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朝日新聞プレゼンツ オーケストラ・アンサンブル金沢 おしゃべりクラシック 2019 Vol.2
2019年9月17日(火) 14:00〜 石川県立音楽堂交流ホール

1) モーツァルト/クラヴィーアとヴァイオリンまたはフルートのためのソナタ ハ長調, K.14
2) 伝バッハ, J.S./フルートとオブリガートチェンバロのためのソナタ 変ホ長調,BWV.1031
3) ショパン/マズルカ変イ長調, op.50-2
4) ショパン/前奏曲変ニ長調, op.28-15「雨だれ」
5) ヴィドール/フルートとピアノのための組曲, op.34
6) (アンコール)ドビュッシー/小組曲〜小舟にて

●演奏
松木さや(フルート)*1-2,5-6, 永野光太郎(チェンバロ*1-2;ピアノ*3-6)



Review by 管理人hs  

9月17日,午後から休みを取って,「朝日新聞プレゼンツ オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK) おしゃべりクラシック」を聞いてきました。出演したのは,OEKのフルート奏者,松木さやさんとピアノ,チェンバロ奏者の永野光太郎さんでした。この「おしゃべりクラシック」シリーズには以前から関心があったのですが,なかなか行くことができませんでした。まだ「夏休みモード」が残っている時期ということで,OEKの松木さんのフルートを目当てに,休暇を取って聞きに行ってきました。その期待どおり,約1時間,石川県立音楽堂交流ホールでゆったりと楽しむことができました。

チラシのデザイン的には,「どう見ても松木さんが主役」というイメージでしたのですが,実は永野さんの方も大活躍で,フルートとチェンバロのための作品2曲,フルートとピアノのための作品1曲に加え,ピアノ独奏のための小品が2曲演奏されました。というわけで永野さんの方が出ずっぱりでした。

今回,フルートで演奏された作品は,モーツァルトとJ.S.バッハ(本当にバッハ作か不確実なのですが)のソナタとフランスのヴィドールによる組曲でした。標題のついた曲がなかったので一見地味目でしたが,松木さんのフルートには,いつもどおりの余裕たっぷりの美しさが溢れていました。不自由な部分が全くないような健康的な気分と優雅な世界を満喫することができました。音量の小さなチェンバロとの共演の曲でも,しっかりと音量的なバランスが取れており,伸びやかさだけでなく抑制された美しさも味わうことができました。

最初に演奏されたモーツァルトのソナタK.14(ヴァイオリンで演奏しても良いようです)は,何とモーツァルト8歳の時の作品です。この時期の作品は,チェンバロがメインのようなところがあり,フルートの方が「ドミソ,ドミソ」といった伴奏的なメロディを演奏していました。それがまた心地良かったですね。速すぎず遅すぎずの第2楽章は中間部の短調の部分も魅力的でした。

最終楽章では,チェンバロは,非常に繊細な音を使っていました。永野さんのトークが後からあったのですが「このチェンバロは,4フィートレジスターを使って1オクターブ上の音も同時に出せる。その下の方の音を消して,高音だけを聞かせ,「カリヨン風」にした(この説明で合っているか不安ですが)」とのことでした。フルートの音色とあいまって,小さな宝物を丁寧に扱うような美しさを味わうことができました。

伝バッハの曲は,「オブリガートチェンバロのための作品」ということで,まず,その意味について,永野さんから説明がありました。「オブリガートというのは,「なくてはならない」という意味。当時のチェンバロは,「左手のみ数字が書かれ,右手は適当(通奏低音)が多かったが,この曲は,右手パートもしっかり楽譜に書かれている作品」ということでした。

その説明どおり,まずチェンバロのしっかりとした音で始まりました。そこに伸びやかで親しみやすいフルートが加わると,曲全体の暖かみが増したように思えました。チェンバロとフルートのコラボレーションによる,全く過不足のない,理想郷のような世界が広がっていました。

この曲では,第2楽章のシチリアーノのかげりのあるメロディが大変有名です。松木さんの息の長い,流麗さのある演奏でたっぷりと楽しむことができました。すっきりしているけれども味のある演奏でした。第3楽章は三拍子系の曲で,しっかりとした歩みと品の良い前向きさを感じました。


この日は写真のとおり,チェンバロとピアノが並んで置かれていました

その後,永野さんのピアノ独奏でショパンのピアノ小品が2曲演奏されました。チェンバロの音も良いのですが,やはりピアノの音を聞くと,落ち着きます。そんなマズルカでした。「雨だれ」の方は,「やさしい雨」が降り注いでいるような感じでした。途中短調の部分で,その幸せな一時が中断されましたが,再度戻ってきて,平日の午後に聞くのにぴったりのムードに戻りました。曲の最後の部分で大きくルバートして,静かな雰囲気になり,「小さなドラマ」を感じさせてくれたのが絶品だと思いました。

最後に演奏されたのは,松木さんお気に入りの作品である,ヴィドールの組曲でした。組曲というタイトルになっていますが,楽章の構成的にはソナタと同様な感じでした。初めて聞く曲でしたが,各楽章のキャラクターの違いが鮮明で,大変親しみやすい作品でした。どの楽章もメロディが美しく,隠れた名曲(もしかしたらフルート界では有名な曲なのかもしれませんが)だと思いました。

第1楽章はクールかつすっきりとした演奏で,親しみやすさと哀愁が漂っていました。チェンバロとの共演の時と比べ,音域的にも広くなり,演奏全体の伸びやかさもさらにアップしている感じでした。第2楽章のスケルツォは,しっかり飛び跳ねるけれども,メンデルスゾーンの曲あたりを思わせる,品の良さを感じました。自由な軽快さが素晴らしいと思いました。

第3楽章は「ロマンス」ということで,こちらはシューマン的でしょうか。息の長いシンプルな歌を聞きながら,「この時間,終わらないで欲しい」と思いました。少し不安な気分が漂うのもその魅力を高めていました。第4楽章は短調の楽章で,聞き手をぐっとつかむような切迫感がありました。最後は爽やかかつ,華やかな雰囲気で締められました。

アンコールでは,ドビュッシーの「小組曲」の中の「小舟にて」がじっくりと演奏されました。この曲はオーケストラ版では何回も聞いたこともありますが,今回の演奏では,いつもにも増して,松木さんのフルートの美しさを堪能できました。

ホテルのレストランがランチタイムの時だけ,夜の時間帯よりもリーズナブルな価格設定で充実のメニューを提供する,というのは良くありますが,今回の公演の料金は,何と500円。リその雰囲気のある演奏会だと思いました。お客さんもとてもよく入っていました。というわけで,今後も平日午後の公演も「要チェック」と言えそうです。平日午後だからこそ優雅さが増す気もしました。機会があれば,また,このシリーズを聞きにきたいと思います。

PS, 演奏会の最後に松木さんからリサイタルの案内がありました。3月8日(日)金沢市アートホールで 東京オペラシティのB→Cシリーズとして行うとのことです。内容は、フランスのフルート音楽。大変楽しみです。
http://www.operacity.jp/concert/2019/bc.php

(2019/09/27)



公演の案内(演奏者名は入れて欲しかったかも...)