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移りゆく時代,挑戦する作曲家:「フランス近代絵画と珠玉のラリック展」記念コンサート
2019年8月12日(月・振休)石川県立美術館ホール

1) ドビュッシー/チェロ・ソナタ
2) シューマン/アダージョとアレグロ 変イ長調,op.70
3) 瀧廉太郎/荒城の月
4) 成田為三/浜辺の歌
5) 山田耕筰/この道
6) サティ/ジムノペティ第1番
7) サティ/ジュ・トゥ・ヴ
8) イザイ/無伴奏チェロ・ソナタ, op.28〜第1楽章
9) カサド/愛の言葉
10) (アンコール) フォーレ/シシリエンヌ

●演奏
ルドヴィート・カンタ(チェロ*1-6,8-10),鶴見彩(ピアノ*1-7,,9-10)



Review by 管理人hs  

石川県立美術館で行われている「フランス近代絵画と珠玉のラリック展」に合わせて,「移りゆく時代,挑戦する作曲家」と題して行われた無料コンサートを聞いてきました。演奏は,お馴染みのルドヴィート・カンタさんのチェロと鶴見彩さんのピアノによるデュオでした。





# カンタさんは,前日の夜,金沢城公園玉泉院丸庭園で「ロック」を演奏していましたね。連日,兼六園周辺で幅広く大活躍ですね。

プログラムのコンセプトは,展覧会の出展内容に合わせ,ドビュッシー,サティ,フォーレなど19世紀から20世紀初頭のフランスの作品が中心でしたが,もう少し幅を広げ,同時代に活躍した瀧廉太郎,成田為三,山田耕筰といった日本人作曲家の作品も取り上げていました。展覧会と同時代の気分をヨーロッパと日本に分けて楽しむことができました。

県立美術館のホールは,ややデッドですが,非常に音がクリアに聞こえますので,室内楽の演奏会にはぴったりです。曲想に応じた,2人の奏者の音の変化の面白さをしっかり楽しむことができました。



ドビュッシー最晩年のチェロ・ソナタには,楽章ごとにちょっとひねったようなキャラクターのある曲です。カンタさんの演奏は,第1楽章での枯れたような味,第2楽章でのユーモアを持った味,第3楽章の伸びやかな気分まで,色々な音を聞かせてくれました。鶴見さんのピアノの音には目の覚めるような鮮やかさがあり,演奏全体が引き締まって聞こえました。

次のシューマンの「アダージョとアレグロ」は,展覧会のテーマから外れる作品でしたが,これもまた素晴らしい演奏でした。チェロの音は人間の声に近いと言われています。まさにそういう演奏で,前半は秘めた思いがしっかりと歌われ,後半ではそれが一気に湧き上がってきました。その流れがとても良いと思いました。カンタさんのほのかに甘い音色を聞きながら,たとえて言うなら「午後のミルクティー」といったところかなと思いました。鶴見さんのピアノもカッチリとした雰囲気とロマンを秘めたまろやかさが同居しており,シューマンの気分にぴったりだと思いました。お二人の息もぴったりでした。

続いて,お馴染みの日本歌曲3曲が演奏されました。過去にもカンタさんの演奏で聞いたことがありますが,何というかカンタさんの十八番といっても良いと思います。「荒城の月」での渋みのある落ち着きと美しさ。「浜辺の歌」では,静かに始まった後,テノールが歌うような感じで盛り上がり,また静かに戻るという,「波」のような大きな抑揚を感じました。「この道」は,日本語の語感を大切にした作品だと思いますが,特にしみじみとした味わい深さを感じました。誰もが納得という演奏だったと思います。

サティの「ジムノペディ第1番」は,鶴見さんの独奏でした。サティは,自分の音楽を「家具の音楽」と呼んでいたようですが,そのことを思わせるような,空調のよく効いた室内で効く快適音楽という感じだったと思います。鶴見さんのクリアですっきりとした演奏は,猛暑の中の清涼剤になっていました。

サティのジュ・トゥ・ヴの方は,チェロとピアノによるデュオで演奏されました。珍しい組み合わせだと思いますが,これが良かったですね。途中,ピアノがメロディを演奏する部分が入って,役割が変わる部分があったので,どこか2人の男女が粋な会話をしているようなムードがあると感じました。

イザイの無伴奏チェロ・ソナタは,カンタさんの独奏でした。その第1楽章がじっくりと演奏されました。カンタさんは「あまり人気がない暗い曲,イザイもそんな人」と語っており,確かにそういう曲でしたが,以前もこの曲を演奏するのを聞いたことがありますので,実はお好きな曲なのだと思います。バッハの無伴奏を思わせるような気分の中に,色々なドラマをため込んでいるような,重さのある作品だと思いました。

最後は,カサドの「愛の言葉」で熱く締められました。最初のピアノの音から,どこかラテン風の気分があり,今の季節の気分にもぴったりでした。ただし,明るさの中に陰があるのも南ヨーロッパ風だなと思いました。

アンコールでは,フォーレのシチリアーノが演奏されました。一般的にはフルートのイメージのある曲ですが,チェロで演奏するとよりしっとり感が増すと思いました。

展覧会の方は,既に別の日に観ていたのですが,バルビゾン派,印象派,エコール・ド・パリなどの絵画作品に加え,ルネ・ラリックによるアールデコのガラス工芸作品が多数展示されているのが特徴です。個人的には,ラリックの涼しげな作品にちなんだミニ・コンサートを行ってもらっても面白そうと思いました。

それにしても,夏の美術館は,避暑にも最適です。石川県立美術館は21美ほど混雑していないのも良いですね。

(2019/08/15)




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