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IMAライジングスターコンサート2019
2019年8月18日(日)17:00〜 石川県立音楽堂交流ホール

1) パガニーニ/24のカプリース〜第17番
2) サン=サーンス/序奏とロンド・カプリチオーソ
3) サラサーテ/カルメン幻想曲
4) ストラビンスキー/組曲「火の鳥」から
5) バラキレフ/夜想曲 変ロ長調
6) シューマン/アダージョとアレグロ
7) バラキレフ/子守歌 変ニ長調
8) ショスタコーヴィチ/ピアノ・ソナタ第1番
9) ショーソン/詩曲
10) フバイ/カルメンによる華麗な幻想曲

●演奏
竹内鴻史郎*1-2,前田妃奈*3,荒井里桜*9,ウンジュン・パク*10(ヴァイオリン),江口友理香*6(チェロ),ジュヒ・イム*4-5, 小竹島紗子*7-8(ピアノ)
ピアノ伴奏:横田知佳*2-3,9,鶴見彩*6,ユン・ジュンカン*10



Review by 管理人hs  

夏の高校野球の準々決勝,星稜対仙台育英の試合を見終わった後,いしかわミュージックアカデミー(IMA)のライジングスターコンサートを聞きに行こうと思っていたのですが...予想以上に星稜高校の打線が好調で,なかなか試合が終わりません。10点差ぐらいになったところで,「このまま行けそう」と思い,石川県立音楽堂に出かけました。

IMAは,「専門的な演奏技術と音楽性を学び取る国際性あふれる音楽セミナー」として,1998年から金沢市で行われているもので,今年で22年目となります。そのライジングスターコンサートは,過去IMA音楽賞・奨励賞を受賞した受講生や,国内外のコンクールで入賞経験のある優秀な受講生が出演するコンサートです。

ほとんど毎年聞いているのですが,そのレベルは非常に高く,その後,ソリストやプロのアーティストとして活躍している人も沢山います(近年では,ヴァイオリンの辻彩奈さんなど)。今年もまた,高度な技と鮮やかな表現力の饗宴のような演奏を楽しんできました。



以下,それぞれの演奏の印象です。どの演奏もインパクトが強く,後から思い出せるような内容だったのが素晴らしいと思いました。

1 竹内鴻史郎(ヴァイオリン) 2017IMA奨励賞,2018IMA音楽賞
2005年生まれということで...まだ中学生の年齢だと思います。パガニーニのカプリースの最初の音からテンションが高く,力強く引き締まった音に引きつけられました。サン=サーンスの序奏とロンド・カプリチオーソも前半と後半の気分が鮮やかでした。どの音もしっかり,生き生きと鳴り,伸び伸びと音楽が突き進んでいくのが素晴らしいと思いました。

2 前田妃奈(ヴァイオリン) 2018IMA奨励賞
IMAライジングコンサートでは,「カルメン」系の曲がよく演奏されますが,前田さんが演奏したのは,サラサーテの幻想曲でした。静かな部分からも,内に秘めた熱さが伝わってくるような演奏でした。「ハバネラ」の部分でのフラジオレットの美しさなど,多彩な音と表現が素晴らしいと思いました。最後の「ジプシーの踊り」でのテンションの高さにも引きつけられました。

3 ジュヒ・イム(ピアノ) 2018IMA音楽賞
まず,ストラヴィンスキーの組曲「火の鳥」の中から有名な「魔王カスチェイの凶悪な踊り」「子守歌」「終曲」が演奏されました。この演奏ですが,最初の音からもの凄いインパクトがありました。オーケストラ版でもインパクトがありますが,今回の演奏には独奏ならではの切れ味の鋭さと集中力があり,一瞬も目を離せないような魅力がありました。グリッサンドが頻繁に出てくる,非常に華やかな演奏で,技巧の切れ味と硬質な音色に圧倒されました。「子守歌」から「終曲」までの部分も,曲想に応じた音の質感の変化が素晴らしく,スケールの大きさを感じました。

後半に演奏されたバラキレフの夜想曲は,「火の鳥」のアンコールを聞くような,心地良さがありました。深く素直な歌でした。

この後,15分休憩が入りました。



4 江口友理香(チェロ) 2018年IMA奨励賞
今回,登場したチェロ奏者は,江口友理香さん一人だけでした。演奏されたシューマンのアダージョとアレグロは,つい1週間ほど前に石川県立美術館で,ルドヴィート・カンタさんの演奏で聞いたばかりだったので(ピアノの方は,どちらも鶴見彩さん),図らずも聞き比べになりました。

江口さんの演奏には,丁寧に楷書で書かれた書を見るような清々しさがありました。ロマンティックな味わいについては,カンタさんの方が勝っていた気がしましたが,後半のアレグロの部分での感情が大きく盛り上がるような若々しい感じが良いなぁと思いました。

5 小竹島紗子(ピアノ) 2014年IMA音楽賞
最初に演奏されたバラキレフの子守歌には,静かで深い美しさが広がっていました。ジュヒ・イムさんの演奏した曲と合わせて,バラキレフのピアノ作品に注目したくなりました。
もう1曲,ショスタコーヴィチのピアノソナタ第1番が演奏されました。こちらはプロコフィエフのピアノ曲を思わせるような打楽器的な面白さがありました。小竹島さんの演奏からは,強烈なリズム感と前衛的な凄みが感じられました。こういうクールな感じのピアノも良いなぁと思いました。

6 荒井里桜(ヴァイオリン) 2018IMA音楽賞
このライジングスターコンサートでは,ヴァイオリンについては,実は,毎年同じような曲が繰り返し演奏されています。具体的に言うと,「カルメン」系の曲,サン=サーンスのヴァイオリン曲,ショーソンの詩曲です。技巧的な面を楽しむか,表現力を楽しむかで分かれる感じなのですが,毎年のように聞いていると,やはり,ショーソンの詩曲の方に聞き応えを感じます。

今年は,荒井里桜さんが,この「詩曲」を演奏しました。客席との距離の近い交流ホールならではのリアルさのある音から,熱く歌い上げるような「情」がしっかり乗った音まで,臨場感たっぷりの音楽を聞かせてくれました。とてもテンションの高い音楽でしたが,それが押しつけがましくなく,バランスの良さと流れの良さがあるのが素晴らしいと思いました。

荒井さんは,既に昨年の日本音楽コンクールで第1位を取っている方ですが,これからさらに海外での活躍が増えてくるのではないかと思います。

7 ウンジュン・パク(ヴァイオリン) 2018IMA音楽賞
演奏会のトリは,フバイ作曲の「カルメンによる華麗な幻想曲」でした。「華麗な」が付いているだけあって,サラサーテの「カルメン幻想曲」よりさらに技巧的な曲だった気がしました。パクさんは,いかにもパワーがありそうな体格の方でしたが,その音も素晴らしく,聞き惚れました。最後の「闘牛士の歌」(だったと思います)で軽々と装飾音を入れるあたりも,技巧的な部分でも余裕たっぷりに聞かせるのが凄いと思いました。



というようなわけで,例年どおり,特に技巧的な面での最高水準の演奏が続く演奏会を堪能しました。

今年のIMAでは,過去IMAに参加した弦楽器奏者がオーケストラ・アンサンブル金沢に加わって,チャイコフスキーやラフマニノフの曲を演奏するという楽しみな演奏会も行われます。IMAについては,水準の高さの割に金沢市民にはまだまだ定着していないところがありますので,この公演をきっかけに地元での注目度がもう少し高まって欲しいものだと思います。

(2019/08/21)




公演の案内。手書きでアピールしていました。

ピアノの公開レッスンの会場にもなっていました。今年は野島稔さんも講師として参加しています。