移行する部分では,うなるように,じ〜っくりと力感を増していき,力強く主部が始まる部分は,非常に鮮烈でした。これにはシビれました。木管楽器などの音の動きも明快で,聞かせるなぁと思わせる部分が次々と続きました。呈示部の繰り返しがありましたが,もう一回聞けて,大満足という演奏でした。その後も音楽に勢いと力がありました。曲の随所に出てくる,爆発力が素晴らしい演奏でした。

第2楽章はかなり速めのテンポで始まりました。基本リズムの躍動感が印象的で,一般的な緩徐楽章のイメージとは違っていたのですが,その生き生きとした音楽は魅力的でした。そしてその後に続く,遠藤さんのクラリネット。この部分での一音一音がくっきりと演奏されたソリスティックが演奏が見事でした。ホルンの聞かせどころ,最後に静かに出てくるティンパニなど,ソリスティックな魅力満載の演奏でした。

第3楽章も速めのすっきりとしたテンポでした。すべての音がしっかり聞こえる充実感がありました。トリオの部分も流れの良い,自在さのある演奏でした。

第4楽章も十分速いテンポでしたが,各楽器がしっかりと弾き切れるようなテンポ感で一つ一つの音の迫力が素晴らしいと思いました。軽快さとどっしりとした感じが両立しており,どこかゴージャスな雰囲気も感じさせてくれました。元オーケストラのメンバーらしい,納得できるテンポ設定だったと思いました。曲の最後の部分は,じっくりと間を取って,ファゴットがとぼけた味を出した後,低弦のもの凄い勢いに続いて,パワフルな響きで全曲を締めてくれました。全曲を通じて,弛緩することのない自信に溢れた音楽を楽しませてくれました。

というわけで,前半後半ともに大変充実した演奏の連続でした。OEKの定期公演では,最後に,コンサートマスターに合わせて,一同礼をして「お開き」となるのですが,このタイミングだけは,難しいようで,ブラッハーさんはお隣の水谷さんに確認しながら「礼」をしていました。この部分は微笑ましかったですね。

OEKは,ヴェンツェル・フックスさん,安永徹さんをはじめ,ベルリン・フィル関係者とつながりが大きいオーケストラだと思いますが,ブラッハーさんには,是非また客演していただきたいと思いました。

(2019/06/27)





公演の立看板

公演のポスター


ブラッハーさんのサイン会があったので参加

少々意外だったのですが,プーランクの室内楽作品全集の2枚組CDのメンバーとして,ブラッハーさんが参加していたので,このCDのジャケットに頂きました。