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Iいしかわミュージックアカデミー フェスティバル・コンサート
2019年8月25日(日)14:00〜 石川県立音楽堂コンサートホール

1) ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番ハ短調, op.18
2) チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調, op.64
3) チャイコフスキー/弦楽セレナード〜ワルツ

●演奏
黄維明指揮いしかわミュージックアカデミー出身者とオーケストラ・アンサンブル金沢によるフェスティバル・オーケストラ(コンサートマスター:伊藤亮太郎)
古海行子(ピアノ*1)



Review by 管理人hs  

毎年,8月後半に石川県立音楽堂などを中心に行われている,いしかわミュージックアカデミー(IMA)関連で行われた,IMAフェスティバル・コンサートを石川県立音楽堂コンサートホールで聞いてきました。


IMA関連では,例年,IMAの講師のアーティストとオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)メンバーが共演する室内楽の演奏会が行われてきたのですが,今回は趣向を変えて,IMA出身の若手弦楽奏者がOEKに加わっった特別編成のオーケストラによるコンサートとなりました。今回参加した皆さんは次のとおりです。

(ヴァイオリン)伊藤亮太郎,入江真歩、城戸かれん、坂口昌優、関 朋岳、坪井夏美、毛利文香、吉江美桜
(チェロ)上村文乃、増山頌子、松本亜優

全メンバーは次のとおりでした。


世界的なコンクール等での入賞者を多数含む豪華メンバーです。この中で,現在,NHK交響楽団のコンサートマスターを務めている伊藤亮太郎さんが,今回のオーケストラのコンサートマスターも務めました。その他,OEKメンバーの青木恵音さん,ソンジュン・キムさんもIMA出身者です。

演奏されたのは,ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番とチャイコフスキーの交響曲第5番というロシア音楽の名曲2曲でした。チラシには「特別編成」と書かれていたので,かなり大きな編成になるのかなと思ったのですが,そこまで大きな編成ではなく,通常のOEKの弦楽セクションに2名ずつ追加されたような形になっていました。ただし,その効果は素晴らしく,両曲の随所に出てくる,甘いメロディの部分で効果的で,いつも以上に濃厚なカンタービレを楽しむことができました。

ただし...演奏全体としては,指揮者の黄維明さんのテンポ設定が遅めで,特に後半に演奏されたチャイコフスキーの交響曲第5番で音楽の流れがどこか停滞しているように感じました。第1楽章の冒頭,OEKの遠藤さんのクラリネットでじっくりと始まった後,その後に続く,オーケストラ全体流れが,どこかもったいぶった感じに聞こえました。

第2楽章もゆったりとしたテンポでした。ホルンの独奏の部分は金星さんのヴィブラートのしっかりと掛かった甘い音が印象的でした。第3楽章のワルツは,もう少し流動的な感じの方が良いかなと感じました。

第4楽章はめくるめくように曲想が変わり,次々と違う景色が見えてくる...ような演奏を期待していたのですが,ずっと同じ景色が続く...といった印象を持ちました。もちろん弦楽セクションはしっかりと鳴り,管楽器も輝かしい音を出し,ティンパニが要所で強烈にくさびを打ち込んでいたのですが,どうも音楽が熱く盛り上がらない気がしました。音楽の枠組みは大きく,美しく,強い部分も沢山あるのだけれども,どこか物足りない,そういった印象を持ってしまいました。

アンコールでは,OEKのお得意のレパートリーの一つである,チャイコフスキーの弦楽セレナードの中のワルツが演奏されました。この手の曲を聞くと...井上道義さんの指揮による流れるような演奏が懐かしくなります。

前半のラフマニノフは,堂々たる音楽でした。この曲では独奏の古海行子さんのピアノが素晴らしいと思いました。古海さんもIMAの出身者で,第4回高松国際ピアノコンクールで優勝し,注目を集めている若手ピアニストです。OEKとは,池辺晋一郎さんによる「ベスト100」企画のソリストとして既に共演済で,その時から注目をしていました。実は,今回は古海さんによる協奏曲演奏の全曲を聞けるのを楽しみに聞きに来た面もありました。

古海さんのピアノは第1楽章冒頭の「鐘」の音のような和音の部分から響きが美しかったですね。フェスティバルオーケストラの低弦の音にも透明感があり,非常に良くマッチしていました。古海さんの演奏は,大変誠実で,特に抒情的なメロディの甘くなりすぎないじっくりとした歌わせ方が良いと思いました。

第2楽章は古海さんの落ち着きのあるピアノの伴奏の上に遠藤さんのフルート,松木さんのフルートの順に伸びやかな演奏が続き,広々とした世界へと誘ってくれるように感じました。カデンツァも鮮やかでしたが,派手過ぎず,じっくりと聞かせてくれました。

古海さんの演奏は,スケールの大きなピアノ,という感じはしませんでしたが,第3楽章でも,地にしっかりと足のついた,ハッタリのない真面目な音楽を聞かせてくれました。きっとラフマニノフ以外の作品についても,良い演奏を聞かせてくれるのではと思いました。オーケストラの音では,特にチェロ・パートの熱く盛り上がるような歌がこの曲に合っていると思いました。

今年は,昨年まで行っていたIMA講師とOEKメンバーによる室内楽企画が聞けなかったのは残念でしたが,IMAの同窓生とOEKとの合同演奏企画というのは,良いアイデアだと思います。”フェスティバルオーケストラ”という名前にしては,会場の雰囲気は地味目でしたが,IMAとのコラボで,やや大きめの編成の曲を取り上げる企画は,これからも継続していって欲しいと思いました。

(2019/08/31)




公演の立看板


公演の案内

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