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オーケストラ・アンサンブル金沢 高岡特別公演 with #合唱団OEKとやま
2019年9月7日(土) 15:00〜 高岡文化ホール 大ホール

1)岩河三郎/富山に伝わる三つの民謡
2)コダーイ/ブダ城のテ・デウム
3)コダーイ/ミサ・プレヴィス
4)(アンコール)ふるさと

●演奏
山下一史指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
金川睦美(ソプラノ*2-3),高野百合絵(メゾ・ソプラノ*2-3),近藤洋平(テノール*2-3),渡辺洋輔(バリトン*2-3)
合唱:合唱団OEKとやま



Review by 管理人hs  

富山県の高岡市で行われた,オーケストラ・アンサンブル金沢 高岡特別公演 with 合唱団OEKとやまを聞いてきました。この公演は,過去2回は,8月末に富山市で行われていましたが,今回は少し時期が遅くなり,場所を高岡市に変えて行われました。


ホールの外観と入口付近を上から見下ろしたところ

この合唱団の前身の「合唱団おおやま」との共演の時は,あまり知られていない作曲家による「知る人ぞ知るレクイエム」の名作を取り上げるのが恒例でしたが,一昨年,「合唱団OEKとやま」の名称に変わってからは,ヴェルディのレクイエム,ベートーヴェンのミサ・ソレムニスとメジャーな路線に変更した感じでした。今年はどうなるのかな...と思っていたのですが,今年度はしっかり(?)当初のマイナー路線に戻ってくれました。



メインで演奏されたのは,20世紀ハンガリーの作曲家,コダーイによる,ミサ・ブレヴィス(小ミサ曲)でした。コダーイは,有名な作曲家ですが,そのミサ曲となると,北陸地方で演奏される機会はほとんどないと思います。選曲については,いつも合唱団側から出されているようですが,最初,指揮の山下一史さんが「本当にできる?」と言ってしまったぐらいに難しい作品とのことです。

この作品が後半に演奏されましたが,非常に良い曲だと思いました。そして,「歌いたい」という意欲が伝わってくる素晴らしい演奏だったと思いました。「小ミサ曲」ということで,ミサ曲にしては,やや小ぶりでしたが,それでも30分以上はありました。楽器編成的には,ミサ曲には定番のトロンボーン3本に加え,テューバも入っていました。トランペットの3本,ホルンも4本ということで,OEKの編成は金管楽器がかなり増強されてしたことになります。こういった楽器が加わることで,OEKは冒頭からパイプオルガン的な響きを出していました。

特にテューバの低音とティンパニの音が効果的だと思いました。客演ティンパニの菅原淳さんの演奏は,オルガンのペダルを思わせるようなところがあり,ブルックナーの交響曲に通じる落ち着いた迫力がありました。

曲の雰囲気的には,特にハンガリー風という感じはなく,むしろオーソドックスな感じでした。キリエの中間部の「キリストよあわれみたまえ」と歌う部分は,ソプラノ3人だけで歌っていたのも伝統的な感じがしました。この3人の清澄な声が印象的でした。

グローリア,クレドといった曲の最初の導入の一節では,テノール独唱の近藤洋平さんが語るように歌って導入するあたり,本物のミサ(参加したことはないのですが)の気分がありました。途中,メゾ・ソプラノ独唱の高野百合絵さんが「われらをあわれみたまえ」と歌う部分の深くしっとりとした感じも良いと思いました(高野さんがOEKと共演するのは,今年5月の北陸新人登竜門コンサート以来のことですね)。グリーリアの最後の部分は,山下一史さんの指揮らしく熱く盛り上がり,ビシッと締めてくれました。

クレドでは,途中,イエスの生涯を語るような部分が続くのですが歌詞の内容に沿って,生き生きと曲想が変わっていきました。オーソドックスな雰囲気はありましたが,やはり20世紀の作品ということで,音のダイナミックレンジが広く,変化に富んだサウンドを楽しむことができました。どこかキラキラとした感じがあり,最後は「アーメン」と大らかに締めてくれました。

サンクトクスからベネディクトゥスでは,まず,最初のオーボエの加納さん,ファゴットの柳浦さんなどによるしみじみとした演奏がいつもながら良いなぁと思いました。「天のいと高きところにホザンナ」という部分は両曲の最後に出てきます。ミステリアスだけれども希望を感じさせるハーモニーを楽しむことができました。

アニュス・デイでも,各独唱者の深々とした歌が良いと思いました。この曲でも最後の部分で,ティンパニの音をベースにダイナミックに盛り上がった後,「キリエ」の部分が再現し,どこか救われたような気分にさせてくれました。

合唱団は,自身で選曲しただけあって,「歌いたい」という意欲がしっかりとした声となって伝わってきました。大編成のオーケストラに負けない力を感じました。OEKとのバランスの良さは,22回も共演している,この合唱団とOEKのつながりの強さによると思いました。

この曲は第2次世界大戦の末期に書かれ,演奏されているのですが,終盤の曲に出てくる「平和への祈り」が特に切実なものに感じられました。ベートーヴェンのミサ・ソレムニスのように「アニュス・デイ」で終わるのも良いのですが,この曲では「イテ・ミサ・エスト」という「平和を与えてくれた神に感謝」する楽章で終わっていました。作曲当時の状況を考えると,少し不安で不穏な雰囲気を持ちながらも,希望を感じさせ,聞き手を励ますような歌だったと感じました。「民衆の喜び」がわき上がり,どこか東欧的な雰囲気が漂うような力強い演奏だったと思いました。

ホールの響きについては,もう少し残響が豊かな方が良いかなと思いましたが,その分,コダーイの作品のもつ,クールな性格や生々しい迫力がしっかりと伝わってきた気がしました。こういう素晴らしい曲を実演で聞けたことに感謝したいと思います。

前半の最後では,もう1曲コダーイ作曲による「ブダ城のテ・デウム」という作品が演奏されました。こちらの方はもう少しコンパクトな作品でしたが,ミサ・ブレヴィスと全く同じ編成による,充実した響きに満たされた,聴きごたえのある作品でした。何より,冒頭,金管楽器が華やかに活躍する部分をはじめ,全体の雰囲気がとても格好良い曲だと思いました。

4人の独唱者(全員,富山県出身者でした)の歌には,それぞれ,瑞々しさがあり,宗教音楽に相応しい雰囲気があると思いました。特に,「テ・デウム」の最後の部分に出てきた,ソプラノの金川睦美さんのソロが印象的でした。曲の最後がソロになることで,祈りの気分がより切実なものに感じられました。金川さんの声には,あふれるような感動が込められていました。

コダーイの2曲は,滅多に演奏されない作品ですが,機会があれば再度聞いてみたいものです。

演奏会の最初には,富山県出身の作曲家,岩河三郎さんによる「富山に伝わる三つの民謡」という合唱とオーケストラのための作品が演奏されました。民謡を素材にした曲ということで,コダーイの曲と組み合わせるのにぴったりだと思いました。

この作品は,簡単に言うと富山県の3つの民謡を合唱曲に編曲したものなのですが,民謡本体の前に,イメージを含ませるような序奏的な部分が付いているのが特徴です。オリジナルの歌詞も付いているので,ジャズのスタンダードナンバーで言うところの「ヴァース」のような感じのイメージに近いと思いました。

全体の雰囲気は,少し懐かしさを感じさせるぐらい親しみやすさがあり(懐かしのテレビドラマを見るような感じ),各曲とも気持ちよく盛り上がります。聞いていても心地良かったのですが,歌っていても気持ちの良い作品なのでは,と思いました。富山県の合唱団にとっては,特に大切な作品なのではと思いました。石川県にも,こういう合唱曲が欲しいな,とも思ったのですが,「越中おわら」と「こきりこ」に匹敵するような有名な民謡は石川県にはないかもしれないですね(山中節ぐらい?)。

この曲では,日本語の歌詞が大変クリアに聞こえてきたが良かったと思いました。1曲目「越中おわら」の最初の部分の生々しい声を聞いて,ぞくっとしました。「歌われよ...」の部分からのオリジナルの部分になりますが,最後の「夜が更ける...」の部分のしっとりとした感じが特に素晴らしいと思いました。

2曲目「こきりこ」は,最初の「雪が降る,しんしんと...」という歌詞を聴いて,「あー越中日本海みそ」のCMのイメージが湧き上がってしまいました。「こきりこ」といえば,ササラという木製の楽器も必須ですね。この音が,「デデレコデン」の繰り返しとともに心地良く響いていました。

3曲目「むぎや」は富山のどこの民謡か知らないのですが,「平家の落人」という歌詞があったので,やはり南砺市方面なのでしょうか。ホルンの力強い響きで始まっていましたが,このパターンは日本の民謡によく合います。外山雄三さんの作品を思わせる感じでした。最後の曲ということで,特に合唱の声が力強く,輝きがありました。途中からは,「気分は盆踊り」といった感じになり,ぐっと盛り上がって締めてくれました。

この日のOEKは,金管楽器をはじめとして客演の方が多かったのですが,コンサートマスターがベルリン・フィルの町田琴和さん,ヴィオラのトップが東京フィルの須田祥子さん,チェロのトップがルドヴィート・カンタさんと,お馴染みの有名ソリストが集まっている感じで,万全の演奏だったと思います。上述のとおり,ティンパニも常連の客演奏者の菅原淳さんが担当しており,パイプオルガンのペダルのような音を見事に表現しいました。

今回の会場の高岡文化ホールに行くのは初めてだったのですが,大きさ的にはOEKにぴったりのサイズでした。多目的ホールということで,もう少し残響があると良いかなと思う部分もありましたが,その分,各楽器の音がしっかりと聞こえて来て,特に管楽器のソロなどをしっかり楽しむことができました。「こきりこ」の部分での,松木さんのフルートソロなどが特に印象的でした。

本日は実験的に北陸自動車道も国道8号線も使わず,「山の方」から車で高岡に行ってみたのですが,我が家からは70分ほどで到着しました。駐車料金も掛からなかったので,今後も機会があれば,高岡には来てみたいなと思いました。

 
高岡文化ホールの友の会の演奏会。金沢とはまったく重なっていない公演ばかりなので,そのうち,行ってみたいと思います。

この公演が終わると,「夏の終わり」の気分になります。ここ数日,再度,夏の暑さが復活してきているのですが,行き帰りのドライブも含め,気持ちよく夏の最後の休日を楽しむことができました。

 

(2019/09/13)



公演のポスター


予定よりかなり早く着いてしまったのですが,開場待ちの列ができていました。


しっかりOEKや石川県立音楽堂のチラシも置いてありました。

ホールのすぐそばには,高岡市美術館があったのですが,残念ながら閉館中


すぐそばをローカルな線路が走っていました。越中中川という駅でした。電車は見られなかったのですが...


帰る時,車の中から路面電車が見えました。富山には路面電車が残っているのがうらやましいですね。